◎日米同盟の強化確認 内政を立て直さなければ
クリントン米国務長官の日本訪問は、オバマ新政権の下、日米関係がまずは順調に新た
な一歩を踏み出したものと評価できる。麻生太郎首相、中曽根弘文外相との会談で、日米首脳会談の二十四日開催で合意し、日米同盟の一層の強化や北朝鮮核問題での連携を確認することにより、日米同盟が「アジア・太平洋地域の平和と安定の礎」であるとの共通認識をアジアをはじめ国際社会に示した意義は大きい。
クリントン長官が拉致被害者家族の代表と会い、深い同情の念と問題解決に協力する姿
勢をみせたことも歓迎したい。その一方、在日米軍再編計画の実現などで日本の政権の実行力がこれまで以上に厳しく問われることになった。沖縄普天間飛行場の移設問題が進展しない状況は、政権基盤がしっかりし、内政が安定していないと外交の成果も望み薄な現実をあらためて示す形にもなっている。
今回の日米外相会談で日本側の得点と言ってよいのは、対北朝鮮政策で「核、拉致、ミ
サイル問題を包括的に解決し、完全かつ検証可能な非核化を目指す」という言質をあらためて米側から引き出したことだ。また、米側により意義のある具体的成果は、在沖縄米海兵隊のグアム移転など在日米軍再編の行程表順守を明記した協定に署名したことである。
日本政府はこの協定を国会で承認し、条約に格上げする方針という。しかし、民主党な
どは慎重であり、国会審議の難航は必至である。米海兵隊グアム移転の前提である普天間飛行場の移設実現に、麻生内閣がさほど熱意を示していないことも問題である。
官邸が主導力を発揮して懸案を解決することが望まれるが、現在のように内政が行き詰
まり状態では難しい。日本の政権交代の可能性を念頭にクリントン長官が小沢一郎民主党代表とも意見交換したのは、日米同盟重視を強調する米外交当局としては当然であろう。
日本の内政にかかわる外交課題を処理し、同盟関係を新たな次元に引き上げていくよう
な大きな取り組みは、総選挙で民意の裏付けを得た政権の誕生を待つほかないといえる。
◎富裕層市場開拓 情報発信に一段の工夫を
海外富裕層市場の開拓をめざし、金沢市内で初めて開催された国際会議は、金沢や石川
県で富裕層の心をとらえる素材が豊富であることが強調される一方で、その魅力が伝わるような情報発信が十分になされていない現状も指摘され、今後の課題が浮かび上がった。情報発信の工夫は北陸新幹線開業へ向けた取り組みでも大きなテーマであり、最も知恵が求められる分野でもあろう。
目も舌も肥えた海外富裕層の旅のニーズは多様であり、まず彼らが求める「ぜいたく」
とは何かを的確に把握する必要がある。それに基づき、情報発信にも一段の工夫を凝らしたい。
経済産業省によると、レジャー目的の旅行に年間一億円以上を投じる富裕層は世界で十
万人以上おり、単純計算すれば経済規模は十兆円超になる。だが、お金持ちを招いて金を使ってもらうという安易な発想では十分な成果は得られまい。市場開拓の取り組みを通じ、彼らが好むとされる身近な「リアル・ジャパン」(本物の日本)の価値に自分たちが気づき、それに磨きをかける視点が大事である。
「第一回ラグジュアリーライフスタイル国際会議」では、単なる豪華さよりも、心づく
しのもてなしや自然を巧みに調和させた旅のスタイルなどが提案された。富裕層はお決まりの名所を回るだけでは飽きたらず、「特別な体験」「質の高さ」を重視し、日本独自の美術工芸や伝統芸能、歴史への関心も高い。そうしたこだわりにこたえていくことは石川の魅力づくりにも重なり合う。
二年前に能登半島を訪れた米国の富裕層ツアーでは、飛行機を降りた途端に日本的な里
山景観が広がる能登空港の立地条件が好まれ、一行はすぐに自転車に乗り、半島をツーリングした。何気ない日常の風景や営みでも、異なる文化圏の人にはそれが「非日常」「ぜいたく」と映ることの一例である。
自分たちとは価値観が異なる富裕層のニーズを把握することは、今まで気づかなかった
足元の魅力を知ることにつながる。その点でも、いまだ手つかずの富裕層市場開拓は大きな意義がある。