ヒラリー・クリントン米国務長官が来日し、麻生太郎首相や中曽根弘文外相らと相次いで会談した。就任後初の外国訪問である。歴代国務長官の初訪問先は欧州や中東諸国が多く、日本を選択したのは史上初めてだ。
中曽根外相との会談では、当初三月で調整していた麻生首相とオバマ米大統領との初の首脳会談を、今月二十四日にワシントンで行うことで合意した。クリントン氏は「麻生氏は、オバマ政権がホワイトハウスに招待する最初の外国のリーダーだ」と説明した。オバマ政権は中国重視との見方もあったが、外相会談で日米同盟を「アジア・太平洋地域の平和と安定の礎」として一層の強化を目指すことを確認した。歓迎できよう。
首脳会談は、四月二日の第二回金融サミットに向けて意見交換することになろう。クリントン氏は「世界経済が困難な中、一、二位の経済大国が協力することを示す絶好の機会だ」と強調した。日米両首脳は先頭に立って未曾有の経済危機に立ち向かう決意が問われる。
北朝鮮問題では、両外相は北朝鮮の核・ミサイル、拉致問題を包括的に解決し、非核化を実現していくため連携を強めていく方針で一致した。オバマ大統領が独裁国家の指導者との対話も拒まない姿勢を示していることから、日本側には頭越しの米朝直接協議で、拉致問題が置き去りにされるとの疑念があった。クリントン氏が拉致被害者家族と面会したのは、懸念を一掃する意図があったのだろう。
麻生首相との会談の後、民主党の小沢一郎代表とも会談した。米側の要望だったとされる。来日した米国務長官が野党党首と会談するのは異例だ。次期衆院選で民主党への政権交代の可能性が出てきたと判断し、布石を打っておくしたたかな狙いとみられる。
日本側は日米同盟強化確認を喜んでばかりはいられない。外相会談では在日米軍再編をめぐってロードマップ(行程表)の着実な実施で一致し、再編の一環となる在沖縄海兵隊のグアム移転に関する協定に署名したが、協定に明記された普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設は、沖縄県など地元と日本政府との協議が進んでいない。日本は重い宿題を抱えた。
オバマ政権の日本への期待の大きさに伴い、アフガニスタン問題などで負担要求も強まろう。日本はどこまで応じ、どんな役割を担うのかを決断することが大切だ。主体性がなければ、米追随となってしまう。
中川昭一財務相兼金融担当相が、先進七カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)閉幕後、ろれつが回らずもうろうとした状態で記者会見した問題の責任を取って麻生太郎首相に辞表を提出、受理された。国益を損なう前代未聞の醜態を世界にさらした責任は重大で辞任は当然だ。
中川氏は当初、二〇〇九年度予算案と関連法案の衆院通過後の辞任を表明していた。これに対し民主党など野党は即時辞任を求めて参院に中川氏の問責決議案を提出した。十七日中に辞任したのは、予算案審議への影響を最小限に抑えたいとの判断からだろう。
それにしても、ローマで会見に臨んだ中川氏の様子は常軌を逸していた。終始眠そうで日銀の政策金利を間違えたり、受け答えもしどろもどろでかみ合わず、過度の飲酒を疑われた。お粗末としか言いようがない。
ろれつが回らなかったのは「風邪気味で、念のため薬を倍近く飲んでしまった」と中川氏は釈明。「深酒」が原因との見方は否定したが、緊張感の欠如と閣僚としての資質を疑われても弁明はできまい。
中川氏の辞任劇は、いったんは続投を指示した麻生首相の迷走ぶりを際立たせた。盟友として知られる中川氏を起用した麻生首相の任命責任も厳しく問われよう。
支持率低迷にあえぐ中、郵政民営化をめぐる麻生首相の迷走発言などもからんで政権基盤は揺らいでいる。最優先課題である景気対策や予算を担当する中川財務相の辞任は麻生政権への致命傷ともなろう。
首相は後任に与謝野馨経済財政担当相を兼務で充てたが、野党は早期の衆院解散・総選挙を迫る構えだ。麻生政権は自壊寸前の末期症状を呈してきたと言わざるを得ない。
(2009年2月18日掲載)