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【日露首脳会談】「政経分離」目指すロシア外交浮き彫り
【ユジノサハリンスク=遠藤良介】石油・天然ガス開発事業「サハリン2」の液化天然ガス(LNG)プラント稼働式典に合わせて行われた今回の日露首脳会談は、日本とロシアの経済協力を内外に示す一方、北方領土に絡む問題では明確な進展を見ないままに終わった。ロシアは「ビザなし交流」による訪問団に出入国カード提出を義務づけるなど、北方領土の実効支配を強めており、この日の会談でも「政経分離」を目指すロシアの外交姿勢が改めて浮き彫りになった。
日露間では1月末、ビザなし交流の枠組みで1992年から行われてきた人道支援活動が中止される事態となった。医療物資を北方四島に運搬しようとした外務省職員らが「出入国カード」の記載を求められ、拒否したためだ。ロシアは「カードは2006年の法改正ですべての外国人に求められることになった」(外交筋)と“技術的問題”であることを強調する。
ロシアはしかし、日本側が「北方領土の主権をロシアに認めることになる」として、出入国カード提出に応じられないことを十分に見越している。むしろ、これを機に、北方領土をめぐる日露関係の枠組みを見直そうとの政治的機運があるとみていい。
国後島などを事実上管轄するロシア南クリール行政区のコワリ区長は、「出入国カードはロシア人が日本を訪問する際も提出している」と、北方領土がもはやロシア領であるかのごとく語る。サハリン(樺太)州の消息筋は「約1000カ所あるロシアの全地区のうち、外国の人道支援を受けているのは(北方領土に該当する)2地区だけだ。これは国の威信の問題だ」と話した。
メドベージェフ大統領も今回の首脳会談で、「友好的、建設的に問題を解決するよう指示する」とは述べたものの、具体的な内容や解決のめどには一切言及していない。
ロシアが狙うのは、開発の遅れる極東・東シベリアに日本の投資を呼び込んだり、高度技術を移転したりして資源依存型経済からの脱却につなげることだ。
今回、ロシアにとって戦略的な意味を持つサハリン2の稼働式典に麻生首相を招待した理由もここにあり、首脳会談の際には極東・東シベリアで「官民一体の具体的なプロジェクトに取り組む」との合意がなされた。ロシアでは、「領土問題が解決せずとも日本はやってくる」との考え方が増長している。