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時評コラム

猪瀬直樹の「眼からウロコ」

妊婦の「たらい回し」問題で改善案

 札幌市のコーディネーター制度は情報連絡を簡素化している。毎晩午後6時に総合周産期センターに夜間のベッドの都合を確認しておく方式で、その際の確認事項もNICUと産科の2つだけ。「○」「×」だけではなく、患者の状態やベッドの都合によっては受け入れられる可能性がある「△」があり、柔軟な話し合いができるようになっている。コーディネーターがこの情報をもとに当日の「第1優先」「第2優先」の病院を決定しておく。さらに実際にハイリスクの妊婦の搬送が必要になったときには、この第1、第2優先病院から確認すればよく、選定をスピードアップできる。細かなニーズごとのベッドの空き情報より、病院として受け入れるかどうかの意思表示を重視する点が、現在の東京都との大きな違いだ。

 また、緊急時にコーディネーターが受け入れ先病院と連絡を取る際には、電話の内容が録音されるようになっている。これは、あとから「言った、言わない」という食い違いを避けるためである。

 さらにPTでは、患者情報連絡票の簡素化を提案した。総合周産期センターへの搬送が必要となるようなハイリスク案件が発生したときには、必要事項を記入するモデルの情報連絡票がつくられている。しかし、現在このモデルの情報連絡票は、必要事項が多く複雑だ。この情報連絡票を簡素化して、情報伝達ツールをシンプルにする。

今すぐにやれることをやる

 「最後の砦」をはっきりさせるシステムを再構築して、「たらい回し」を防ぐ。行政が「荷造りする人」としての責任を果たすためには、シンプルな情報をできるだけ早く正確に伝え、調整するシステムを早急に作らなくてはならない。たしかにNICUや医師が不足しているのが根本的な問題であり、それらを増やせというのは正論である。しかし、医師を養成しているあいだにも、患者は発生する。今すぐにやれることは、札幌方式も参考に、東京のもつ医療資源を最大限に生かすことができるシステムを導入することだ。

猪瀬直樹(いのせ・なおき)
作家。1946年、長野県生まれ。1987年『ミカドの肖像』で第18回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。『日本国の研究』で1996年度文藝春秋読者賞受賞。以降、特殊法人などの廃止・民営化に取り組み、2002年6月末、小泉首相より道路関係四公団民営化推進委員会委員に任命される。政府税制調査会委員、東京工業大学特任教授、テレビ・ラジオ番組のコメンテーターなど幅広い領域で活躍中。東京都副知事。最新刊に『霞が関「解体」戦争』(草思社)がある。
オフィシャルホームページ:http://inose.gr.jp/
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