◆自殺報道が目につく
自殺についての報道が目につくようになった。とくに意識しているわけではないがネット上でニュースを検索しているうち、自然に目に入ってくるのである。
◆東尋坊の「志願者」とネットでの予告
さいきんの例だけでも
2月11日(水)17時9分配信 J-CASTニュース
<東尋坊で保護される自殺志願者「ものすごいペース」で増加>
2月12日(木)10時7分配信 時事通信
<自殺予告、95人を保護=通報増で過去最多−警察庁> などがある。
お読みいただければ分かることだが、前者は福井県の 「自殺の名所」東尋坊でパトロールし、自殺志願者を救う活動を行っているNPO法人「心に響く文集・編集局」の話を中心に構成した記事だ。
◆例年3、4人が16人に急増
東尋坊での自殺者は年間30人程度だが冬期は少なく、例年11月〜1月の期間に保護されるのはせいぜい3、4人程度。ところが08年11月〜09年1月にかけては、実に16人が保護されたという。さらに、そのうち7人が「派遣切り」に遭った人だという。
◆97年11月の経済崩壊直後と似る
別のNPOの、「97年度末の水準になるのでは」との声も紹介している。97年というのは11月に、拓銀(北海道拓殖銀行=都市銀行の1つとして位置づけられていた)、山一(4大証券の1つに数えられていた)など4つの金融機関が破綻した。
「経済崩壊」の恐怖が日本中を覆ったといえる。この年にも年末の12月から翌98年の1、2月にかけて自殺者は急増したのだという。
◆196人が予告
後者・時事通信の記事は、警察庁のまとめによる記事。08年1年間に全国の警察が通報を受けたネット上の自殺予告は、180件、196人で、前年より59件、75人増加。このうち160件、176人分の発信者を特定、95人を保護したという。保護した人数は前年より23人増え、このシステムが始まった05年10月以降最多となった。
◆98年、初の自殺者3万人超
J-CASTニュースが触れている98年は、日本の自殺が初めて3万人を超えた年だった。そしてその後、自殺者3万人の年はずっと続いているのである。警察庁の統計によると98年の自殺者は32,863人。対前年比8,472人(35%)も増えた。
◆男が「経済・生活問題」で死を選ぶ!
この年の自殺者の男女別は、男が40%増の23,013、女が24%増の9,850人で、男が多数という特徴がより顕著になった。
動機別では、(1)病苦など=11,499人(同27%増)(2)経済・生活問題=6,058人(同70%増)(3)アルコール依存症などの精神障害=5,270人(同15%増)――の順。
「経済・生活問題」の割合は18%で、前年より約4ポイント上がった。内訳は「負債」が2,977人(同59%増)、「事業不振」が1,065人(同75%増)、「倒産」が99人(同55%増)など。「経済・生活問題」で自殺した人の92%が男性で、働き盛りの30―50歳代が73%を占めた。仕事上の失敗や配置転換などの「勤務問題」も53%増の1,877人にのぼった。
◆自営業者が急増
職業別で急増したのが「自営業者」で4,355人(対前年比44%増)。「会社・団体の役員」469人(51%増)、「会社員」2,820人(42%増)などが目立った。
◆男の平均寿命が短縮に転じた
男性の自殺が激増したため98年の平均寿命は女性が84.01歳と、前年を0.19歳上回ったのに、男性は77.16歳で、前年を0.03歳下回った。男性の死因では、がんや心疾患など他の死因がすべて前年より改善したのに、自殺が約0.2歳分、寿命を縮める方向に働いた。差し引きして平均寿命は0.03歳押し下げられたという。
この年、人口10万人当たりの自殺率は26.0人。欧米各国の中で突出して高いフランス並みの高率となった。
◆99、03両年も「最悪」を更新
その後、99年はさらに185人(0・6%)増の33,048となり、2年連続で過去最悪を記録した。
◆07年「10年連続」が完成
2000年は31,957人、01年は31,042人、02年は32,143と推移したが、03年には、34,427人という史上最悪を更新してしまった。以後この「記録」は破られていないが、07年の33,093人まで、10年連続の自殺者3万人の記録が達成されてしまった。
97年経済崩壊が、この「自殺3万人の10年」を生み出したのなら、「100年に1度の危機」08年による、次なる飛躍は何なのだろうか?
◆戦争と同規模の死者
毎年3万人、10年連続だから30万人という数字は、たいへんな数である。米軍の戦死者は第2次大戦で約29万人、朝鮮戦争で4万人弱、ベトナム戦争で5万人弱と言われている。つまり日本は、戦争をやっていると同規模の人命を、自殺によって失っているのだ。
◆うつ・ひきこもり・ニートという戦傷者
戦争なら、死者の数倍にもなる戦傷者が出るとおっしゃる方もいらっしゃるだろう。しかし日本の自殺者の周辺にも、戦傷者にあたる膨大な数の人々がいるのである。うつ病の人たちや、ひきこもり、ニートなどである。
◆「認識の同時性」が成立した99年7月
ノンフィクション作家、久田恵の「世紀末の病い・ひきこもり百万人の悲劇」という文章が掲載されたのは、「文藝春秋」99年8月号だった。この号が発売されたのは99年7月10日ごろであり、日本の自殺者数が史上初めて3万人を超えたという98年についての集計を警察庁が発表したのは、同月1日だった。
◆背後に戦死と戦傷の関係
この事実は、自殺とひきこもりについて、いわば「認識の同時性」があったことを示す。自殺とひきこもりの関係は、戦死と戦傷に類似するからこそ、この認識の類似性が成立したのではなかろうか。
◆受験戦士から企業戦士へ
日本では青少年を「受験戦士」として育てる。完成した大人は「企業戦士」となる。受験戦争でも企業戦争でも、勝てば官軍で勲章でももらえるだろうが、敗者は戦死する。あるいは戦傷して戦線から離れる。それが日本の自殺と、うつ・ひきこもり・ニートではないか?
◆新語「おゆとりさま」に驚く
最近の新語・流行語で驚いたのが「おゆとりさま」である。会社のオフィスなどで、ゆとり世代がどこかおっとりした風情であるのを揶揄して「あの人はおゆとりさまだから」などと言うのだという。「戦士」でない人間が存在すること自体、我慢ができないのだろう。そのうちおゆとりさまがいじめにあって自殺するなんて事件が起きるのかもしれない。
◆戦死者まで生み出す(!)日本国内の疑似戦争で
他国とではなく、国内で日常的な疑似戦争を戦っている奇妙な国家・日本だからこそ、毎年3万人を上回る戦死者=自殺者が出ても平気なのかもしれない。