オバマ大統領の就任演説を観ながら 冷泉彰彦さんに、なにかと訊く フルテキスト版。

オバマ大統領の就任式の、翌日。
アメリカに詳しい作家・冷泉彰彦さんに、
糸井重里が、話をうかがいました。
その対談のようすはリアルタイムで音声中継されたのですが、
これが、おもしろいと大好評!
そこで、テキスト版でもお届けすることにします。
オンエアされた部分はもちろん
放送前後に交わされた話も、
つくづくおもしろいので、掲載しましょう。
オバマさんのことだけでなく、
アメリカに関するいろんなことについて、
なにかと話しあっていますよ。
ぜんぶで10回、ぜひお楽しみください。

冷泉彰彦さんのプロフィール

目次

第1回 それで「冷泉彰彦さん」に 2009-02-16-MON
第2回 アメリカの闇 今日の更新
第3回 オバマの緊張した顔 2009-02-18-WED
第4回 みんなが泣いた日 2009-02-19-THU
第5回 ケネディの困った姿 2009-02-20-FRI
第6回 カウボーイの沈黙 2009-02-23-MON
第7回 ジョン・マケインの物語 2009-02-24-TUE
第8回 対立のまんなかにいる人 2009-02-25-WED
第9回 問題を解決し続ける人 2009-02-26-THU
最終回 宮崎アニメとマイケル・ジャクソン 2009-02-27-FRI

第2回 アメリカの闇

糸井 今の脱税の話で思い出したんですけど、
吉本隆明さんの著書を
フランス語に翻訳されているかたが
いらっしゃるんですね。
冷泉 ええ。
糸井 つまり、フランス語に翻訳されて
フランス人に読まれるわけですけど、
そういうことについて、
吉本さんご本人は、
さほど興味を持っていないんです。
冷泉 ほう。
糸井 というのも、
「フランス人が本当に必要だと思ったら、
 日本語を勉強するだろう」と。
冷泉 ああ‥‥なるほど。
糸井 動機が「本物」だったら、
向うから勉強してたどりつくだろうって。
冷泉 最近‥‥アメリカ人の証券マンなんかは
日本語めちゃくちゃ勉強して来ますよね。
糸井 そうなんですか。
冷泉 アメリカから来てる
外資系証券会社の部長クラスなんかだと、
「いやー、ちょっと、
 ナニがナニしてって感じですかねぇ」
みたいな日本語しゃべりますよ。
糸井 必要以上に日本的な(笑)。
冷泉 でも、アメリカ人にそうこられると、
やられちゃうんですよ、日本人。
何でも言うこと聞いちゃうみたいな。

そのへん、また別の問題がありますけど、
彼らにしてみれば、
自分が得するために必要だからこそ、
そうしてるわけで。
糸井 聞き耳を立ててたら入ってくる情報って
きっと、けっこうあるんでしょうね。

だって、外国人の顔をしているだけで、
わかんないだろうと思って、
大事なことをしゃべっちゃうってこと、
あると思うんですよ、けっこう。
冷泉 じつは、ぜんぶわかっちゃうのに(笑)。

で、それができちゃうのは、
語学に対する理論的なメソッドが
確立してるからなんですね。
糸井 ほう。
冷泉 さっきの脱税の話と同じことなんですけど、
アメリカの語学教育では、
レッスンのときに、
男性が女性の役をやっちゃいけないんです。
同様に、大人が子どもの役をやってもダメ。
糸井 うん、なるほど。
冷泉 あと、パイロットになんか興味がないのに、
パイロット役で
会話の練習をさせちゃいけない‥‥とかね。
糸井 うん、うん。
冷泉 つまり、自分自身の言葉を発しないと、
暗号解読のような
機械的な回路がはたらいちゃって
本当のコミュニケーションのスイッチは
入らないってことなんです。
糸井 あくまで実用主義的なんですね。
冷泉 徹底的にプラグマティックです。
糸井 あの、せっかくなのでなにかと訊きますが(笑)、
「スマイル0円」ってあるじゃないですか。
冷泉 マクドナルドの。
糸井 スマイルというものには価値がある、と。
で、もともと天然の価値だったけど、
その天然は人工的につくれるんだ‥‥と。
冷泉 ええ、ええ。
糸井 ある時代を象徴していた言葉だなぁと
ぼくは思ってるんですが、
あれについて、
アメリカ人はどう感じるんでしょうね?
冷泉 まず、スマイルが欲しかったら
チップを払わなきゃダメです。アメリカでは。
糸井 ああ‥‥金銭的な価値に還元されるんだ。
つまり「0円」じゃない。
冷泉 これ、アメリカ人は当然だと思ってます。

チップ払ってる以上は
きちんとしたサービスをしてくれますし、
雑談なんかにも応じてくれますから。
糸井 でも、チップを払ってはいけないシーンって
アメリカでもあるじゃないですか。

たとえば‥‥男女が恋人未満って状態のとき、
チップを払ったらおかしいでしょう。
冷泉 ええ。
糸井 そのあたりの微妙な区別はについては
どこかで線を引いてるんでしょうね。
冷泉 小さいときから訓練されてますよね。
糸井 訓練。
冷泉 ま、訓練といっても難しいことじゃなくて、
とにかく他人に対しては「ナイスに」が基本形。

他人を傷つけちゃいけないし、
他人のプライドを損ねてはいけない。

たとえば、パーティをやるってときに、
招待されない人に対しては
決して
パーティのことを明かしてはいけないという、
強いおきてがあるんです。
糸井 傷ついちゃうから。
冷泉 それはもう、ちいさなころから
きっちりと教え込まれるんですけど、
このことって、
アメリカという国を考えるうえで
けっこう大きいと思うんですよ。
糸井 というと?
冷泉 そういうやりかたが
あまりに徹底されちゃってるだけに‥‥。
糸井 失敗したとき、ふかーいところで傷がつく?
冷泉 そう、そうなんです。
糸井 なんか、聞いてると、生きていくために
「うまい、ヘタ」が左右しそうな‥‥。
冷泉 ある種の「強さ」が要求されますね。
糸井 うーん‥‥きびしいなぁ。
冷泉 ですから、一般的なアメリカ人のイメージには
そぐわないかもしれませんが、
ものすごい「闇」を、
こころに抱えちゃうってことも、あるんですよ。
糸井 なるほど。
冷泉 過食症やドラッグの問題の背景には、
そういう原因が、あるかもしれないですね。
糸井 なるほど、なるほど‥‥。え、もう3時?
<つづきます>
前へ    

冷泉彰彦さんの本はこちら

『アメリカモデルの終焉』

発行:東洋経済新報社(2009/01)
価格:1785円
ISBN-13:978-4492532539

Amazonでお求めはこちら

『民主党のアメリカ 共和党のアメリカ』

発行:日本経済新聞社(2008/08)
価格:893円
ISBN-13:978-4532260156

Amazonでお求めはこちら

『911 セプテンバーイレブンス』

発行:小学館 (2004/09)
価格:650円
ISBN-13:978-4094056518

Amazonでお求めはこちら