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憂楽帳:ある医療事故

 「訴訟が終わりましたのでお伝えします」。社会部時代に調べていた医療過誤の担当弁護士から連絡を受けた。事故は約6年前に起きた。裁判は勝訴的和解で終わったが、得たものより失ったものの大きさに遺族は喜べないでいるようだ。

 大学病院が舞台だった。狭心症でバイパス手術を受けた男性(当時67歳)の心臓を傷つけるミスがあり、詳細な内部告発を聞いた私は遺族を探した。弁護士を紹介し、裁判の動きを見守ってきた。

 刑事告訴や訴訟は、男性の2人の子どもが受け持った。教授による執刀だったこともあるのだろう。大学側はミスを否定し続けたが、手術チームにいた医師の一人が罪の意識から遺族に協力を申し出るという劇的展開になった。

 それにしてもである。6年を経ねば遺族が救済されないという事態は果たして正常だろうか。大学側が客観的に事態を調べ、きちんと謝罪していれば結果は変わったはずだ。遺族が奔走せねば真相が分からない現在の制度を変えようという動きが出てくれないか。そんな思いで、医療事故のニュースを読むようになった。【渡辺英寿】

毎日新聞 2009年2月16日 西部夕刊

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