2009年2月19日

フロリダも悪くはないのですが、やっぱりアリゾナの気候がダントツに好きです。
雲ひとつない空が青くて、青すぎて高すぎて、ボールがむちゃくちゃ取りにくいですが、それはさておき、このからっとした空気が好きです。
夏は背中に重石を乗せられたように暑くなりますが、春のキャンプ地としては最高。
日本から同行している僕の両親も、初めての景色に見入っています。
あとどれくらいこの国でプレーできるかわかりませんが、僕がどんな場所で何を見て暮らしているか、できるだけ一緒に分かち合いたい。すでにあちこちを走り回っている両親は、すでに僕より近辺に詳しくなって、頼もしい限りです。

さて、アリゾナといえばサボテン。
近辺には、２メートル以上もある見事なサボテンが、あちこちに生えています。きっと「サボテンを描いてみて」と言われたら、誰もが思い浮かべるであろう・・・真ん中に緑色の太目の胴体があって、そこから手が生えているような、肘から先を上下に曲げているような・・・漫画によく出てくるサボテンです。
見ているだけにしておけば平和でかわいいこの植物。しかし、見たら最後、触りたいし抱きつきたいのが５歳児の宿命なのでしょうか。
何度言っても何度言っても、毎日庭のサボテンに「刺されて」、毛抜きで棘を抜いてやる、という繰り返し。家の中にもサボテンがあるので、「触ったらアカンで！」と言ったら「それはフェイク（ニセモノ）だったよー・・・」って、もう触ってるし。

同時に僕とヨメも、サボテンを愛でつつも、少し困惑しています。
道がまっすぐで、遠くには赤い岩山、沈む夕日であたりは真っ赤、という大変ドラマチックな光景で車を走らせていると、何もないところで何度もブレーキを踏みそうになる。道に沿うように生えているサボテンが、人影に見えてしまうのです。
ちょっと斜めに生えているのなんかは、片手を上げて、今にも道から飛び出さんと、じわじわこちらを伺っているよう。
（きっとサボテンに違いない）と油断して、本物の人をはねてしまわないように気をつけねば。

ところで、フロリダ、アリゾナ、２箇所に分かれてのアメリカの春のキャンプは、それぞれ「グループフルーツリーグ」「カクタス（サボテン）リーグ」と呼ばれています。
日本から来た取材陣の一人が、「グレープフルーツリーグ」のことを「パイナップルリーグ」と言い続けて、カージナルスの広報を笑わせたのは懐かしい思い出です。

日中は２８度近かった今日。だいぶ「春らしく」鼻の頭が赤くなり始めました。

アリゾナ州メサにて　田口壮　

2009年2月18日

カージナルスで一緒だったアーロン（マイルズ・二塁手）が再びチームメートとなりました。彼はレギュラーのセカンド。僕はマイナー。しかし、再会の嬉しさは立場をも越えるのでした。新チームで心細いのか、合流した日はずっと僕にくっついていたアーロン。アメリカ人でも新しい場所では不安になるもんなんやなあ。
そう思えば僕のドキドキなんて、しごく当然と納得できます。

監督は、ルー（ピネラ）。知的でナイスな御仁です。
どことなくトニー（カージナルス監督）に似た雰囲気があるなあと思っていたら、なんと大学の同級生で、仲良しらしい。まだじっくり話はしていませんが、
「うちに来てくれてうれしいよ！」とあちらから寄ってきて挨拶してくれました。
バッティング練習でも、
「わー、タグチが打ってるぞー！カブスキラーがカブスにいるぞー！」と、僕がリラックスするように気を遣ってくれます。
言葉は少なくとも、気にしてもらえている、というのを肌で感じるのは、何よりも心強いこと。今日も練習後、ロッカーで着替える僕の肩を、ポン、と叩いて出て行きました。そんな小さなことでも、初恋の相手に微笑んでもらえたような、単純な嬉しさがあります。

監督に気にしてもらえているから、メジャーに上がれるか、といえばそれは難しい世界。でも、自分が言い訳のできない環境を与えられている限り、どんな結果が出てもむしろすっきり受け止められる。そう信じています。

アリゾナ州メサにて　田口壮　

2009年2月17日

赤茶けた岩山があちこちに盛り上がっています。
まばらに生えた荒い草と、ビンクやオレンジに見える砂の大地に、
絵に描いたような大きなサボテンが点々としています。
化粧っ気のない素顔の地球を見ているようなアリゾナ・メサは、渡米するかどうかで悩んだ２００１年のオフに、自主トレーニングを行った場所。偶然にも、僕はカブスの春季キャンプで、この町に戻ってきました。
見覚えのある町並みや高速道路、道の名前を懐かしく思いながら、プロ１８年目の春がスタートです。

日本を発って、一度セントルイスに立ち寄り、アリゾナに入ったのが１３日。
１４日にキャンプサイトで練習を始めました。
初めてのマイナーリーグ契約で、僕の立場は「ノンロースター・インバイティー」という、メジャーキャンプへの招待選手です。
知らない場所で、知らないチームで、転校生のようなドキドキで過ごすここ数日は、今年４０歳の自分に喝を入れてくれているようで、どこか心地よい気がします。

健康診断のチームドクターが、僕の年齢を見て一言。
「えーと・・・・選手？それともコーチ？」
「・・・選手で〜す！」
「そりゃいいね！」

そういえばカージナルスでの一年目は、球場に着いて名前を告げたら「あんた誰？」と聞かれた。
進歩のない私です。

それにしてもアリゾナの気候はなんと心地のいいことか。
湿気がないので空気が軽く、朝晩は冷え込みますが、昼間はからっと晴れ上がります。
フロリダよりも、断然動きやすいのは否めません。
ネイティブアメリカン（インディアン）の色合いが強い土地。
メキシコ国境にも近いことから、ラテン系の住民も多く見られます。
寛の学校の先生も然り。ラテン訛りの英語で子供たちに接します。

僕のキャンプインに合わせたように、５歳の寛も今日が学校の初日でした。
迎えに行くと、満面の笑顔。
「どうやった？」
「楽しかったー。でも、先生が英語じゃなかった」

小さな身体で全米のあちこちを駆け巡り、大きな違いを学んでほしい。
僕もまた、これまでのメジャーの厚遇に感謝しつつ、再びマイナー選手としての環境から、ひとつでもふたつでも、何かを学んでいきたいものです。
今年も、這い上がる田口壮をよろしくお願いいたします。

アリゾナ州メサにて　田口壮　

田口選手宛のファンレターはこちらまで　letter@taguchiso.com