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【特報 追う】「病院無床化凍結を」 住民ら再度請願へ 2月県会で審議
医師不足を背景に岩手県医療局がまとめた県立病院等の新経営計画最終案は、17日開かれた医療制度改革推進本部(本部長・達増拓也知事)に報告され、6つの医療機関で入院ベッドが廃止されることが事実上決まった。昨年11月に計画素案が示されて以来、無床化見直しを求めてきた関係市町村の住民らは、再三にわたる意見、要望がほとんど反映されていないとして一層反発を強めている。この問題は19日開会の2月県議会定例会で審議されるが、達増知事を支える民主党県議団の間でも賛否が分かれており、対応によっては今後の県政運営などに影響を及ぼしかねない情勢だ。(石川裕司)
「無床化計画の一時凍結をよろしくお願いします」−。県議会議事堂内は今月10日午前、無床化計画の対象となっている医療機関を持つ6市町村の住民ら約60人の声であふれた。医療局がまとめた計画最終案を県議会に説明するのを前に、計画見直しについて地元選出の県議らに働きかけるために集まったのだ。
住民たちの願いを背に受けて始まった報告会だったが、計画そのものは最初の素案と大筋で変わらない厳しい内容。多くの県議から非難や不満が相次いだが、田村均次局長はじめ医療局側は「医師の勤務は過酷であり、医師不足の中でいまの状況ではやれない。計画通り実行したい」とこれまでの主張を繰り返し、議論は最後までかみあわなかった。
県議の報告を受けた後、6団体でつくる県地域医療を守る住民組織連絡会の及川剛代表(紫波町)は会見で、「住民組織としては説明会、懇談会で述べた多くの意見、対策が成案にどれだけ盛り込まれるか期待していたが、大きく裏切る内容だった」と怒りをあらわにし、改めて県議会に請願を提出し、広く県内各地の住民団体にも参加を呼びかける方針を明らかにした。
この問題がクローズアップされたのは、県医療局が昨年11月中旬に新経営計画素案を公表してから。5つの地域診療センターは、前回の見直し計画で県立病院から“格下げ”となり、病床数を大幅に減らされたばかり。しかも、無床化計画の実施まで半年もないとあって自治体や地域住民の反応は早かった。それぞれ住民団体を結成して計画の見直しを求める運動を開始し、12月には達増知事に約4万3000人分の署名を添えて陳情したほか、県議会にも請願を提出した。
請願審査にあたっては、達増県政をバックアップしている最大会派の民主・県民会議所属県議(21人)も対応が二分。結局、請願は「4月からの実施を一時凍結し、協議を継続すべき」との付託意見をつけて賛成多数で採択された。
その後、医療局が実施したパブリックコメント(意見公募)では無床化計画案に反対、慎重な意見が8割を超え、1〜2月にかけて6地域の住民を対象に行った説明会、懇談会でも一時凍結を求める意見、要望が大半を占めた。
それにもかかわらず、医療局が当初の計画通り4月からの無床化移行を決めたことについて、田村局長は「昨年、今年と2年続いて県立病院の医師は30人近く退職しており、医師不足は危機的状況。なんとか地域医療を守るために知恵を絞って計画をつくった」と早期実施への理解を求める。
また、達増知事も定例会見などで「計画案がベストの案と思っている。住民自らが地域医療を支えるのが重要」と医療局の立場を強く支持している。
これに対し、及川代表は「4月からの実施という無茶なことはやめてほしい。一時凍結して十分に話し合ってほしいというのがわれわれの願いだ」と訴える。
一方、16日には民主・県民会議所属議員を除く26人の県議が、達増知事に4月実施の一時凍結を求める要請書を提出するなど県議会でも新たな動きが出ており、2月定例会の審議が注目される。
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岩手県立病院等の新しい経営計画(平成21−25年度)案 紫波(紫波町)、大迫(花巻市)、花泉(一関市)、住田(住田町)、九戸(九戸村)の5地域診療センター(病床数各19床)を4月から、岩手町の沼宮内病院(同60床)を来年4月からそれぞれ入院ベッドを廃止し、無床診療所とするのが柱。
県医療局は、住民説明会、懇談会などで出された意見などを参考に、入院が必要な患者の受け入れ先の確保▽交通アクセスの確保▽(無床化に伴う)空きスペースの利活用▽関係市町村との情報交換の場(市町村連絡協議会)の設置−の4項目を計画最終案に追加した。