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未来育て:第4部・格差と少子化/2 耳鼻科に通い半年で10万円…(1/3ページ)

 ◆耳鼻科に通い半年で10万円。「道隔てた隣の市は無料なのに…」

 ◇子どもの医療費助成、国は自治体任せ

 「医療証は?」「まだ5歳でしょ。忘れましたか?」

 奈良県生駒市の小児科医院。せきと鼻水が止まらない長男貫太君を連れてきた近くの主婦、西村由紀子さん(36)は窓口で聞かれて「またか」と嫌な気持ちになった。医療証とは乳幼児医療費受給資格証のこと。生駒市では健康保険証とともに提示すれば、支払った2割の自己負担分は後で自動的に銀行口座に振り込まれて返ってくる。つまり無料。しかし、貫太君はもう医療証がないので有料だ。その理由は居住地にある。

 西村さん宅は奈良盆地と大阪平野を隔てる生駒山地の奈良側のふもとにあるが、住所は大阪府四條畷市だ。市街地がある大阪側から見れば、まるで山向こうの飛び地。当然ながら生活圏は奈良側に属し、生駒市の病院に「越境受診」することになる。

 子どもの保険診療は就学前は2割、就学後は3割を自己負担しなくてはならない。その分を自治体が一定年齢まで公費で賄うのが乳幼児(子ども)医療費助成制度。生駒市は通院の助成対象が就学前までなのに対し、四條畷市は2歳で終わり。7歳、5歳、0歳の子どもがいる西村さん一家では貫太君が、地域格差の影響をもろに受けている。「道一本、川一つ隔てているだけなのに」。戸惑いと不満は隠せない。

 西村さんが住むのは関西文化学術研究都市の一部として90年に街開きしたニュータウン「パークヒルズ田原」。整然とした街並みに歩行者専用道路や緑豊かな公園が配され、外見上は安全で快適だ。30、40代の子育て世代を中心に今も居住者は増え続けている。

 環境を重視して5年前に家を購入した西村さんもその一人だが、印象は次第に変わった。例えば、長女咲紀ちゃんと貫太君は中耳炎や蓄膿(ちくのう)で耳鼻科に通ったことがある。生駒の子どもは無料なのに半年で約10万円かかり、治る前に通うのをやめた。西村さんは「軽い風邪なら節約のため市販薬で済ませ、病院には行かなくなった。平等な負担なら納得できるが、居住地で差をつけられては、支払うのがバカらしくなる」と憤る。

乳幼児医療費助成制度の拡充を求める署名活動に協力する子育て中の母親(中央)=大阪市内で、小松雄介撮影
乳幼児医療費助成制度の拡充を求める署名活動に協力する子育て中の母親(中央)=大阪市内で、小松雄介撮影
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毎日新聞 2009年2月14日 東京朝刊

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