フィギュアスケートの4大陸選手権でライバル金妍児(韓国)の後塵を拝した浅田真央。不調の原因をめぐっては「怪情報」が流され、「真央ちゃん」を大いに困惑させた。そればかりか、彼女の「強化体制」そのものを揺るがす重大事案が浮かんできたのだ。
「グランプリ(GP)シリーズ、GPファイナル、国内選手権、4大陸選手権と連戦なので、真央ちゃんに限らず選手がどの試合にも全力投球するというわけにはいきません。4大陸選手権でジャンプが不調だったのは、3月の世界選手権を見据えての調整過程だったからなのです」(現地取材をしたスポーツライター)
カナダ・バンクーバーで開かれた4大陸選手権(2月4〜7日)で、ショートプログラム6位の出遅れが響き、3位に終わった浅田真央選手(18)‖愛知・中京大中京高3年。冒頭のような冷静な分析がある一方で、演技全体に精彩を欠いていた点がクローズアップされた。
そうしたなか、共同通信が2月7日に配信した一本の記事が思わぬ波紋を広げていたのだ。問題は次のくだりである。
「1月中旬の練習で右ひざを痛め、その後は十分な練習が積めていなかった」
右ひざ故障と報じられた浅田本人は、現地の会見で「それは全然ないです」と全面否定し、まったくの「怪情報」扱いだったという。それだけでは収まらず、「右ひざ故障」の出所をめぐってはタチアナ・タラソワコーチ(62)や浅田がマネジメント契約するIMG社などで作る「真央チーム」が大いに憤っていたのだ。
「真央は、けがなんてしていないのです。(右ひざ故障報道には)非常にビックリして、迷惑しているんですよ。日本スケート連盟のある幹部が(報道機関に)この情報を流したと聞いていますが、勝手なことを言わないでほしいです」(浅田と親しい関係者)
「これまで、(浅田にも)成長痛のような痛みがあったことは確かです。トレーナーには腰痛を口にしたことがあります。右ひざ故障は本人が否定していますが、誰かが真央の足を引っ張りたかったのか……。(情報を流した)その意図がさっぱり分からないですね」(浅田のマネジャー)
一方で、「出所」として疑念を向けられた日本スケート連盟側は「右ひざ故障は全然、聞いていない」(吉岡伸彦・フィギュアスケート強化部長)。要するに「そもそも把握していなかった」という反応だった。
ところで、4大陸の不振に絡んでは、右ひざ故障報道とは別に、実は浅田には心配の種が一つあった。「これが4大陸選手権の演技にも影響した」というのだ。浅田の知人が語る。
「4大陸で戦っている間も、真央は『代えるつもりのないコーチを代えられちゃうのかな』とすごく動揺していました。バンクーバー五輪までは、現在のタラソワコーチでいくと決めているのですが、連盟の中では真央のコーチを変更させようとする動きがあると聞いているのです。今のところ、直接は(そういう打診などは)ないのですが……」
解説が必要だろう。昨年6月から浅田を指導するタラソワコーチは荒川静香、アレクセイ・ヤグディン(ロシア)のほか、アイスダンスやペアを含めた五輪金メダリストを指導してきた「チャンピオンメーカー」で知られる。
だが、荒川の指導をめぐっては、トリノ五輪のわずか2カ月前にニコライ・モロゾフコーチへの交代を余儀なくされた経緯がある。仕掛けたのが、あの「女帝」、城田憲子・元フィギュア強化部長だったとされる。
城田氏は06年に発覚したスケート連盟の不正経理問題で、支払い規定のない通信・事務運営費を受け取ったとして理事を引責辞任した人物。ところが、今回の4大陸選手権では「アシスタント・チームリーダー」として連盟から派遣され、現場復帰を果たしていた。
「タラソワコーチは、城田氏のことをよく思っていないのです。一生懸命に育てた荒川をモロゾフコーチに移され、今もすごく怒っています。その軋轢があって、『もう日本の連盟とは仕事をしない』とまで言うのです。連盟と仲が悪いタラソワコーチを、(城田氏サイドが)真央から引きRがそうとしているのかもしれないとの疑念が拭えません」(前出の知人)
「コーチ追い落としが狙いだ」
だが、タラソワコーチの指導が浅田の演技に磨きをかけたことは証明済み。「2人の相性は良い」と指摘するのは、フィギュア界に詳しいライターの野口美恵氏。
「今季初戦のフランス杯(昨年11月)に敗れた浅田は、タラソワコーチと話し合って『強気に攻めるプログラムを組もう』と決めました。世界中で浅田しか飛べないトリプルアクセルを、必ず2本入れることにしたわけです。真央ちゃんのやる気とかみ合い、これがGPファイナル優勝などにつながったといえます」
本誌は連盟や城田氏に対し、コーチ変更を求めたかどうかを確認したが、「城田氏が浅田選手またはその関係者に対し、コーチの変更を求めた事実はありません」(フィギュア強化部長の吉岡氏)との回答だった。
さて、冒頭の「右ひざ故障報道」に戻る。前出の浅田の知人は、次のような懸念を口にする。
「『真央チーム』を情報隠しと非難することで、浅田らを追い詰め、コーチの変更を含め、城田氏らが『真央チーム』を意のままに支配するとの狙いがあるのではないでしょうか」
つまり、「氏名不詳」の何者かが「怪情報」の出所となったこと自体、結局はタラソワコーチ追い落としの動きと一脈通じているというのだが……。何やら「策謀」の気配を感じさせる。
前出の関係者によると、浅田は現在、ダイエット中だが、4大陸選手権が終わった後は日本から持参した大好きなお菓子をいっぱい食べて、普段通りに過ごしていたという。
いずれにせよ、「真央チーム」が疑心暗鬼に陥っていることだけは間違いない。浅田が早々に復調の兆しを見せているのは朗報なのだが、金メダルを狙うバンクーバー五輪への「備え」が心配だ。
本誌・徳丸威一郎
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