厚生労働省と文部科学省の専門家検討会が新人医師の臨床研修制度見直しの提言をまとめた。必修科目の削減と、都市部への研修医の集中を解消するために都道府県別に募集定員枠を設定することなどが柱になっている。
焦点となっていた2年の研修期間の短縮については、1年目は内科、救急、地域医療を必修とし、2年目は外科、小児科、精神科など五つから2診療科を選択させる。また、従来通り、各診療科を残り1年で回って研修を受けることもできることになった。当初は臨床研修を1年に短縮する案が有力だったが、医療の現場から「1年の研修では基本的な診療能力が習得できない」などの反対が強くあり、提言では「研修プログラムの弾力化」という折衷案を示した。
04年度から臨床研修が始まった結果、大学病院で研修する医師が減少、大都市などの病院などを選ぶ傾向が強まり、大学病院で医師不足が起きた。同研修制度が深刻な医師不足の原因を作ったとの分析や、大学病院での高度医療や医学研究の崩壊を懸念する声が上がり、昨年9月から見直しの議論が行われてきた。
提言を受けて両省は10年度からの実施を目指している。しかし、見直し案については検討会でも意見が分かれ、医療現場などにも賛否両論がある。コンセンサスができていないのに拙速に見直しを進めれば、臨床研修制度の改善も医師不足の対策も十分な成果は期待できない。
以下、いくつかの疑問や問題点を指摘したい。まず、臨床研修は医師養成のあり方が中心課題であり、医師不足の問題とは別に考える問題だ。同じ土俵で対応するのは難しい。研修のあり方を見直せば、直ちに医師不足が解消できるというほど単純な問題ではない。臨床研修は基本的な臨床能力を身につけさせる目的で始まった制度であり、当面の医師不足解消のために制度を変えるというのでは本末転倒だ。
臨床研修制度の目的は、大学病院の医局制の弊害を解消し、ただ働き同然で使われアルバイトで生活を支えざるを得なかった新人医師の処遇を改善することだった。今回の提言で、研修医が再び大学に戻るかどうかは分からない。大学に残って研修を行う医師を増やすためには、大学自身が魅力ある研修プログラムを作れるかどうかだ。
そもそも診療科ごと、また地域別に、何人の医師が足りないのかのデータがない。調査が難しいのは分かるが、基本的なデータ不足で医師不足を論じても有効な対応策は出てこない。
臨床研修に問題があれば見直しは当然だが、国民生活に大きな影響を持つだけに、意見が割れた場合には幅広く声を聞き結論を出すべきだ。急いで進めて失敗すれば、困るのは国民だ。
毎日新聞 2009年2月20日 東京朝刊