クリントン米国務長官が初訪日した。オバマ政権の「日本重視」の表れだろう。だが、同盟強化の名の下、突きつけた重い課題も見逃せない。日米新時代は賢く、しなやかな関係でいきたい。
初の訪問先は欧州か中東が通例とされる米国務長官が、アジア、中でも日本を選んだのは異例だ。日米関係を「アジア外交の礎石」とし「私たちは交渉相手に耳を傾ける用意がある」とするクリントン氏の発言をみても「日本重視」は単なるリップサービスだけ、とも言えまい。
その証しにクリントン氏は、海外首脳の中で麻生首相を最初にホワイトハウスに招き、二十四日にオバマ大統領と会談する日程を手土産とした。中川財務相の辞任など混迷続きの麻生政権にとっては朗報だが、たぶんほほ笑みの代償は安くはなかろう。
敵か味方か、の二者択一を迫ったブッシュ外交から、国際協調主義への鮮明な転換−。オバマ外交の特徴だ。日本側にすれば、米に従えば、身内として配慮してもらえた時代は終わり、国際社会の中で相応の役割を果たすことが今まで以上に求められるはずである。
米が目指す外交戦略は軍事力だけでなく、経済、文化などを組み合わせた「スマートパワー」だ。
オバマ政権がテロ対策で重んじるアフガニスタン問題に関し、中曽根弘文外相は隣国パキスタン安定化のための国際会議を日本で開催する意向を示した。スマートパワーの考えに沿った提案だが、米側の本音は日本に戦費負担や人的貢献を迫ることだろう。学校建設や教師育成など非軍事に力を入れる日本型支援をアピールする、さらなる努力が欠かせない。
解決の道筋が見えない課題は少なくない。両外相は在日米軍再編の行程表順守を盛り込んだ「在沖縄米海兵隊グアム移転協定」に署名した。沖縄県など地元の頭越しに二〇一四年までの普天間飛行場移設完了を両政府が再確認するのは疑問だ。グアム移転での日本の経費負担は巨額になる。詳細な説明責任を求める。
北朝鮮による拉致被害者家族ともクリントン氏は面会した。前政権がテロ支援国家指定を解除した北朝鮮との対話路線も視野に入れるだけに、核・ミサイルと拉致の包括的解決を粘り強く説きたい。
クリントン氏は小沢一郎民主党代表と厳しい日程をやりくりして会談した。政権交代の可能性がささやかれる中、米側の「意味深」な行動でもある。
この記事を印刷する