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【社説】

女性殺害判決 遺族感情には配慮を

2009年2月19日

 東京都江東区の女性殺害事件で、被告に無期懲役の判決が出た。裁判員制度をにらみ、遺体切断場面などを生々しく再現した立証方法が用いられたが、遺族へのより細やかな配慮も求められよう。

 死刑か、無期懲役かが注目された裁判だった。元プログラマーの星島貴徳被告は、同じマンションの女性を殺害し、殺人や死体損壊などの罪に問われていた。

 東京地裁の判決は「残虐、冷酷な犯行だ」としつつも、「女性を自室に連れ込んだ時点では殺害や死体損壊までは意図していなかった」ことなどを考慮した。無期懲役となったのは、被告自身が謝罪したこともあった。

 もう一つ、大きく注目されていたのは、死刑を求刑した検察側が数多くの画像を用いた“ビジュアル立証”をした点である。とくに被告が遺体を切断した場面では、マネキンを使って再現した。細かく切断された肉片・骨片二百個以上の写真も、法廷の大型モニターで映し出された。

 事前に検察側が遺族に方針を説明してあったとはいえ、あまりに生々しい映像に、傍聴席から号泣する声が上がり、退廷した遺族もいたほどだった。

 被告の残虐性を訴える目的ではあるが、証拠とする場合には、もっときめ細かに遺族側に説明を尽くす配慮があってもよかったのではないか。傍聴席から見えないようにする工夫も考えられよう。

 また、被害者の骨片が行き着いた、ごみ処分場の写真まで法廷で映す必要はあったのだろうか。七五三や成人式など被害者の人生をたどる多くの写真も展開した。

 とくに五月からスタートする裁判員制度では、このようなビジュアル手法が多用されると予想されている。

 だが「わかりやすさ」を金科玉条にして、過剰に視覚に訴えられれば、裁判員の判断も情緒や感覚に流されやすくなる懸念が生まれる。裁判官にはそれを十分に留意した指揮を望みたい。

 事件と直接関係のない写真などは、その必要性に疑問符がつく可能性もある。判断に不当な影響を与える恐れもあるだろう。口頭での説明で足りるものなら、遺族に二度目の“被害”を与えないためにも、映像化に抑制的であるべきではないだろうか。

 裁判員の精神的な負担も大きな課題となる。残酷な写真でも、事件の証拠ならば直視せねばならない。「心のケア」の対策は十分に図られるべきだ。

 

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