若い女性の遺体を切り刻み、トイレに流すなどした異様で衝撃的な事件に司法判断が下された。殺人や死体損壊などの罪に問われた星島貴徳被告(34)に対する18日の東京地裁判決。「無期懲役に処する」。静まった法廷に裁判長の声が響いた瞬間、星島被告はうつむいたままだった。【伊藤一郎、銭場裕司】
午前10時、東京地裁104号法廷。丸刈り頭の星島被告は黒いトレーナー姿で入廷。顔をこわばらせて、裁判長の正面の席に座り、背中を丸め、うなだれたような姿勢で判決主文を聞いた。「死刑になって地獄でおわびします」と自ら死刑を望む発言をしていた星島被告。裁判長が約1時間にわたって判決理由を朗読し「被害者を物のように扱い、卑劣としかいいようがない」と厳しい言葉を投げかけても、視線を床に落とし、表情を変えることはなかった。
傍聴席では被害者の東城瑠理香(るりか)さん(当時23歳)の遺族10人が喪服姿で判決を見守った。公判で「瑠理香以上の恐怖や痛みを負ってほしい」と死刑を望む証言をしていた母親らは主文を聞いた瞬間、耳を疑うかのようにぼうぜんと裁判長を見つめた。
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公判証言などによると星島被告は高校卒業後に岡山県から上京しコンピューター会社でプログラマーとして働いた。事件当時の月給は約50万円。毎日約5000円かけタクシー通勤していたという。
「人を見下していた。自分は特別な人間と思うことで、やけどの跡も耐えるようにしていた」。幼少時に負った両足のやけどを引け目に感じ、女性との交際をあきらめていたという星島被告。かばってくれなかった両親への恨みも述べた。
しかし公判で裁判長が「両親への思いと、人を拉致して性奴隷にすることは違うと思うが」と問うと、星島被告は「普通に(女性と)付き合うのが無理と考え、じゃあどうするのかと考えたのが原因だと思う」と答えるのが精いっぱいだった。
死刑が選択されなかった点については、遺憾である。判決内容を精査し、適切に対応したい。
検察側の情緒的立証に対し裁判所は「冷静に判断しなければ」との方向に動いたのではないか。異常な事件で精神鑑定の必要があったし、死体損壊の立証に比べ殺害方法の態様の立証が不十分で、失敗とも言える。
裁判員制度を目前に控え、先例にもなる判断だが、死刑に当たる事案であり、検察は直ちに控訴すべきだ。判決は「強度の悪質性が認められない」と判断したが、被告に有利な点を重視し過ぎたようにみえる。
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◆星島被告公判語録
<1月13日・初公判>
性奴隷にするつもりだった。恋人のようになれると思った。
現実の女性と仲良くなることをあきらめていた。両足のやけどが原因で、気持ち悪いと言われるのを恐れていた。
<同14日・第2回公判>
痕跡を消すため、バラバラにして部屋に隠そうと思った。また元のまま暮らしていけると思った。(自分は)絶対に死刑だと思います。
<同19日・第3回公判>
(殺害直後、マンション内で東城さんの父と言葉を交わし)少し申し訳ないと思った。絶対に捕まりたくなくて、早く逃げ出したくてしようがなかった。
<同26日・第6回公判>
やはり死刑でおわびさせていただくしかないと思います。東城さんの無念、恐怖、苦しさを思うと体が硬直して何も手に付きません。どうしてこんなひどいことをしたのか、一日も早く死刑にしてください。(傍聴席の遺族に向かい)申し訳ありません。
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■ことば
東京や京都などで68~69年、4人を射殺し金を奪うなどしたとして強盗殺人罪などに問われた永山則夫元死刑囚(事件当時19歳、97年執行)の事件で、最高裁が83年7月に示した死刑判断の基準。(1)事件の罪質(2)動機(3)態様(殺害の執拗<しつよう>性・残虐性)(4)結果の重大性(被害者数)(5)遺族感情(6)社会的影響(7)犯人の年齢(8)前科(9)事件後の情状--を併せて考慮し、極刑がやむを得ない場合に死刑の選択が許されるとした。
毎日新聞 2009年2月18日 東京夕刊