来日中のクリントン米国務長官と中曽根弘文外相がオバマ政権発足後初の外相会談を行い、日米同盟の強化を確認した。同長官は麻生太郎首相、浜田靖一防衛相とも会談した。
米国務長官の初外遊先は中東や欧州諸国がほとんどだった。日本を最初の訪問国に選んだ理由についてクリントン長官は、日米同盟は「米外交の要だから」と説明した。
日本政府は「対日重視のあらわれ」(中曽根外相)と評価しているが、日本が先か中国が先かなどと訪問の順番を競ってもあまり意味はない。問われるのは日米同盟の内実である。
オバマ政権は外交方針として、ブッシュ前政権の単独行動主義と決別し多国間対話重視の国際協調路線を打ち出している。協調路線とは、言葉を換えれば役割と責任の分担ともいえる。
両外相はさまざまなレベルで対話を進め、政策調整を強化していくことで一致した。日本は米新政権の発足を好機ととらえ、能動的な外交に取り組むべきだ。 たとえば、クリントン長官が「北東アジア安定の最大の課題」と位置づけている対北朝鮮政策だ。米政権の方針はまだ明確ではないが、挑発的な言動を繰り返す北朝鮮に対しては核放棄へ毅(き)然(ぜん)とした姿勢で臨んでもらわなければならない。日本はもっと注文すべきである。
クリントン長官が拉致問題を6カ国協議の一部と位置づけたことは評価したい。ブッシュ前政権は日本の反対を押し切って北朝鮮に対するテロ支援国家の指定を解除し、日本側に対米不信を残した。同長官がオバマ政権の高官として初めて拉致被害者家族と面会したのはそうした不信を解消したいという思いがあったからだろう。北朝鮮に対し拉致問題の解決を強く迫ってほしい。
両外相はパキスタン支援のための閣僚級国際会議の日本開催でも一致した。軍事的な貢献ができない日本としてはこうした分野での貢献に力を入れたい。
両外相は在沖縄海兵隊のグアム移転に関する協定に署名したが、普天間飛行場返還に伴う代替施設建設に関しては政府と地元の意見が対立したままだ。政府は基地負担軽減を求める地元の意見も踏まえながら調整を急がなければならない。
クリントン長官と民主党の小沢一郎代表の会談が実現したのは、次期衆院選での政権交代が現実味を帯びる中、早期の意見交換が望ましいとの双方の判断が働いたからだろう。同長官が求めて小沢代表と会談したのは、それだけ日本の政権の行方に米側が強い関心を寄せていることを示している。
同盟関係の維持・発展には信頼関係がなければならない。来週訪米しオバマ大統領と会談することになった麻生首相には大統領との信頼関係をつくってきてもらいたい。
毎日新聞 2009年2月18日 東京朝刊