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(2)フリーアクセスとその限界

受療行動には節度を

 前回わが国の医療制度は国民皆保険であり、国民は「いつでも」「どこでも」医療を受けることができると解説しました。これを医療へのフリーアクセス(自由の道)と呼びます。

 一見すると素晴らしい医療体制のようですが、これが医療現場の混乱をもたらしています。国民にとっては結構なシステムも、医療側から見れば無秩序な制度になります。

 極端な例を示すと、軽い風邪でも大学病院にかかることができるのです。大学病院へかかるということは、手間がかかるので実際はこのような例はありませんが、軽症の病気でも高機能の病院にかかるという例は数多くあります。

 本来、高機能の病院(総合病院、専門病院など)は、診断や治療の困難な患者さんのためにあるので、そこへ軽症の患者さんが押しかけると、医療現場は大変混雑することになります。

 また、いつでも病院にかかれることになると、せっかく予約制を取っていても守ることができなくなります。予約制でも、それが守れなくて苦情を病院に言う患者さんも少なくありません。

 その原因も病院の側にあるのではなく、システムにあるのです。

 一方、病院の経営は、長年にわたる国の医療費抑制のために厳しく、フリーの患者さんを受け入れると、医療法で原則診療を断ることはできません。

 世界のどの国でも、病院へかかるにはゲートキーパーがいます。日本でいえば、それは診療所や中小病院ということになります。できたら、こういう医療機関でかかりつけ医を持つべきで、一見の患者さんとなるより、親身な医療を受けられることができます。

 一番悪いことは、高度の救急医療のできる病院を便利だからなどといって、安易に利用することです。こうした安易な利用は、より重症の患者さんの治療に支障をきたします。

 フリーアクセスは、患者さんの権利です。しかし、その受療行動には自ら節度を持つことが重要です。現在では、これが守られていないため、病院崩壊の一因となりつつあることに留意する必要があります。

 (川原弘久・医療法人偕行会会長)

2008年8月5日  読売新聞)
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