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【から(韓)くに便り】ソウル支局長・黒田勝弘 日本アジア鉄道の夢よ

2月18日8時3分配信 産経新聞


 日本に行って新幹線に乗ったという韓国のお年寄りが「日本では『のぞみ』が走っているんだねえ。実に懐かしかったねえ」という。何のことかとっさには分からず「えっ、どうしました?」というと、実は戦前、日本統治時代の朝鮮半島でも「のぞみ」が走っていたのだという。

 戦前の鉄道時刻表を調べてみると、確かにあった。南端の釜山から朝鮮半島を縦断し、中朝国境を越えて旧満州の新京(現・長春)まで走る特急列車が「のぞみ」となっている。いや、よく見ると「ひかり」もある。

 当時の時刻表によると「東京・新京間、2867・5キロ、所要時間・54時間36分」となっている。さらに途中の奉天(現・瀋陽)から北京につながる列車の時刻表も出ている。

 日本の高速鉄道・新幹線の「ひかり」や「のぞみ」は、実は昔、同じ名前の列車が朝鮮半島から中国大陸に向け走っていたのだ。そのことを戦後派のぼくは最近まで知らなかった。しかし「ひかり」や「のぞみ」が戦後、新幹線としてよみがえった時、日本の鉄道界ではこのことが意識されていたのだろうか。

 新幹線に「ひかり」や「のぞみ」と命名した人たちはその歴史を当然、知っていたはずだ。ここから韓国の高速鉄道の話になる。

 韓国高速鉄道は「KTX(コリア・トレイン・エクスプレスの略称)」という何の変哲もない名前だ。列車に「ひかり」や「のぞみ」といった愛称もない。ぼくのような鉄道好きにとっては、なぜ「アリラン」と命名されなかったのか今でも不満だが、それはともかく、今でも残念なのは韓国の高速鉄道が日本の「シンカンセン」を導入しなかったことだ。

 KTXは1980年代末の盧泰愚政権時代に計画され、金泳三政権時代の1994年、フランスの高速鉄道TGV(テージェーベー)と契約、2004年に部分開通した。しかし始発のソウル付近と終着の釜山付近は在来線を利用しており、さらに大邱から古都・慶州や蔚山を経由する本来の新ルートはまだ建設中で、11年にならないと開通しない。

 ぼくはKTXに初めて乗った時、どこか安心(?)したことを覚えている。日本人としてフランス製TGVへの対抗心からだ。乗ってみて、ちゃちな感じのいかにも軽量で、狭くて窮屈な決してよくない乗り心地に「これじゃ新幹線の方が上だ」と実感した。

 座席の方向が固定されていて、乗客にとっては後ろ向きに走ることにもなるなど、不親切には驚いた。開通後も時間の遅れなどトラブルが相次いだ。そのたびに「日本の新幹線にしておけばよかったのに…」と思ったものだ。

 韓国は技術移転や借款など好条件のTGVを選択したのだが、当時の日本の消極姿勢は今思いだしても痛恨だ。とくに日本政府は何もしなかったに等しい。「また日本(新幹線)になったら何をいわれるか分からない!」という反日感情への過剰な気遣いなど、まったく腰が引けていた。

 韓国の鉄道は100年以上、日本システムで運用されてきた。今さらなぜフランスなのだ? 日本は世界に誇る経験と信頼の新幹線を「韓国のために」なぜ自信をもって強力に推さなかったのか。

 KTXは最近また、建設中の慶州回りの新路線で敷設済みコンクリート枕木15万本が不良品とわかり大騒ぎになっている。「新幹線にしておれば…」の思いは強い。

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最終更新:2月18日8時34分

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