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「妊婦の伴走者」40年2009年02月17日
町の助産院に、多くの妊婦や赤ちゃん連れの母親が足を運んでいる。多古町多古の佐久間助産院。開業して約40年の助産師・佐久間早苗さん(70)はこれまでに約4千人の赤ん坊を取り上げた。「私は妊娠というマラソンに付き添う伴走者」。厳しくも親身で接する態度が好評で、子育てや妊娠に悩む母親たちから母のように慕われている。(鹿野幹男) 10日の昼どき、佐久間助産院の一室で開かれた「勉強会」。生徒は赤ちゃんや幼児を連れた20人ほどの母親だ。 この日のテーマは「子どもの冷え性対策」。靴下を履かせた方がいいのか、どのぐらいの温度にすればいいのか……。まじめな顔つきで矢継ぎ早に質問する母親たちに、佐久間さんはにこやかな笑みを浮かべつつゆっくり語りかける。 「100点を目指したらダメ。子育ては65点を取るつもりで臨まないと」 佐久間さんは22歳で病院内で勤務する助産師として働いた後、30歳の時に父の診療所を継ぐ形でこの地に助産所を開業した。多古町や香取市など周辺だけでなく、県境を越えて茨城からも妊婦がやってくる。約40年間で約4千人の赤ん坊を取り上げた。中には2代で佐久間さんの世話になった母娘もいる。 出産時にはつきっきりで寄り添うが、妊婦には最初に必ず「どんなお産をしたいの?」と問いかけ、自分で妊娠と向き合うよう自覚を促す。その後、つま先から足や腰をくまなく触って体調を判断する。最近は足腰が冷えていて、35度ぐらいの低体温の妊婦もいる。そんな人には靴下やタイツを履いて足を温めるよう助言する。 「出産の基本はよく食べ、よく動くこと」と説き、和食中心の低カロリーの食事と運動を勧めている。そして「先輩の妊婦」である母親や祖母の忠告によく耳を傾けるよう注意する。 「先生の助産院に通うようになってから、娘が言うことをよく聞いてくれるようになった」と母親や祖母から感謝されることもある。 「用がなくてもやってきておしゃべりできるのが助産所。それが病院と違う長所かな」。自主的に一品持ちよりでの料理教室や赤ちゃんの体の仕組みを学ぶ勉強会が開かれ、母親たちはお茶を飲みながら子育てや産後間もない時期の体調などの悩みを本音で話し合う。七夕やクリスマスを祝う会には別の広い会場を借りるほど大勢の母子でにぎわう。 かつて助産院は出産の主役だったが、戦後は病院での出産が主流になり、助産院は地域から消えていった。日本助産師会県支部によると、自宅にベッド付きで開業している助産院は、佐久間さんを含め県内では9カ所だけという。 地域でのお産を守り、健康な体づくりの大切さを説くベテランも若い頃は不摂生の時期があった。多いときには1カ月に20人もの赤ん坊を取り上げた。寝る間もなく働き、胃潰瘍(・かい・よう)で体がボロボロになった。若い妊婦や母親がイライラや不安を訴えると自分の体験を踏まえて助言する。 「『いい加減』はダメだけど自分なりの『いい 加減』を見つけてね」
マイタウン千葉
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