5月28日(月)午後6時30分より、東京しごとセンター(東京都千代田区)で、ジャーナリストの小谷洋之さんが「11桁は住民票コードだけではない! 携帯電話番号が背番号に化けるとき」(主催:反住基ネット連絡会)と題し、講演会を開催しました。
自動追尾システムに代わる携帯電話
小谷洋之さんのお話によると、日本の携帯電話・PHSの台数は1億台を超え、普及率は78.5%に達したそうです。「住基カードをもってくれと言わなくても、携帯電話の動きを追えば個人の動きを追える。しかも、義務ではなく、自ら好んで持っている。権力側にとって都合がいいのは、発信機をつけているということ。自動追尾システムに成り得るものを持っている」と小谷さんは指摘しました。
犯罪が起きたとき自白が取れないと、警察は携帯電話の位置情報をとるそうです。保存しているので後で検索できるからです。その人の動きを知りたい時、捜査令状がなくても、携帯電話の会社は簡単に警察の照会に応じて教えるシステムができているそうです。小谷さんは、4月1日から始まった「緊急通報位置通知義務化」の全貌が分かったと述べ、携帯電話と交信しているアンテナ(ビルの屋上などに設置)の位置をもって「位置情報」ということを明らかにしました。
携帯電話の場合、通話していない時もどこにいるか情報を送り続けており、24時間オンにしていると、どこにいるかすぐに分かるそうです。オフにしても基地情報をとっているそうです。基地局は1〜2kmの間にあるといわれ、NTTドコモの場合はFOMA機種が対象となり、GPS搭載機種はGPS測位により位置情報が、それ以外の機種は基地局情報が警察など通報先に自動通知される仕組みになっているそうです。「ピンポイントで移動が分かる」と述べ、何十mの範囲で記憶し続けているので、電話番号を入れると現在地と過去に遡って検索できる、と語りました。
令状なしでも警察の照会に応じる電話会社
個人情報保護法ができた時、社民党の保坂展人衆議員が、携帯電話の位置情報について、法務委員会でNTTドコモの法務部の人間に質疑をしたそうです。警察の位置情報の照会にどうやって応じるのかと聞くと、令状がなくても任意で、(義務じゃない場合でも)どんどん教えている、と答弁したそうです。位置情報をどうやって把握するのか、という質問に対しては「過去ですか? 未来ですか?」とNTTドコモの人間が答えたそうです。未来の場合、電話番号を入れておくとそこから追尾が始まる。過去ではなく、常にどこにいるかリアルタイムで追尾できるシステムになっているそうです。
携帯電話の料金は距離によって電話代が違うので、請求するときどこからかけているのか調べる。データを2〜3年保存しており、それが位置データに使われ、アリバイ捜査に使われている状況があることを指摘しました。一応、番号の頭に「184」をつければ番号が表示されないとなっていますが、それは電話レベルのことで、NTTのシステムは全部把握しており、位置情報について権力側が教えてほしいと頼むと、簡単に教えてしまうそうです。今までは照会だったのが義務化されたことで、システムが警察に直結してしまった、と指摘しました。
緊急位置情報システムは地図上に現れます。かけてきた人の位置がわかるので、リアルタイムの追尾も可能となります。「個人情報保護法は、ここまで高度な情報を前提としていない」と小谷さんは述べ、料金以外にも広範囲に使われている可能性があることを指摘しました。裁判に出てくる証拠などからそのような使われ方をしていることが推測できると述べ、「怖い」との感想を漏らしました。
警察はまず携帯電話を押さえる
携帯電話の位置情報だけでなく、Suica、IC電子乗車券、クレジットカード、メールなどで、交友関係や、どこに移動しているのか、どこでどんなものを使ったのか、個人情報を固めるために、警察はまず携帯電話を抑える傾向になっているそうです。昔は偽名で借りることができたので個人と携帯が結びついていなかったのですが、「オレオレ詐欺」で携帯電話の不正利用防止法ができ、契約時に本人確認が義務化されました。それによって、個人と完全につながり、権力側にとって携帯電話によって集められた情報は個人の情報である、ということになったそうです。
「ナンバーポータビリティー(番号持ち運び制度)」によって、携帯電話の会社を変えても番号を変えなくてもいいとなると、限りなく住基ネットに似てくる、との認識を示しました。「住基カードを持てと言わなくても、勝手に同じ番号を国民が持ってくれる。これほど管理しやすいことはない」と述べ、携帯電話の番号が住基番号の代わりに使われる可能性について警鐘を鳴らしました。
携帯番号 事実上の国民背番号か
「このような状況になることを予想していた」と小谷さんは述べ、情報公開で総務省の「ナンバーポータビリティー」の検討資料を集めたとき、その中に「携帯番号事実上の国民背番号か」と1行書いてあったことを明らかにしました。携帯電話の番号の国民背番号化を期待していることが総務省の資料に書いてあったことに対し、「たまたまそう思っているだけなのか」と疑念を呈しながら、住基ネットの親玉である総務省が、住基ネットより携帯電話が国民背番号として使えるという認識をすでに持っていることの意味を問題視すべき、との認識を示しました。
「サイバー犯罪条約」に通信業者に対する通信ログの保存義務が盛り込まれていることに言及しながら、「携帯電話の不正利用防止法」「ナンバーポータビリティー」「サイバー犯罪条約」の3つでがんじがらめにした上で、携帯電話の個人情報を犯罪捜査に利用することを(警察は)明言している、と指摘しました。「ひも付き電話番号と照合すると何でも情報が把握できる。普通の人は無防備に持ち歩く。もし犯罪に巻き込まれたら過去のことも全部検索される」と述べ、その危険性を知っているジャーナリストの中には携帯電話を持ち歩かない人もいるそうです。
これは共謀罪ではないのか
小谷さんはまた、「ピンポイントの移動履歴」が集積されているという前提であるとしながら、高速道路の無料化を目指す「フリーウエイクラブ」の副会長の肩書きを持つ江戸川区議会議員の田中健さんが共同正犯で滋賀県警高速隊に逮捕された事件について語りました。同クラブは「高速道路の改革を促す」として通行料金のボイコットを続けていましたが、一昨年、道路公団の民営化によって道路法が改正になり、高速を無料通行することが犯罪になりました。
田中さんが逮捕されたのは、共犯としてつかまった会員の女性に(田中さんが)高速料金を払わずに通行させた疑いによるもの、としていますが、小谷さんの取材によると、事実はまったく違っていたそうです。「フリーウエイクラブ大阪勉強会」に田中さんと女性が参加していて、この勉強会の模様を撮影したビデオに田中さんが映っていたというだけで、女性と無料通行を「共謀した」とされ、逮捕されたのだそうです。田中さんは改正法が施行されてから無料通行はやっていないこと、実行犯の女性と面識もなく、勉強会では無料通行を進める発言もしていないそうです。
小谷さんはこの事件は「国策捜査」であると述べました。滋賀でやっている裁判を傍聴しているそうですが、そこには、まさに携帯電話の記録やメールの記録など無尽蔵に集められた裁判資料が、裁判の証拠として出てきたそうです。「これは共謀罪と同じ」と指摘した上で、「まず逮捕ありき。勉強会のビデオに映っていただけで逮捕された。どんどん交友関係を調べ、任意に連れて行く。供述調書をとって固めていく。
これが共謀罪の怖さ。共謀の段階で引っぱられる。起訴しなくても20日拘留することができる。権力にとっては相手にダメージを与えることができる。(田中さんは)メールやビデオの証拠で引っぱっていかれた。半ば強制的に拘束され、電話履歴で周囲の者から固めていく。起訴するかしないかだけの問題」と述べ、この事件が共謀罪の先取りであるとの認識を示しました。
現状をまず知ることが大事
共謀罪ができたらどうなるか。小谷さんは「携帯・メールで足がつく」としながら「(共謀罪ができたら)メール、通信内容、移動履歴でどんどん関係者を洗っていく。メールでも共謀罪が成立する。田中さんの場合は、ただ勉強会にいただけでは弱いので、事前に主催者とメールでのやり取りをしているのだから能動的だと裁判で検察官が言った」と述べ、「怖い。なんでもできるのかなあ」との恐怖感を抱いたことを明らかにしました。
さらに、「国の体制としてできるといったら必ず使う。(携帯電話は)簡単なコストで個人情報集積可能となって、現状に至る」と述べ、「まず知ることが大事」と強調した上で、現状を知ることの重要性を訴えました。
国民の動きを監視 進むシステム
去年5月、地下鉄日比谷線の霞ヶ関駅改札口に「バイオメトリック・カメラ」が設置され、顔認証の監視カメラの実証・実権のイベントがあった時、小谷さんは取材をしたそうです。これは顔のデータベース化で、その人の顔と実際に映った顔とマッチングし、いつだれがそこを通ったかをデータベース化していく技術だそうです。テロ対策として国交省が導入し始めたそうですが、その理由として東京オリンピックが口実となっているそうです。
実験のシステムは、あらかじめあるデータベースとリアルタイムに検索するに留まらず、蓄積してあとから検索することができるので、テロ対策でなく要注意人物をじっくりマークできることが判明したそうです。テロ対策と言いつつ国民の動きを監視するシステムであると述べ、NシステムやSuicaなど記名式が増えており、これに顔がついてくると完璧であるとした上で、「情報の高度化が進められている」との認識を示しました。
民間に監視カメラ設置 「成城方式」の問題点
小谷さんによると、当初の予想に反し、監視カメラは爆発的に増えていないそうです。それは、警察官が監視カメラを使うときは、緊急性があることなど厳しい条件がつけられているため使い勝手が悪く、これ以上増やすと憲法違反になりかねないこともあって、最近は「成城方式(成城警察署管内で去年から始められた)」に移行する傾向にあるそうです。
「成城方式」とは、警察や防犯協会が民間の家を回り、防犯カメラ設置を斡旋しているのだそうです。50万〜100万円ぐらいするそうですが、警察から言われると断りづらいこともあって、すでに100軒ぐらいがつけているそうです。南烏山がターゲットで、ここには地下鉄にサリンをまいた教団の本部があるので、安全に敏感な人たちが多いということも、取り付ける理由だそうです。防犯カメラに蓄積したデータを使うのは警察署です。
小谷さんは「(警備会社の)セコムを警察がやっているのと同じ」と指摘しながら、なぜ警察がそこに目をつけてきたのか、その理由について「自分たちが設置すると規制を受けるが、民間だと規制がない。税金を使わず、個人の負担で警察官が使えて法律上の問題もない。歌舞伎町カメラより民間のカメラが問題。個人の場合、法律に縛られることもない。警察がそこに目をつけた」とその狙いを明らかにしました。
管理が高度化 国民がんじがらめ
集合住宅安心安全条例によって、マンションや団地に監視カメラの設置が義務付けられています。(建築許可は各自治体が出しており、監視カメラをつけないと建築許可が下りないような法体系になっている)問題なのは、歌舞伎町カメラや住基ネットのときは大問題になりましたが、「成城方式」については、わずかに毎日新聞とプレイボーイなどが記事にしただけで、ほかはだれにも騒がれていないことだそうです。
小谷さんは、「これほど権力者にとってやりやすいことはない」と述べ、無批判に広がり、「成城方式」が量的に事実上の警察カメラとして設置されていることに警鐘を鳴らしました。バイオメトリックに代表される管理の高度化、商店などに設置されているカメラは警察が見るという協定を結んでいるところが多いこと、監視カメラ、携帯電話、クレジットカードなど、国民を監視するシステムが強化され、がんじがらめになっている状況に警鐘を鳴らしながら、事実を知ることの重要性を小谷さんは強く訴えました。
筆者の感想
小谷さんの話を聞き、携帯電話を使っていないときも位置情報を発信し続けているということを知り、大変びっくりしました。まさに「ピンポイント移動履歴」で、自分の行動が過去だけでなく、未来にも渡って監視されているというのは、非常に怖い気がしました。そのことを本人がまったく知らず、無防備に携帯電話を持ち歩いていることは問題であると感じました。
また、「フリーウエイクラブ」の副会長の肩書きを持つ区議会議員が共同正犯で逮捕されたというお話も、まさに共謀罪の先取りであるとの感想を持ちました。実際は、事件とはなんの関係もないのに勉強会の様子を撮影したビデオに映っていたとか、事前に勉強会の主催者とメールのやり取りがあったので能動的な役割を担っていたとされ、共同正犯を立証させられていく……。
携帯電話はもはや生活の必需品となった感がありますが、その弊害も含め、状況をよく理解した上で使うことの必要性を感じました。