【この記事は、2012年の日本で現実に起きるであろう日常を
シミュレーションした近未来ドキュメントである】
「いらっしゃいませ!」
相変わらず、元気で愛想のよい女の子がオーダーを取ってくる。
他のファースド店やスーパーからはレジが消えた。
代わりにアーチ・アカウンターを通り過ぎるだけである。
まるで高速道路か搭乗機乗り場のチェックのようだが、
仕方がない。
この世からキャッシュは消えたのだ。
だから、この店は逆に繁盛しているのかもしれない。
このM社は裏をかくのがうまい。
レジの女の子はオーダーを訊くだけのフォログラフィ(立体映像)である。
私は1個1万円のハンバーガーと18000円のコーヒーを頼み、アーチ・アカウントを過ぎ、決済を済ませ、窓際の席に着いた。
駅前通りをみると、車はほとんどない。
見かけるのは、電気自動車か、電動付き自転車である。
オートプログラムで、テーマ別に情報を収集してくれるG社の優れたツールが稼働する。
ディスプレイをタッチし、テロ・暴動の最新情報をみる。
世界各地では至るところで暴動が起きているが、マスコミは一切報道しない。
日本でもそうである。大手テレビ局は3つに統合され、すべて国営となった。
あとはローカルなケーブル番組しかない。
インターネット規制も特定のIDしかないと閲覧することも送受信することもできない。
もちろん私もIDを使っているが、裏ワザを使い、履歴が残らないようにしている。
先日、地下で遭遇した組織の情報は探したが、一切無かった。
彼らは危害を加えるどころか、懇意にしてくれた。
彼らは、列強の侵略から日本を守ろうと闘っていると語っていたが、
どうやら私の名前を聞いて、同志だと思ったらしい。
いや、あのトップの男は私の正体を知っているかも知れない...。
メールの着信音がした。
差出人は、私だ。
過去からのメールだ。
時間指定機能を使い、未来の自分へメールが送ることができた。
忘れていた。
今日はサイバーテロが起きる日だった。
と思うが早いか、レジのアカウンターが鳴り響いた。
決済しようとした男が慌てた。
「なんでだよ! 給料入ったばかりなのに!」
男はそう叫んだが、後の祭りだった。
拘束レーザーが張り巡らされ、逃げられなくなった。
駅前のポリスボックスからサイレンが鳴り響き、警官が駆けつけてきた。
私はその間、モバイル・パソコンで個人口座の照会をした。
「やられた...」
残高は"0"だった。
3億8千万円。一昔前なら、38万円。1ヶ月の生活費が消えた。
私はすぐにサイバーテロ対策のヘッジ保険から6億円分円転し、
別の口座へと移した。1億円分の掛け金だから、小儲けである。
まもなく、大手銀行がつぶれるだろう。