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社説

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医師研修見直し―良医を増やすためにこそ

 これは、よい医師を育てることにつながるのだろうか。

 厚生労働省と文部科学省の合同の検討会が、医師免許をとった新人医師に義務づけられている臨床研修制度の見直し案をまとめた。

 今は2年間に内科、外科、小児科、精神科など七つの診療科で学ぶことになっているのを、内科、救急、地域医療の必修にとどめ、残りは選択制にして、2年目から専門分野に進むことができるようにする。

 さらに都道府県ごとに研修医募集の枠を設けて、大学病院に優先的に配分する。研修する病院も、基準を厳しくして一定規模以上に絞り込むという。

 これによって大学病院で研修を受ける医師をふやそうというねらいだ。

 どうしてこんな提言が出てきたのか。理由は、医師不足問題にある。

 04年度から始まった今の研修制度で研修先を自由に選べるようになってから、出身大学に残る研修医が少なくなった。人手が足りなくなった大学病院が地域の病院から医師を呼び戻し、医師不足を加速させたといわれる。そこでもう一度、大学病院の医師派遣機能を立て直そう、というのだ。

 しかし、今の研修制度はそもそも、そうした大学の医局を中心とした臨床研修が専門分野に偏りがちだったという反省から、幅広い診療能力をもつ医師を育てようと始まったものだ。

 このためには、最低でも2年の研修が必要、との意見が根強くあり、病院団体の間にも「本来の研修制度の理念が曲げられる危険性がある」との懸念が広がっている。

 医師のなり手が少ない産科や小児科を必修からはずすことにも「研修をきっかけに興味を持ってもらう機会が減り、志望者がさらに減るのでは」と心配する声がある。

 医師不足解消の名のもとに、肝心の医師の質が下がってしまったのでは本末転倒ではないのか。

 そもそも病院の医師不足は、医療費の抑制政策などと深くかかわったものだ。病院への診療報酬を見直し、勤務医の過酷な長時間労働をなくさなければ根本的な解決は難しい。

 診療科や地域によって医師の数が偏っている問題もある。どの分野でどれだけの医師が不足しているかをきちんとつかみ、それに見合った医師を育てることも求められている。

 今急がなくてはならないのは、むしろ、こうした臨床研修を終えた後の専門医の育て方や医師の配置のしくみについての議論だろう。

 臨床研修の見直しは、あくまで患者が医師に何を求め、そうした医師を育てるのに何が必要か、という観点から進められるべきではないか。

 良医を育てるという臨床研修の原点を忘れてはならない。

米国の住宅救済―危機の病巣を除けるか

 世界的な金融危機の「病巣」である米国の住宅問題について、オバマ米大統領が思い切った対策を打ち出した。750億ドル(7兆円)の公的資金をつぎ込み、住宅ローンの返済に窮する900万世帯を救済するという。

 オバマ政権は、超大型の景気対策法を今週成立させ、金融安定計画をすでに発表している。今回の住宅救済策と合わせて、3点セットの大型対策を同時並行で進めることになる。

 米国の経済危機は、金融と産業と家計の三つが一体の構造をなしている。それぞれに並行してテコ入れしないと全体が改善しない。なかでも、家計に焦点を当てた住宅対策は悪循環に歯止めをかける要となるもので、具体策が待ち望まれていた。

 対策は大きく4本の柱からなる。

 まず、民間住宅ローンの金利上昇に苦しむ世帯が、低い金利へ契約変更できるように手を打つ。変更した貸し手業者に1件1千ドルを支給し、ローン金利の変更により生じる業者の損失の一部も政府が補填(ほ・てん)する。補填基金を設け最大100億ドルを出資する。

 次に、政府系の住宅金融公社が関与する住宅ローンも、低利へ変えられるように変更条件を緩和する。ローン返済額が所得のかなりの部分を占める世帯の負担軽減が狙いだ。

 第三には、これにより住宅金融公社の負担が拡大するため、公社へ注入した公的資金2千億ドルを、4千億ドルへ倍増させる。第四に、住宅の差し押さえが減るように破産法を見直す。

 現状では、ローン返済が行き詰まって差し押さえられた中古住宅が売りに出されるため、不動産相場がさらに下落し、金融機関の不良資産の増大を招いている。その結果、信用収縮が景気悪化と失業増大を進め、ローン返済の行き詰まりをもっと増やす。対策は、こうした悪循環に歯止めをかけることをめざしている。

 1月の住宅着工件数は1959年に統計が始まって最低を記録し、住宅市場の崩壊は止まっていない。住宅価格はあと10%以上も下がる、という見方もある。7兆円の公的資金により悪循環にどのていど歯止めをかけられるか、予断を許さない。だが、政策の方向性としては正しいのだから、この道を突き進んでみるしかない。

 住宅対策は、住宅金融公社への追加出資を含めると総額2750億ドル(25兆円)になる。景気対策法は7870億ドル(72兆円)、金融安定計画は最大2兆ドル(184兆円)。対策3点セットは天文学的な規模にのぼる。このため、財政の悪化懸念が金融市場へ不安を与えることも考えられる。

 こうした不安を抑え込むためにも、まずは3点セットを迅速に実行へ移し、政策の効果を一刻も早く引き出していくことが何よりも大切だ。

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