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ヲタクの改心 [プロレス]

 確か「宝島ムック」の類で、大仁田厚を「オタクを改心させた男」を表現していた記憶がある。
 確かに大仁田厚は、プロレスオタクにプロレスラーをリスペクトさせた数少ない男である。
 プロレスオタクという生き物は、ある意味これほどプロレスをバカにしている存在はないのである。UWFがあろうとなかろうと、そういう存在だった。どこかプロレスをコケにしている。
 確か引退したテリーがカムバックしてしらけムードだった時だと思う。全日本プロレス(馬場の方)の後楽園ホール興行を見に行った。テレビ収録がなかったせいか、どこか会場が気のせいか暗いイメージがあった。
 会場の盛り下がりも素晴らしく、野次もチラホラ。そんな中で、天竜と誰かが戦っていた時、天竜が例の「ロープに振って体を伏せて、振られた相手が上をピョン!」をやった時だ。「どうして上を飛ぶんだよ!」「ふんずけりゃいいだろ!」「ロープに振って跳ね返ってくるからおかしんだよ!」
 新日本プロレス(猪木の方)だと、こういう客は若手が叩きだすらしい。それにその日の興行は、野次られても仕方がないような盛り下がりだった。ただ、プロレスオタクとはこういうセンスの人なのだ。基本的に「プロレスはショー」と思って馬鹿にして、こんな感じで見ているいる人達である(さすがに会場でそれを野次った人は少ないが)。
 そして「ロープに振らない」「乱入も場外乱闘もない」UWFができて、ますますプロレスのお笑い性が明らかになった。そんな時代に何故か大仁田がスターになった。考えて見れば面白い話である。
 タニマチと呼ばれる存在が、相撲のみならず、プロレスや芸能界にもいる。そういう人が「出資する」存在は、何も人気選手・歌手に限らない。むしろ無名の人に注ぎ込むのである。そう。「自分がスターにしてあげる」のだ。ましてプロレスファンなんて拗ねてるくせに、本当は自分だって燃えてみたい。自分だってあんな風にマットの上で戦って注目を浴びてみたい。しかし、自分は運動が嫌いで、そんなのは夢のまた夢。まそてや「地道に空手を習おう」なんて。
 そんな時に、FMWなる団体を見に行く、こりゃあ格好の茶化し対象だ。どれどれ、冷やかしてやるか。しかしそこでは、どうしてもマットに上がりたい「元全女の落ちこぼれレスラー」「中年のキックボクサー」が必死でファイトを繰り広げている。そしてメインでは、一度怪我で引退した大仁田がボロボロになって、まるで「これが義務」とばかりに、リング下の有刺鉄線の上に転落する。
 なんて文章は、プロレスファンだったら似たような評論を読んだ事があるだろう。ただ、大仁田という人は「等身大のヒーロー」という意見はあまりなかったと思う。ファンは大仁田に自分を投影していたのだ。みんな、内心ではあんな風にかっこつけずに捨て身になって生きてみたい。だけどやる勇気がない。
 自分だって、大仁田厚が好きか嫌いかといえば好きだ。と、今日は何で朝から大野田厚を礼賛してるんだ?


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