中川昭一財務・金融担当相が17日辞任し、後任は与謝野馨経済財政担当相が兼務することになった。先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)後、ろれつが回らない状態で記者会見する醜態を世界にさらした中川氏の責任は重い。辞任は当然だ。
ただし、さらに驚かされたのは、この期に及んで中川氏が当初、09年度予算案と関連法案が衆院を通過した後に辞表を提出すると「条件」を付けたことだ。
いったん辞任表明し、死に体となった担当相が今の深刻な経済危機を乗り切ることができないのは明らかなはずだ。中川氏は一転、夜になって辞表を提出したが、麻生太郎首相も「予算案通過後辞任」でよしと判断していたとすれば、その危機感の乏しさにあきれるほかない。
中川氏は、もうろうとした状態だったG7後の会見は、飲酒ではなく体調不良が原因だったと改めて説明し、「健康管理の不注意で関係方面に多大な迷惑をおかけしたことをおわびしたい」と謝罪した。「予算案通過後辞任」というのは、自らの進退を引き換えに野党に速やかな予算審議をうながしたいと考えたのかもしれない。
だが、世界同時不況が刻々と深刻化する中、他国の財務相らが中川氏を信頼して政策協調を持ちかけはしないだろう。一方、野党は17日昼に中川氏が辞任表明した後、問責決議案を参院に提出。今後、審議が滞るのが確実になり、やっと与党からも即時辞任を求める声が強まったのが実情だ。
それにしてもお粗末だったのは麻生首相の対応だ。16日には「体調管理をしっかりして職務に専念を」と中川氏に続投を指示。17日も自ら動こうとした形跡は見当たらない。国民がどんな思いで今回の醜態を見つめていたか。なぜ深刻さに気付かないのか。
中川氏の不安定な言動はかねて指摘されていた。それでも盟友だったからか、中川氏を起用した首相の任命責任はもちろんのこと、この間の対応も厳しく問われるのは確実だ。
自民党執行部の中には「もうろう会見」の直後から「中川氏で乗り切れるか」との声もあったようだが、誰も責任を持って収拾に動かず、結局、辞任劇もしどろもどろとなった。既に指摘している通り、これはやはり政権末期の症状だ。
危機管理能力の欠如も露呈したことで、国民の間にはますます「この政権で大丈夫か」との不安が募るだろう。与党内で語られている09年度予算案成立後の追加経済対策も国民のためというより、麻生政権の延命のためと映る人が多いだろう。
今後、政権を立て直す材料は極めて乏しいと思われる。そんな閉塞(へいそく)感を打ち破るためにも早期の衆院解散・総選挙に踏み切り、政治をリセットすべきだ。再度、そう求めておく。
毎日新聞 2009年2月18日 東京朝刊