中川昭一前財務・金融担当相の辞任を受け、与謝野馨経済財政担当相が三つの大臣ポストを兼務することになった。経済情勢が一段と厳しさを増す中、これまで経済財政諮問会議を取り仕切り、経済対策策定のキーマンとして働いてきた与謝野氏に、財政も含めて見てもらおうということだ。その意味では、「経済総理」という位置付けになるだろう。
しかし、経済危機下の緊急措置とはいえ、三つの枢要な閣僚ポストの兼務は異常だ。中川氏の財務相、金融担当相兼務にも、財金分離の趣旨に反するとの批判があった。今回は、経済財政政策の調査や企画立案から、予算編成などの政策執行、金融行政まで網羅するだけになおさらだ。
野党は、財務相交代に伴う本会議での財政演説やり直しや、首相も出席した総括質疑を求めている。中川氏の突然の辞任、経済財政政策の全権を把握する3ポスト兼務の経緯からすれば、これは理解できる。金融、財政のみならず、経済財政政策の調査・企画と具体的な財政運営は時として、利害が衝突する。こうしたことに対して国会がチェック機能を発揮することは当然のことだ。
麻生首相は任命権者である。国会の場で明確に説明する必要がある。与謝野氏であろうがなかろうが、こうした兼務は政策策定・運営の緊張感を損ないかねないのだ。
与謝野財務相は18日、衆院予算委で「景気回復に全力で取り組む」旨の決意表明を行った。ただ、野党欠席の中であり不十分だ。今後、予算委や財務金融委でも見解の表明はできるが、09年度予算の審議を促進し、早期成立を目指そうというのであれば、政府は与謝野財務相の財政演説には柔軟に対処すべきだ。
その上で、予算そのものの審議を深めればいい。適切で有効な景気対策には野党も異論がないはずだ。
09年度予算案や関連法案を与党が衆院で数の力で押し切ったとしても、その後に参院が控えている。さらに、自民党内で検討が始まった追加対策や09年度の1次補正予算となると、野党も巻き込まないことには、実現は危うい。
中でも、与謝野氏が持論の財政再建と景気テコ入れの財政出動との関係や、昨年末の持続可能な社会保障構築のための「中期プログラム」に盛り込まれた11年度から開始を目指す税制抜本改革への考え方は、あらためて表明する必要がある。財務相は税制改革を手掛ける当事者なのだ。経済財政担当相とは根本的に立場が違う。
与謝野氏も言うように経済の現状は、「戦後最悪、最大の経済危機」の様相を呈している。通り一遍の財政政策や金融政策ではすまない。同時に、短期の景気てこ入れの先にある中長期の構造問題も展望できる政策でなければならない。
毎日新聞 2009年2月19日 東京朝刊