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社説 追加景気対策は大胆に、賢く、遅滞なく(2/17)

 日本経済は昨年10―12月期に実質で年率12.7%のマイナス成長に陥った。海外経済の悪化による輸出の落ち込みに加え、設備投資、個人消費も減少し、負の連鎖が国内に及んできたことを示している。世界経済に底打ちの兆しが見えないことも考えれば、日本の景気は当分、冷え込むと見なければならない。

 戦後最悪になる恐れもある不況のなかで、本来なら破綻しなくて済む企業が行き詰まり、まじめに働いてきた人が解雇されるのはよくない。

危機克服へ国際協調

 また世界的な経済危機は各国が結束して臨まなければ克服できない。さらに日本は経済大国として保護主義の広がりを防ぐ責任がある。

 それらを踏まえて、政府と日本銀行は財政と金融両面から、大胆かつ実効性ある追加の景気対策を早急に打ち出すべきである。

 追加対策の規模は経済の供給力と実際の需要との差を推計し、それを縮小するように決める必要がある。昨年秋以降、財政支出・減税分で約12兆円の対策を決めたが、仮に必要な追加額が同10兆円を大幅に超えるとしてもためらうべきでない。日本より経済規模の小さい中国が52兆円の内需対策を実施、経済規模が日本の2倍以上とはいえ米国も約72兆円の景気対策をとる。その米中より日本の景気悪化は急だ。

 対策の財源調達をめぐり「政府紙幣」や相続税免除の「無利子国債」を唱える向きがある。政府紙幣は政府自身が出すので、各国が苦い経験から学んだ「中央銀行(発券銀行)の政府からの独立性」がなく、歯止めが利かなくなる恐れがある。無利子国債は金利が非常に高くなるような時には意味があるかもしれないが税体系をゆがめる欠点もある。

 そのような奇策に頼らなくても、今は通常の国債発行で資金を調達できる。日銀が長期国債の買い入れ(現在、月1兆4000億円)を増やすなら長期金利の上昇を抑える効果があろう。その前に、各種特別会計や独立行政法人の過剰な積立金、いわゆる霞が関埋蔵金を洗い出せば数兆円は確保できるとみられる。

 財源確保を案じるより大切なのは使い道だ。農業土木や、あまり使われない道路の建設などへの支出を増やしても効果は一時的。将来の経済社会につながるような戦略的なカネの使い方が大事である。

 その使い道を決める“台本”として重要なのが経済成長戦略だ。「経済成長戦略大綱」や毎年の「骨太の方針」など様々な成長戦略がある。だが小泉内閣後は官庁主導の色彩が強まり、政治的に難しい分野には深く立ち入っていない。

 地球温暖化対策や、医療・介護・年金制度の改革、教育、農業、運輸政策の見直しなどはいずれにせよ必要だ。またそれを進めれば、これらの分野で企業の国際競争力を高め、成長の新たな糧にできる。

 必要なのは、これらの分野で、何を目標とし、どんな手だてを講じ、そのためいくら資金を投じるかを具体的に定めることだ。それがあれば、当面の需要喚起策が中長期的にも意味を持ってくる。企業も研究開発や設備投資の方向を決めやすい。

 そのような見取り図を欠いたまま財政支出を増やせば、必要性に疑問のある公共事業などに多額のカネが回るのは目に見えている。政治家は信頼に足る成長戦略を自分たちの手で早く作るべきである。

 日銀は社債の買い入れなど一般企業への信用の拡大を含め、やれることがまだある。1月の企業物価指数は前年同月比0.2%下落と5年1カ月ぶりに前年を下回った。物価下落→景気悪化→物価下落というデフレ循環を避けるため、異例な政策でも頭から退けないでほしい。

解散し新体制で補正を

 大胆な内需刺激策をとる一方で、保護主義に傾斜しないよう世界に呼びかけるのも貿易大国、日本の役割だ。米欧の自国企業救済策や発展途上国の関税引き上げに歯止めをかけるには、日本自身が身ぎれいでなくては説得力を欠く。政府が検討中の公的保証を裏付けとした企業の資本増強策は緊急避難としてやむを得ないとしても、一時的かつ内外無差別に適用するなどの注意が要る。

 このような重大な仕事を控えて、麻生内閣の支持率は低下し続けている。首相がとってきた政策は正しかったのか。追加的な景気対策のための予算補正をどの指導者の手に委ねるべきか。それらについて来年度予算成立後に国会を解散し、国民の声を聞くのが筋ではなかろうか。

 主要国の財務相・中央銀行総裁会議後、中川昭一財務相が記者会見でしどろもどろの受け答えをした場面は世界に配信された。理由がどうであれ、中心的経済閣僚のこの失態も加わり内閣への信頼が回復するとは思えない。もし麻生太郎首相が政権延命の手段として追加対策も手がけようとするなら、それはおかしい。

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