中日新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 石川 > シリーズ現場 > 記事

ここから本文

【シリーズ現場】

へき地医療で臨床研修1カ月 90代、寝たきり独居も

2009年2月18日

公立穴水総合病院で1カ月間研修した四宮祥平さん=穴水町川島で

写真

金沢医科大から穴水総合病院に

四宮祥平さんに密着

 公立穴水総合病院(穴水町川島)に一月、金沢医科大病院の臨床研修医の四宮祥平さん(26)が着任した。新人医師が研修先を自由に選ぶことができる臨床研修制度が二〇〇四年度に始まって以来、同病院に研修医が来たのは初めて。わずか一カ月間の研修だが、へき地医療を体験した四宮さんに密着した。 (穴水・島崎勝弘)

衝撃の現状知る

深刻な医師不足

 「足動かさんと、弱っていくよ」「痛いさかい、動かされん」。四宮さんと患者の浦谷与志雄さん(81)の会話が聞こえてきた。

 穴水病院から車で十五分。横井克己院長(58)とともに訪れた山あいの鹿路(ろくろ)集落に、浦谷さんの自宅はある。肺炎から食事が取れなくなり、二〇〇七年に三カ月入院。家族は昼間働いており、退院後は月二回の訪問診療を受けている。

 二人の会話を聞いていた浦谷さんの妻八重子さん(71)は、病院に新しい医師が来たとうれしく思った。それが一カ月の研修と知り、「穴水の病院におってくれればいいがに」と残念がった。

 四宮さんは大阪府吹田市出身。父は祖父の代から続く開業医。親の背中を見ながら自然に医師の道を目指した。金沢医科大に進学後、感染症に興味がわき、将来は海外の医療設備が整っていない場所で働くことを夢見ている。

 そのため、へき地医療の現場を知りたいと、大学時代に一週間研修で訪れた穴水病院に再度、臨床研修を希望した。

訪問診療に訪れた四宮さん(右から2人目)=穴水町鹿路で

写真

   ◇  ◇

 今回の研修で、考えさせられることがあった。

 訪問診療先の九十代男性は寝たきり。独居だった。「食事などの世話はヘルパーさんがしているんですが、衝撃的でした」と四宮さん。過疎化や高齢化が急激に進行している地方の現状をあらためて思い知ったという。

 だが、そういった患者を助けるべき穴水病院はじめ、地方の多くの公立病院が医師不足などの原因で経営に苦しんでいる。

 穴水病院では大学病院の都合や開業で、〇五年度に内科医三人のうち二人が辞めた。診ることができる患者が減り、その年から赤字に転落した。

 今でも医師の補充はままならない。患者は減り続け、〇七年度の資金不足は七億三千百十四万円。町の財政をも圧迫している。

 「症例の多い都会の病院で、自分を磨きたいという気持ちは当たり前。今の研修制度では、研修先に選んだ都会の病院に就職する医師が多い。地方に医師を分散させる政策があれば」。四宮さんも医師が都市に偏る現状に不安を抱いている。

   ◇  ◇

 「今の医師としての志を忘れずに精進してほしい。できれば日本のへき地医療にも関心を持ってくれれば」。四宮さんを指導した杉盛恵(さとし)さん(66)はエールを送る。杉盛さんは県の地域医療人材バンクの第一号として、〇六年四月から兜(かぶと)診療所(穴水町甲(かぶと))に勤務。へき地医療の先輩だ。

 一カ月の研修で、四宮さんは「真っ先に患者のことを考える医師でなければ」との思いを強くした。四月からは地方の公立病院やその医療サービスを受ける高齢者の現状を胸に、金沢医科大病院の呼吸器内科に勤務する。

 

この記事を印刷する

広告
中日スポーツ 東京中日スポーツ 中日新聞フォトサービス 東京中日スポーツ