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社説:米自動車支援 保護主義への警戒を怠るな

 米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)とクライスラーが経営再建計画を提出した。両社とも大規模なリストラを行うことを表明したが、その一方で、GMは最大で166億ドル(約1兆5000億円)、クライスラーも50億ドル(約4600億円)の追加融資を要請した。

 GMとクライスラーの破綻(はたん)を回避するため昨年末、米政府は両社に緊急融資を行った。金融市場の崩壊を防ぐ目的で制定された金融安定化法を自動車会社に適用するという緊急避難的な措置だった。

 その際、経営再建計画の提出を命じていた。それに対する答えというわけだが、大規模なリストラを実施したとしても、自動車販売の不振が続く限り、危機的状況から脱するのはそう簡単ではない。

 世界的な景気後退は、住宅バブル崩壊に伴う金融危機から起こった。米国の金融システムは公的資金の大量投入によってどうにか支えられている状態だ。

 ローンを組んで買う商品の代表例が自動車で、金融システムの再生が進まない限り、米国での自動車販売の回復は望めないというのが実情だろう。

 ところが、この金融システムの再生がやっかいだ。

 GMはこれまでの支援に追加要請分を含めると支援額は総額300億ドルに達する。クライスラーへの支援も総額で90億ドルの規模だ。

 再建計画は、ガイトナー財務長官らを中心とする特別委員会で検証し、追加支援の是非を判断することになっている。

 ただし、負債を圧縮するための債務の株式化で、債権者との合意が整っておらず、退職者向けの医療保険基金についても結論が出ていない。

 さらに、追加融資をしても再建がおぼつかなく、米政府が資金を供給し続けなければならないという事態もありうる。

 そのため、連邦破産法を適用して再生手続きを進めるべきだという声も強い。

 しかし、米国でも雇用の悪化が深刻化しており、部品会社や販売網も含め巨大な雇用を抱えている自動車産業が大混乱に陥ることは、米政府としては回避したいところだろう。

 オバマ政権は難しい判断を迫られているわけだが、GMなどが倒産した場合のリスクを考えると、追加融資もやむを得ないのかもしれない。

 ただし、政府による自国企業への安易な支援拡大は、保護主義的な措置をとることを促しかねない。

 自国の自動車会社への資金支援を行う国が欧州で広がっている。また、なぜ自動車会社だけが救済されるのかという疑問も出てくるはずで、政府の支援が他の産業に広がらないとも限らない。

 保護主義への傾斜に対する警戒を怠らないようにしなければならない。

毎日新聞 2009年2月20日 東京朝刊

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