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社説

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GDP激減―戦後最大の危機に備えよ

 昨年10〜12月期の実質国内総生産(GDP)が年率換算で12.7%減となった。第1次石油危機のとき以来、戦後2度目の2けたマイナス成長である。米国の3.8%減、欧州ユーロ圏の5.7%減と比べても、落ち込み幅がはるかに大きい。

 昨秋、米国発の金融危機が起きて世界同時不況の色彩が強まっても、政府は「危機の震源地・米欧に比べれば日本の傷は浅い」と見ていた。ところが、結果的に主要国で最も打撃を受けたのは日本だった。

 ここまで急激に悪化した最大の要因は、米国向けを中心に輸出に頼りすぎてきた経済構造のもろさにある。米欧市場が急速に縮小し輸出に急ブレーキがかかって、あわてた企業が生産を絞り設備投資を削った。これにより雇用不安が高まり消費者心理が冷え込む、という悪循環が始まっている。

 景気の「谷」の深さや長さ、回復の道筋の険しさから考えて、与謝野経済財政相が言うとおり「戦後最大の経済危機」と見るべきだ。

 問題は、では何をするかである。

 これだけ輸出が激減したのだから、ショックはこれから内需へ波及して、雇用がさらに悪化し消費が縮むにちがいない。失業対策は最大の課題だ。公共事業などの財政出動により国内の需要不足をできるだけカバーすることも、当面は必要になる。

 ただし同時に、中長期的な視点も忘れてはならない。思い起こさねばならないのは、日本のバブル崩壊後の90年代の反省だ。約10年間で公共事業を中心に総額130兆円の景気対策を打ったが、経済の低迷が続いた。

 ハコモノを大量生産して需要不足の穴を一時的に埋めても、それが次の経済成長に結びつかないかぎり、悪化した財政の代償をいずれは払わねばならなくなる。高齢化社会を迎えているのに社会保障予算を抑制しなければならないのも、巨額の景気対策のツケを抱えているからである。

 積極財政で足並みをそろえようと宣言した先週末の主要7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)の声明も、財政悪化への配慮を求めている。

 90年代の景気対策は、人口減に備えた長期投資という視点が欠けていた。女性や高齢者が働きやすい環境の整備や、新産業を生むための仕掛けづくりなど、将来の日本経済に必要な政策投資はほとんど進まなかった。

 産業構造が危機を一層深めていることがはっきりした今こそ、額を膨らますだけの景気対策でなく、日本経済の大改造をめざしたビジョンが必要だ。

 与党から次の景気対策を求める声が出始めたが、末期状態にある麻生政権に長期ビジョンを望めるだろうか。戦後最大の経済危機を打開する動きが、与野党から出て来なければならない。

中川財務相―この大臣で大丈夫なのか

 記者団との受け答えが、まるでかみ合わない。もうろうとした表情で、あたかも酔っぱらっているかのようにろれつが回らない。

 主要7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)が開かれたローマで、記者会見に臨んだ中川財務・金融相の異様な姿が、世界に報じられた。

 世界同時不況の中で主要国がどう協調し、市場にどんなメッセージを送るか。いつにも増して大きな役割を担ったG7の会合なのに、その日本代表に何が起きたのか。いぶかり、驚き、あきれた人は多いだろう。

 その映像が繰り返し、テレビやネットで流される。外国のメディアも、日本の財務相が会議中に「眠ってしまったようだ」と写真付きで報じた。

 本人は「顆粒(かりゅう)と錠剤の風邪薬をたぶん倍くらい飲んだ。薬が効きすぎて調子が悪くなった」などと釈明し、アルコールの影響を否定している。

 日程が過密なうえに、時差もある国際会議だ。体調を崩したのなら気の毒ではある。それでも、会見に耐えられそうもないなら代理に任せるとか、対応の仕方はあったはずだ。

 疑念をぬぐえないのは、飲酒の影響が本当になかったかどうかだ。中川氏といえば主要閣僚や党の要職を歴任した一方で、政界では酒好きで有名だ。本人は「前の晩は飲んだが、会見前は飲んでいない」と述べたものの、あとから「昼食会でワインをたしなんだ」「『ごっくん』はしていない」などと付け加えた。

 アルコールと薬が相乗的に働いて、予想以上に酩酊(めいてい)したり、その状態が続いたりすることはありえるだろう。

 中川氏は先月の国会での財政演説で26カ所も読み間違った。まさか酒とは関係ないだろうが、閣僚として緊張感が欠けていたことは否めない。

 民主党は中川氏の更迭を要求し、受け入れられなければ野党優位の参院に問責決議案を出す構えだ。これに対し麻生首相は中川氏を官邸に呼び、「体調管理をしっかりして、引き続き職務に専念してほしい」と伝えた。

 確かに、予算審議のさなかに財務相を交代させるとなれば、それでなくとも記録的な低支持率にあえぐ麻生政権への打撃は大きかろう。

 だが、このまま中川氏がとどまっても茨(いばら)の道が待ち受ける。仮に問責決議が可決されれば、野党側は「そんな財務相を相手に予算審議はできない」と参院審議をストップさせるだろう。

 09年度当初予算案などの成立を急がねばならないのに、国会審議のさらなる混迷は必至だ。政府与党内に早くも浮上している09年度の補正予算案づくりなど、とても進みそうにない。

 中川氏は麻生政権誕生を強力に後押しした。その盟友を守るためのツケは小さくない。

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