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正義のかたち:死刑・日米家族の選択/3 遺族、少年の更生に参加

 ◇極刑求めて…揺らぐ

 カップ酒一つとたばこ1箱、菊の花3本。昨年10月、岐阜県輪之内町の長良川河川敷に、供え物が並んだ。

 少年グループによる連続リンチ殺人事件で、江崎正史さん(当時19歳)と、友人の渡辺勝利さん(同20歳)は、94年10月8日、この河川敷で亡くなった。

 <正史さんをみな様から奪いとってしまいほんとうに本当に申し訳ありませんでした>

 昨年の命日の前日、江崎さんの父恭平さん(64)に手紙が届いた。死刑を宣告された3被告(いずれも上告中)のうち、愛知県一宮市生まれの元少年(33)からだった。供え物は、彼が知人に頼んで手向けた物だ。

 だが、恭平さんは「手紙を素直に受け入れることはできない」と言う。責任のなすり合い、傍聴席の知人に送る目配せ。殺意を否認する3人からは「反省」を見いだせなかった。

 「昔なら『死んでおわびを』と聞けたところであろう。貴様らの口からはそんな言葉はみじんもない」。05年3月、恭平さんは6枚の陳述書を読み上げた。3被告の弁護人の一人は「あの意見陳述で、裁判長の態度が明らかに変わった」と振り返る。05年10月に名古屋高裁が全員に死刑を言い渡すと、恭平さんは検事と握手を交わした。

    ◇

 「君たちが更生しようがしまいが知ったことじゃない。私みたいな人間を出さないために、ここに来ている」。06年9月から、恭平さんは愛知少年院(愛知県豊田市)で少年の更生のプログラムにかかわり、被害者遺族の置かれた状況を訴えている。その決意の背景には、少年院が更生の役割を果たしていない、という疑問があった。

 一宮市生まれの元少年は事件前の1年5カ月をここで過ごしている。事件は、仮退院した7カ月後だった。

 元少年の実母は、生後2カ月で他界。養母からたばこの火を手の甲に押し付けられた。小学3年の時、教師の万年筆が盗まれた。女児がやったのに犯人扱いされた。教師から謝罪はなく、大人への不信感を強めたという。

 拘置中の98年、死刑囚らで作る交流誌に「聖書を学びたい」と投稿。面会に訪れた名古屋市のクリスチャンの女性(58)が、汚れた服を引き取り洗ってくれた。面会を重ね、3年前から、女性を「おかん」と呼んでいる。

 「家族のつながりを奪い、許されないことをしてしまった」。拘置所で「家族」と出会い、奪った命の重さを知った。「生きたい、と言うのはずうずうしい。けど、自分が死ぬことで解決しないのかなとも……」。元少年は、面会した記者に揺れる思いを口にした。

    ◇

 恭平さんは、犯罪被害者の遺族として、命の尊さを訴える「生命のメッセージ展」の活動に5年前から参加している。死刑を求めることは、3人の命をくれ、と言っているのと一緒。サークルにおれがおってもいいのかな。そうつぶやいた恭平さん。

 「死刑を求める気持ちに変わりはない。ただ、ちょこっと揺らぐ部分がある」【武本光政】=つづく

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 〒100-8051(住所不要)毎日新聞社会部「裁判員取材班」係。メールt.shakaibu@mbx.mainichi.co.jpまたは、ファクス03・3212・0635。

毎日新聞 2009年2月17日 東京朝刊

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