泥酔疑惑で醜態をさらした中川財務相が辞めた。新年度予算案の衆院通過をけじめに、と語って、間もなくだ。続投を指示した麻生首相の迷走ぶりも際立つ。あなたたちに国民の嘆きは聞こえるか。
わずか五カ月での政権の惨状に率直なところ目を覆う。世界第二の経済大国を自負し、そして深刻さを日々増していく経済危機からの脱出一番手を目標としたはずの政権が、救いようのない泥沼に自損行為ではまりこんだ。
中川昭一氏は主要国財務相らの重要会議があったローマでの失態をわび、国会で審議中の二〇〇九年度予算案と関連法案の衆院通過をけじめに引責辞任する、と昼の緊急記者会見で述べていた。
参院は関心の外だったらしい。衆院審議には静養する入院先から通いながら臨むとも言った。辞める大臣相手の国会論戦に多くを期待できるはずがない。その日のうちの辞表提出は当たり前だ。
衆院さえ通せば参院抜きでも予算は自然成立する、関連法も多数与党の衆院再可決で良しと踏んでいたなら、議会制民主主義下、それだけで閣僚失格だ。一時はそれを了とし、中央突破を決め込んだ麻生太郎首相の見識を疑う。
野党が激しく反発したのも無理はない。自民や公明の与党にも、事態をこじらせ時間を浪費する無分別を非難して、財務相即刻辞任を求める声が出た。議会人としての良心と受け止めたい。
思い起こすのは、所信表明の直後に辞意表明して入院、後継選出まで長期の空白をつくった元首相安倍晋三氏である。中川氏も麻生氏も安倍氏も大物政治家の二世、三世だ。国家観で共鳴し合う保守派論客の彼らが、国を強調する傍らで国をおとしめるような迷走を繰り返すのを、一体どう理解すればよいか。基本に欠けている。
“時間差”辞任の表明で混乱必至とみられた国会は元に戻る。だが、任命した首相は責任を免れまい。後任財務相を兼務する与謝野馨経済財政担当相の器量をもってしても、内外に恥の上塗りと映った政権の体たらくでは、予算と関連法の早期成立は難しかろう。
中川氏の失態収拾プロセスには「もうろう会見」を報じた海外メディアの好奇の目も注がれたはずだ。危機対応に定見もなく右往左往する首相に猛省を促す。併せて与野党の妥協点を早急に探り、解散・総選挙へ動くよう求める。
この期に及んでなおメンツ最優先では国の評判をまた落とす。
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