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【科学】

浅間山 噴火の道筋見えた

2009年2月17日

※青木さんの資料などを基に作成

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 浅間山(群馬、長野県)が二月二日、四年半ぶりに噴火した。地震計などの観測装置なども増え、大がかりな探査で地下の構造も分かり始めてきた。マグマがほぼ決まった道筋を通って上昇することで噴火を繰り返しているのではないかという。  (永井理)

■噴火を察知

 今回の噴火は前日にある程度予想された。マグマ活動を示す火山性地震が増え、傾斜計はかすかに山が膨らんでいることを示した。気象庁は火口周辺警報を出し、噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から3(入山規制)に引き上げた。

 「経験が生きた」と気象庁の横山博文火山課長。二〇〇四年九月の噴火でも似た変化が現れたが、先例がなく何を意味するのか素早く判断できなかった。

 「火山の下のどこにマグマがあるか。モデルをたてられるようになったのも大きい」という。

 〇四年の噴火後、地震計と傾斜計のほか、衛星利用測位システム(GPS)や重力の変化などさまざまな方法で浅間山が分析された。「どれもが、火口の西側の地下にマグマが上昇してきたことを示していました」と東京大地震研究所の青木陽介助教は話す。

■曲がった進路

 なぜ火口の西側なのか。西側に何があるのか。〇六年に東京大を中心にダイナマイトで人工地震を起こすなどして浅間山の地下構造が調べられた。

 その結果、山頂の一−三キロ西側の地下一キロ付近に地震波が速く伝わり、大きな電気抵抗を示す部分があった。青木さんは「これは過去に噴火していた黒斑山のマグマだと考えています」と見る。 

 浅間山は数万年前から活動してきたいくつかの火山が集まってできている。いま噴火しているのは「前掛山」で約一万年前から活動している。その西に、およそ二万年前まで活動していた黒斑山がある。その下に取り残されて固まったマグマがあるらしいのだ。

 今もマグマは黒斑山の下に上がってくるが堅いマグマの「ふた」があって進めず、東に迂回(うかい)し前掛山で噴火を起こすというわけだ。火山性地震の起きる場所もこのモデルに一致する。

 今回の噴火でも黒斑山のマグマの下に、新しいマグマが上昇してきた。地殻変動などから計算すると上昇してきたマグマは約二百万立方メートル。前回の約三分の一の量だ。マグマは薄い板状に広がり国土地理院の推定では一辺が一−二キロで厚さが数十センチという。

 「前掛山は、いつもこの仕組みで噴火してきたと考えています」と青木さん。マグマの道が分かれば、そこを注意深く見て噴火予知に結び付けられる。

 今回はマグマが火口まで上がってこず、圧力の上がった水蒸気が火口の底をふさいでいた〇四年のマグマを吹き飛ばす水蒸気爆発が起きたと考えられている。

 東京大地震研究所の中田節也教授らが火山灰を調べたところ、今回の噴火での噴出物は99%以上が〇四年に上昇してきたマグマだった。吹き飛ばされた灰と噴石の量は合わせて数万トンと見積もられている。

※田中さんの資料を基に作成

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■最新の装置も

 最新の手法も成果を上げつつある。大気で発生して地表に降り注ぐ素粒子の「ミュー粒子」を利用する方法だ。ミュー粒子は電子の仲間だが、物質を通り抜ける能力が高い。火山を突き抜けたミュー粒子をとらえるとエックス線写真のように内部を透かし見られる。

 同研究所の田中宏幸特任助教は、浅間山のふもと標高千メートルにセンサーを設置。噴火前後で五百万個のミュー粒子を観測した。その結果、〇四年の噴火で火口の底にたまって冷えたマグマのうち、六万トン前後が吹き飛んだと推定された。

 「火山灰や噴石の出た量とも合う。マグマが火口まで上昇してきたらとらえられると思う」と田中さんは意気込む。  

<記者のつぶやき> 地震とは違って、手をかけて調べて観測すれば火山噴火の予知はまあまあなんとかなるのではないか。そう期待したい。

 

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