麻生太郎首相は、現職の首相としては戦後初めてロシア極東サハリン州を訪問、メドベージェフ大統領との首脳会談に臨んだ。懸案の北方領土問題では、独創的な新手法による解決を目指す方針で一致、プーチン首相の五月来日でも合意した。
今回の麻生首相のサハリン訪問は、日本企業が参画している石油・天然ガス開発事業「サハリン2」に関連した液化天然ガス(LNG)加工施設の稼働式典に招かれたものである。首脳会談は、日本による一層の技術協力や投資を期待するロシア側と、領土問題の打開へ交渉レベルを格上げしたい日本側の思惑が一致して設定された。
昨年十一月にペルーで行われた初の両首脳による会談で、メドベージェフ大統領は領土問題について「解決を次世代に委ねることは考えていない」と発言し、前進への期待を抱かせた。その一方、今年一月には北方四島への人道支援で国後島に上陸しようとした外務省職員らがロシア側から出入国カードの提出を求められ、支援が中止される事態も起きており話し合いの行方が注目されていた。
首脳会談で、大統領は「ロ日間の互恵協力拡大の用意がある」などと語った。領土問題ではロシア側の提案を受け、「われわれの世代で解決するため、型にはまらない独創的な新たなアプローチで作業を加速する」ことで双方が一致した。首相は「(領土問題は)日ロ間のすべてに引っかかる問題だ」として、政治が決断する必要性を強調した。人道支援の問題については、速やかな再開に努めることで合意をみた。
北方領土をめぐる日ロ間の交渉は、事態の打開へ近づいたかと思えば遠ざかる状況を繰り返してきた。平和条約締結後に歯舞群島、色丹島を日本に引き渡すとした一九五六年の日ソ共同宣言を基本に据えるロシア側と、択捉、国後両島を含む四島返還を掲げる日本の協議は平行線をたどり、行き詰まりの様相を呈している。
それだけに、手法を変えたアプローチを考える必要もあろう。しかし、両国とも安易な妥協が許されない政治状況にある中で、どう具体的に進めていけるのか道筋は不透明だ。
ロシアのいう独創的な新手法の具体的な中身も明らかでない。実権を握るプーチン首相は譲歩しない考えともいわれる。日本はロシア側の真意を探りながら、あくまでも四島返還を前提に新たな手法による戦略を練らなければならない。
経営危機に陥った米ビッグスリー(自動車大手三社)のうち米政府による緊急融資を受けたゼネラル・モーターズ(GM)とクライスラーが、求められていた経営再建計画を政府に提出した。巨額の追加支援を要請する内容で、オバマ政権は難しい判断を迫られそうだ。
GMは四万七千人を年内に削減し、五工場を閉鎖する一方、新たに最大百六十六億ドル(約一兆五千億円)の追加融資を求めた。クライスラーも計五十億ドルの追加融資を要請。三千人の人員削減や七億ドルの経費削減を年内に実施するとした。
販売低迷で資金流出が深刻化し、追加支援要請に至った。一月の両社の新車販売は前年同月比でほぼ半減している。
GMは特定ブランドに経営資源を集中して業績回復を図り、クライスラーもイタリア大手フィアットとの資本提携を軸に生き残りをめざす方針を示した。だが、米自動車大手の経営環境は厳しく、支援額はさらに膨らみかねない。残るフォード・モーターにもいずれ政府支援が必要になるとの見方もある。
危機を招いた経営判断や高い労働コストをめぐり、米国内ではもともと巨額支援に反発が根強い。支援が保護主義につながるのも事実だ。フランスでは政府の自動車産業支援が欧州連合(EU)内で批判を浴びた。
とはいえ、米自動車大手が破(は)綻(たん)すれば影響は大きい。融資している銀行や社債などを保有する投資家、日本企業を含む部品メーカーなどに損失が生じる恐れがある。米国にとどまらず、世界経済にとって一層の打撃となりかねない。
日本としては極力影響の少ない決着を望むしかない。米政府が今後、再建計画を審査する。世界経済への影響を念頭に慎重に対応を決めてもらいたい。
(2009年2月19日掲載)