2009年2月17日 23時54分 更新:2月18日 0時54分
先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)終了後の記者会見でろれつが回らないなどの醜態を演じた中川昭一財務・金融担当相が辞任したのは、世論の厳しい批判を受け、政権の致命傷になりかねないと麻生太郎首相が判断した結果だ。ただ、首相は当初続投を指示し、それが一夜にして辞任と対応が迷走したことで、政権の危機管理能力の欠如は覆いようもなかった。重要閣僚でかつ盟友の退場は、低支持率にあえぐ麻生内閣に極めて大きな打撃となった。
16日午後6時27分。野党から辞任要求の声が上がる中、中川氏は首相官邸を訪れた。「首相並びに日本に大変ご迷惑をおかけしました」。陳謝する中川氏に、首相は「体調に十分配慮して、体調管理をしっかりして職務に専念してもらいたい」と叱咤(しった)したが、同時に「脳梗塞(こうそく)じゃないのか。小渕(恵三)元首相の時と似ている。検査してもらえ」と盟友への気づかいも見せた。中川氏は助言に従い、同夜と17日午前、都内の病院で検査を行った。
中川氏がG7に出席した際、飲酒していたことは官邸サイドもつかんでいた。政府高官は16日朝、「(マスコミも)一緒に飲んでいたそうじゃないか」などと語っていた。
しかし、記者会見での醜態は飲酒だけが原因とみていなかった。中川氏は実際に体調を崩しており、「薬を多めに飲んでしまった」との説明で事態は乗り切れると踏んでいた。自民党関係者は「首相も盟友の不祥事ゆえに判断が甘くなり、収まると思ったのではないか」と推測する。
官邸サイドにはまた、経済危機の中、野党側が中川氏追及を理由に予算審議を引き延ばせば、「野党側にも批判はいく」(政府高官)などとの読み違いもあった。中川氏も続投に意欲を見せ、検査で脳梗塞の懸念も払しょくされ、政治決断が必要との認識が薄いまま、時間が過ぎていった。
事態が急転したのは、一夜明けた17日朝。「テレビに映っている自分の姿を見てギョッとした。辞めたい」。中川氏は首相サイドに辞意を伝えた。中川氏が記者会見直前にも報道数社の記者と飲んでいたことが判明し、「朝刊各紙の論調が予想を超え厳しいものだった」(政府関係者)ことで、官邸内にも危機感が広がった。首相周辺は「中川氏を入院させ、そのまま辞任させるべきだ」と首相に進言した。
一方、辞意を固めた中川氏は首相と大島理森国対委員長に、09年度予算案と関連法案の衆院通過後に辞表を提出する意向を伝えた。「(通過までは)全力を尽くしてやれ」。首相と大島氏は、予算案の衆院通過後の辞任を了承したが、これも「認識の甘さ」をすぐに痛感させられることになる。
体調不良で辞任するが、予算案の衆院通過後までは留任するというのはしょせん取り繕いの策。野党に加えて、自民・公明両党内からも「辞任するのならば、即刻辞任すべきだ」などの批判が噴出した。
「体調が悪くて、あのような心配をかけるようなことを起こしたが、医師の指導に従ってギリギリの体力の中でやり遂げたいということ」。河村建夫官房長官は午後4時からの記者会見でこう説明したが、5時過ぎには、国会内で首相と対応を協議。一転して、「このまま問題を長期化させれば、内閣の致命傷になりかねない」との認識で一致した。河村氏は午後6時過ぎに電話をかけてきた中川氏に、「これから官邸の首相執務室に来てもらいたい」と、辞表提出を求めた。
折しも、クリントン米国務長官の来日中に起きた辞任劇。首相官邸内からは「せっかく前に進もうという時に、そうさせないことばかり出てくる」(政府高官)とのぼやきも漏れた。【西田進一郎、坂口裕彦】