メール投稿(茨城キリスト教大学文学部児童教育学科 鈴木範之先生)
カホン・ミッキー・やっちゃん・すえちゃん・リーノ・のり・マリリン・チロル(大学生7名+教員1名、茨城県)
紙やすりの街は、地下にあります。
地上の階段をずーっと降りていくと、そこに紙やすりの街があります。
地上のにぎやかな街よりは少し静かだけど、みんな穏やかに楽しく暮らしています。
紙やすりの街の人は、みんな仲良しなので、今は月に一度のお祭りのために大忙し
です。
明日が、その月に一度のお祭りなのです。
紙やすりの街には、いろんな色の紙やすりがあります。
その紙やすりは、1人1枚ずつ持っていて、その色がその人の性格を表しています。
その紙やすりは、紙やすりの城にいる王様からもらいます。
生まれたときには、まだ真っ白の状態のもので、成長していくと色が変わっていきます。
お祭りの前日にその紙やすりを王様に渡して、パワーをもらいます。
その紙やすりはプロポーズのときに使います。
男の人から女の人に渡すもので、心がキレイな人はカラフルで、性格の悪い人は色が黒くなります。
色がその人の性格を表すものなので、それを見て女の人はプロポーズを受け取るかどうかを決めます。
その2人が結ばれると、紙やすりは1つになって、紙やすりはキレイな色になります。
紙やすりのお城の王様も、紙やすりを持っています。
しかし、その紙やすりの色は、まだ誰も見たことはありません。
その紙やすりは、お城の奥の階段を登ったところにある部屋に、鍵をかけて置いてあります。
お祭りの日は、お城が開放されるため、みなそれを一目見ようとします。
でも王様は簡単に町の人には紙やすりを見せようとはしません。
ついにお祭りの日がやってきました。
その日街に魔女がやってきました。
魔女はその街のにぎわいを見て、今日がお祭りの日だと察しました。
街の人たちはそんなことも知らずに楽しく歌っていました。
魔女もお祭りに参加したいけれど、紙やすりを持っていません。
紙やすりの街では、紙やすりを持っていないとお祭りに参加することができないのです。
魔女は王様のお城に紙やすりがあることを知っていました。
魔女はどうにかして紙やすりを手に入れて、お祭りに参加したいと思いました。
お城に向かった魔女は、お城の番人たちを全員眠らせてしまいました。
魔女はお城中を探して、ついにその王様の紙やすりが置いてある部屋までたどり着きました。
その日は、たまたまその部屋の鍵が開いていて、王様の紙やすりを手に入れることができました。
その日は王子が結婚相手に紙やすりを渡す式典がある日だったので、王様は油断を
して鍵が開いていたのです。
実は街のみんなの紙やすりにパワーをあげる源こそ、王様の紙やすりだったのです。
そして王子にあげるパワーの源もその紙やすりだったのです。
しばらくして、その紙やすりがなくなったことに気がついて、城中は大騒ぎになりました。
それがわかったのは、お祭りの最中に王様がいきなり深い眠りについてしまったからです。
そう、王様の紙やすりは王様の命そのものなのです。
式典には大勢の人々があつまっていたので、王様が倒れてしまったことによってみんなパニックになってしまいました。
それを窓の外から見ていた魔女は、「すまないことをしたなあ」と紙やすりを王様に返しにいきました。
すると王様は目が覚めて、魔女は王様に「私はただお祭りに参加したかっただけなんだよ」と素直に謝りました。
王様はその魔女を許して、人間の娘の姿に変えてあげました。
かわいい娘になった魔女は、特別にお祭りに参加することを許されました。
王子は娘になった魔女を見て、「これほどまでに美しい女性は見たことがない」と思いました。
その王子の気持ちを雰囲気で察した王様は、娘になった魔女にも紙やすりを渡して、「色のキレイな方と結婚しなさい」と言いました。※
(※注 王子は男性だけど、王子クラスになると結婚相手を選ぶ権利があるのは王子なんだそうです)
王子の紙やすりの色は真っ白な色でした。
元々の婚約者の紙やすりの色は、これまで人からたくさん愛されていたので、オレンジに近いピンク色でした。
娘の姿をした魔女の紙やすりの色は、これまで人から愛されたことがなく、ずっと独りだったので、少し寂しい水色でした。
でもどちらもキレイな色でした。
二人の紙やすりを見た王子は、すごく悩みました。
悩みすぎて、王子は熱を出して寝込んでしまいました。
王子が熱を出して寝込んでいると、誰かが部屋をノックしてきました。
扉をあけると、王様が薬をもってやってきました。
王様は王子に薬を飲ませてあげました。
その少し前…
娘の姿となった魔女は王様のところに行って、「私の命と引き換えに王子を治す薬を作ってください」と王様に頼みこみました。
王子に飲ませた薬は、魔女が頼んで作ってもらった薬でしたが、彼女の優しさに感激した王様は、彼女の命はとりませんでした。
王様は、「ではそれと引き換えに、王子を諦めてくれ、これ以上王子を苦しめないでくれ」と言いました。
魔女は王子を諦めることを受け入れました。
王子が熱を出してうなっているときに、王子はある夢を見ました。
夢の中に妖精が出てきて、ある助言をしました。
「自分が本当に幸せになれる道を素直に選びなさい」
そして王子は夢から覚めました。
夢から覚めた王子はすっかり熱も下がり、自分の進むべき道を選びました。
王様から薬をもらったときに、その薬は魔女がお願いして作らせたということを知りました。
それを知り、王子は魔女の優しさに感激し、魔女を結婚相手に選びました。
そして王子の病気が治ったので、お祭りが再開されました。
一方、元々の婚約者は、「私(の紙やすり)もっと赤くなりたいわ!」と思っていました。
王子が熱を出している最中、タイミングよく別の男性にプロポーズをされ、その人と結婚しました。
王子と魔女の紙やすりも、元婚約者と男の紙やすりも、プロポーズが成立してどちらもキレイな色になりました。
王様のかけ声で街の人びとが紙やすりを空にかざすと、空一面はキレイな虹色になりました。
それはまだ誰も見たことのない、王様の紙やすりの色と同じでした。
(おしまい)
(備考)
「以前おてて絵本の講習会でお世話になりました、鈴木範之です。大学のゼミで、おてて絵本を行った際につくられた「紙やすりの街」を投稿させていただきます。(中略)今後、このお話を人形劇のようなものに発展させ、さらに音楽をつけ、保育園や幼稚園で披露しようという流れになりました。おてて絵本がこのようなプロジェクトをつくったといっても過言ではありません。今後ますますおてて絵本が普及していくことを、とても楽しみにしております。また何か進展がありましたら逐一ご報告させていただきたいと思います。」と、担当の鈴木先生。タイトルの「紙やすりの街」というのは、メンバーのあだ名の頭文字を組み合わせてつくられた言葉で、紙やすりの街がどんな街なのか、想像しながらおてて絵本をリレー形式で回していったそうです。それにしても、「紙やすりの街」、美しくそして感動的にまとまりましたね。 語り継ぎながら生み出されていく過程はさぞや盛り上がり感動的だったことだろうと思います。参加メンバーのニックネームのアナグラムがタイトルになるという着想もいいですね。
■「おてて絵本」は・・・おてて絵本普及協会へ
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