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【性犯罪撲滅宣言】(上)「魂を殺す」死ぬよりつらい思い
新聞やメディアで報じられない強姦、強制わいせつ事件があることをご存じだろうか。茨城県警が認知した強姦、強制わいせつ事件は平成12年以降急増。過去5年間で年間平均約290件に上る。だが大半は、未発表だったり発表されても大きくは取り上げられない。目に見えないところで、確実に増え続ける性犯罪。警察も報道も「伝える難しさ」を感じている。
記憶に新しい埼玉県川口市のアパートでの女性殺害事件。同じアパートで3カ月前に強盗強姦事件を起こした男が逮捕されたが、この強姦事件も当初は未発表だった。「前の事件を知らせて注意を呼びかけていれば…」との見方もある。しかし実は、この種の事件は連続しなければ公表されない。犯人の逮捕さえ発表しないことも多い。
警察は被害者の人権と感情を最優先する。悪質な連続犯行も、被害者が1人も同意しなければ発表しない。ある県警幹部は「手口や発生地域を公表して注意を呼びかけ情報を求めたいが、被害者を傷つけることになる」と悩ましい実情を打ち明ける。
逆に、「発表して一時的にその地域でおさまっても、犯人は他の地域でやる。手口をまねるバカもいる」との声も。性犯罪広報については、全国の警察が頭を痛めている。
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いばらき被害者支援センターの照山美知子事務局長は「性犯罪は『魂を殺す』。家族や友人に理解されず何年も苦しみ自分を責め、命を絶つ被害者も」。悪質な強制わいせつ事件でも、姦淫に至らなかったというだけで、被害者は判決での「幸い未遂に終わり−」の裁判長の言葉に深く傷つく。
「被害を増やさないのも被害者の願い。手口を公表し、防犯意識を高めることも大切」と報道の予防効果を期待する。
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県警が先日、広報した元不動産会社社員、高木雄一被告(40)=強姦罪などで公判中=の犯行は悪質だ。つくば市などで17年夏以降、強姦・強盗事件31件を繰り返していた。同被告は、のぞきが高じて強姦魔になったという。マンションの雨どいをつたって高層階のベランダに侵入。窓を開けて眠る女性を次々と襲った。
ただ、警察が「犯罪」として確認できたのは、これだけ。被告本人は約60件の犯行を自供したが、29件は被害届が出ていない。世間に知られること、裁判での証人尋問を恐れて告訴しない被害者も多く、被害届が実態の半分以下というケースもざらだ。
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新聞やメディアもまた、情報を制限してきた。「性」がからむ報道だけに、どうしても表現に制約がでてくる。
ただ、分からないだけで、性犯罪は身近にある。この種の犯罪では、自宅さえ安全ではない。被害者の人生は大きく変えられてしまう。尊厳は踏みにじられ、死ぬよりつらい思いを味わう人もいるだろう。
もちろん、被害者のプライバシーを守り、二次被害を防ぐことは大切だ。しかし、「報道されないから」と残忍な犯行を繰り返す“悪魔”を許すわけにはいかない。
近年の自主防犯重視の風潮のなか、被害周知の要望は高まっていく。警察も、報道も、性犯罪を伝えることについて、見直さなければならない。
(池田美緒)