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「引きこもる大人たち34」親を殺さなければ打開できない"現状"
自宅に引きこもり状態だった千葉県市川市の少年(17)が父親(54)を刺し殺した事件は、社会に衝撃を与えた。少年は「引きこもりの現状を打開しようと、親父を刺した」と話しているという。
●ついに起きた殺人事件
長年、引きこもり問題を取材しているが、“現状を打開するため”に親を刺すなんていう話は、あまり聞いたことがない。しかし、『「ひきこもり」だった僕から』(講談社)の著者、上山和樹さん(40)は、こう推測する。
「ニュースだけでは細かい事情は分かりませんが、猟奇的に異常視しても有害なだけです。ひきこもりでは、自分のせいで親が苦しんでいる、という罪悪感や無力感が傷になっていることも多い。現状を打開するというのは、その自分の罪悪感こそが耐えられず、絶望的な無力感の傷口を刺してしまったという可能性もあるのではないでしょうか」
●当事者不在の支援策
冷たい風の吹く2009年。政府は地域協議会が“引きこもりの家”を特定し、相談員が自宅訪問して、就職体験させようという趣旨の「若者支援新法」(仮称)の制定を通常国会に提出する方針を年末に決めた。しかし、この支援新法の制定に、上山さんは、こう首をひねる。
「今は、働きたくても雇ってもらえない元気な人たちが、巷に溢れています。この状況で、ひきこもっている人をムリヤリ家から追い出しても、野宿者を増やすだけではないでしょうか。矛盾を感じずにはいられません」
引きこもる人たちは、本人自身がダメージを受けていることも多い。1度脱落したら、戻れない社会。しかも、履歴に空白のない人たちに比べ、2重の壁が立ちふさがる。
厚労省でも本年度から、「引きこもり地域支援センター」(仮称)を全国の都道府県に開設する方針だ。しかし、この施策も「親の意向を受けた成果」と、上山さんはみる。
●悲劇は再び…
「いま進められている支援では、利害当事者は親や国なんですね。苦しんでいる本人の声は、完全に置き去りです。ここ数年、ニートという流行語で支援が続きましたが、これだけたくさんの人が就労で苦しんでいるのに、施設を利用した人はわずかだった。巨額の税金を投じた支援事業が、すれ違いに終わっています」
無力感や罪悪感に悩み、揺れる引きこもりの人たち。上山さんは「これからは悩む本人たち自身が、取り組みを呼びかけるべき時期」と思いを語る。本人たちが安心して出ていける環境が施策に反映されなければ、悲劇はまた起きるかもしれない。
(池上正樹)
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