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社説:日露首脳会談 「独創的」の真意を知りたい

 ロシア・サハリンで行われた日露首脳会談で、麻生太郎首相とロシアのメドベージェフ大統領は北方領土問題の進展へ交渉を加速させることで一致した。領土問題の壁は厚いが、政治対話の拡大を通じ粘り強く交渉を続けるしかない。

 今回のキーワードは「独創的で型にはまらないアプローチ」だ。日本側の説明によると、これは首脳会談でのメドベージェフ大統領の発言で、大統領は「双方に受け入れ可能な解決を見つける作業を継続する用意がある。この問題は世界にある他の問題と同じように解決可能と思っている」と述べたという。

 北方領土問題について日本は、「歯舞、色丹、国後、択捉の四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結する」とした1993年の東京宣言を基本にしている。ロシア側は平和条約締結後に歯舞、色丹両島を返還するとした56年の日ソ共同宣言の有効性を認めるところでとどまっている。

 メドベージェフ大統領は昨年11月の麻生首相との会談で「問題解決を次世代にゆだねる考えはない」と表明した。この発言と今回の発言を照らし合わせ、日本側は「より進んだ強い姿勢だ」と評価している。

 しかし、「独創的なアプローチ」がどのようなものかははっきりしない。既存の文書や諸合意を基本とするとしたロシア首脳のこれまでの発言から推測すると、日ソ共同宣言の2島返還を軸とした新しいアプローチを意味しているのかもしれない。だが、それでは日本側との溝を埋めるのは容易ではないだろう。

 ただ、先月ロシア側の突然の方針変更で中止された北方四島との「ビザなし交流」について、メドベージェフ大統領が再開に向け指示を出す考えを示したことは、領土交渉促進へのプラス材料にはなろう。

 そもそもこの制度は、相互理解の増進を図ることによって領土問題解決に寄与することを目的にロシア側の提案でスタートしたものだ。ロシア側は早急に再開を決め、領土問題を進展させるという熱意が本物であることを示すべきである。

 ロシアは原油価格の下落と世界的な金融危機の影響で深刻な経済危機にあり、日本との経済関係拡大に積極的だ。3年後にはウラジオストクでアジア太平洋経済協力会議(APEC)の開催が予定されていることもあり、アジア太平洋地域への関心を高めている。極東・東シベリアのインフラ整備に対する日本の先端技術協力への期待も大きいという。

 こうした環境は、経済協力拡大をテコに領土問題の前進を図ろうという日本にとって一見、“順風”のように思えるかもしれない。しかし、領土問題は国内の政権基盤が安定していなければ動かせるものではない。麻生首相にはそのことをしっかり認識してもらいたい。

毎日新聞 2009年2月19日 東京朝刊

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