友人の誘いで、自殺防止のために電話相談活動を続ける社会福祉法人「京都いのちの電話」の電話相談員になったのは90年だった。相談員は全員ボランティアで交通費も自己負担。子育てと仕事をこなしながら、最初は軽い気持ちだったという。受話器の向こうの相手の訴えにどう対処していいのか戸惑い、いたずら電話にだまされることもあった。3、4年後、一緒に始めた友人が辞め、自身も辞めようかとも考えた。しかし、「まだ何もしていない。今まで出会った人に申し訳ない」と思いとどまり、講座などでカウンセリングの勉強を始めた。
電話でほんの1回話すだけの相手だが、同じ時間を共有して悩みをどのように分かち合うのか、そして個性や強みといった「宝」を相手から見つけ出すことにやりがいを感じるようになった。
しかし、もどかしさもある。相談員は決して電話先の人に会ってはならない。「死にたい」と話す若い女性。「駆けつけてそばにいてあげたい」という気持ちを抑え、「私とこうして出会えたのだから、他の人ともこうして出会う力があなたにはあるよ」と語りかけ、一緒に泣いた。
03年に夫がガンと診断され、亡くなった。しばらく休んでいたが、人手不足から復帰を依頼され、06年に相談員を目指す研修生の指導係として復帰した。
最近では「派遣切り」や就職難で思い詰めている人からの電話も多い。受話器を置いたら間をおかずに電話がかかってくる。人手不足を感じるが「相手と一緒に悩み考えることのできる相談員を育てたい。人にまなざしを向けようと思っている人はぜひ来てほしい」と力を注ぐ。【古屋敷尚子】
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社会福祉法人「京都いのちの電話」(相談電話075・864・4343)電話相談員を経て事務局研修担当主事。同法人では4月18日まで相談員を募集している。問い合わせは同法人(電話075・864・1133、ホームページhttp://kyoto‐lifeline.com/)
毎日新聞 2009年2月18日 地方版