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社説:もうろう財務相 醜態の責任は免れない

 目を覆うばかりである。ローマで開かれた先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)の記者会見の席上、中川昭一財務・金融担当相がろれつも回らず、記者とのやり取りもままならないという前代未聞の醜態を演じた。

 中川氏は反省を表明し「かぜ薬を多く飲んだため」と釈明したが、与野党からは深酒が原因ではないかとの疑念さえ出ている。世界経済危機で日本のメッセージが注目される中、経済対策の要である財務相の不審な言動は各国で報道された。まさに国益を損なうお粗末さだ。政権のゆるみを象徴した事態を麻生太郎首相は放置してはならない。

 何とも異様な有り様だった。記者団の質問に応じる中川氏の様子は終始眠そうで、もうろうとしていた。白川方明日銀総裁への質問に割り込んだり、質問した記者を「どこだ」と探したりした。アジア開発銀行(ADB)への支援や政策金利について不正確な発言をするなど、実害をもたらしかねなかった。

 あまりの失態に自民党からも「非常にお酒の好きな方ですから」(森喜朗元首相)など、深酒を疑う声が出た。国会での野党の追及に中川氏は「(当日の)酒は、たしなんだ程度」と答弁し、かぜ薬が原因と強調したが、記者団には「酒も飛行機で飲み、(薬との)相乗効果で誤解を招いた」とも述べている。仮に深酒だったとすれば言語道断だ。会見までの経緯をより、詳細に明らかにしなければならない。

 かぜ薬による体調不良であったとしても、あんな状態で記者会見にのぞんだ本人や、それを止めなかった同行者の危機管理には大いに問題がある。会見の様子は通信社などを通じ、世界中に配信されてしまった。これでは、G7会合自体で本来の職責を果たせたかも、疑わしくなる。

 中川氏は先月、衆院本会議で行った財政演説で26カ所もの読み間違いを行い、財務省はこの時も「かぜで体調が悪かった」と釈明している。中川氏は甘利明行政改革担当相らと同様に首相の盟友として知られ、財務相に金融担当まで兼務させての起用は、典型的な「お友達」人事とみられた。身内意識の甘えと緊張感の欠如が、一連の言動の背景にあるのではないか。

 08年10~12月の国内総生産(GDP)が年率換算で12・7%落ち込むなど、景気の急落や雇用不安に国民の生活は日々、脅かされている。そんな非常時に政権では首相が失言を繰り返し、内閣支持率が沈む中で閣僚はあきれるほど次元の低い失態を演じている。

 民主党は参院で中川氏の問責決議を検討している。だが、首相自身が政権のモラル低下にけじめをつけるべきだ。国民に迷惑をかけたまま、ほおかむりをするのはあまりに無責任だ。

毎日新聞 2009年2月17日 東京朝刊

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