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時評コラム

猪瀬直樹の「眼からウロコ」

妊婦の「たらい回し」問題で改善案

 杏林大学のケースでは、産科当直医が手術中だったために、受け入れを断っていた。電話連絡を始めてから4時間後に、都立墨東病院がようやく妊婦を受け入れている。

9カ所も受け入れ先があることが、かえって無責任体制を生んだ

 東京都の周産期医療体制は、受け入れ先の選定や、受け入れ態勢の管理など、ある意味で完璧に近い制度をつくってきたはずだった。では、どうして「たらい回し」が起きたのか。医師はそれこそ36時間の徹夜勤務が常態化している。医師不足は厚労省の問題だが、すぐには解決できない。改善点があるとすれば、やはりシステムの問題だ。

 役所や病院ではなく、都民の視点、患者の視点から、システムを再点検する必要がある。これまで専門家の知恵だけでやってきた結果、システムに不具合が発生しているのだ。そう考えた僕は、11月14日、石原都知事に「この問題を東京都が放置してはいけない」と提案。その場で「では、あなたに責任者をお願いしたい」と都知事が即断して、PTが発足することになった。

 PT設置の発表直後に、インタビューで僕はこう答えている。

「今回の現象はシンプルな話なんです。東京都の医療キャパシティを『旅行カバン』にたとえるとわかりやすい。東京都は地方に比べれば大きなカバンをもっているのに、そこに、考え方がバラバラの9人が荷物、つまり患者さんを押し込もうとしているからうまく入りきらない。整理整頓ができておらず、限られたカバンの容量を最大限活用することができていないのです。一方、地方は、東京に比べればカバンは小さいけれど、1人が工夫して荷造りをしているので、何とか荷物が収まっている。東京都としてもっと上手な入れ方を考えるべき、というのが、私の基本的なスタンスです。この問題は一見すると複雑そうに見えますが、単純な現象だと考えています」(週刊文春2008年11月27日号より)

 東京都では、9カ所も受け入れ先があるということが、かえって無責任体制を生むことになった。「よそに任せればいいだろう」という意識になり、結果的に「たらい回し」が起きてしまった。問題を解決するためには、行政が「荷造りする人」をきちんと置いて、責任を果たす必要がある。

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