東京・原宿などを中心に国内外に約95店舗を展開する人気ブティック「ビームス」(設楽洋社長、東京)の洋服を作っている愛媛県内の縫製工場が、外国人研修生・実習生として働いていた複数の中国人女性に違法な低賃金労働をさせていたとして昨年、処分を受けた。工場の経営者や帰国した研修生らに話を聞くと、年末年始もなく明け方まで過酷な労働を強いられる「平成の蟹工船」が、ファッション業界を支える実態が見えてきた。【後藤直義】
ビームス社は76年、東京・原宿で創業。輸入品と自社オリジナルの洋服を並べる「セレクトショップ」の先駆けで、同社ホームページによると、グループ2社の年商は計670億円(08年2月決算)。縫製工場の経営者によると、工場は00年ごろ、大阪市の業者を通して同社の洋服作りを委託された。
しかし、慢性的な人手不足で、05年から外国人研修・実習制度を使い中国人女性9人を採用。少なくとも年間数千着を超えるという同社を含む、複数の若者向け人気ブランドの洋服作りを続けた。
アパレル業界では売れ筋の商品を「生もの」と呼び、1週間など短納期で商品を発注する。中国人女性について「正直、ベテランの日本人よりずっといい働きだった」と話す経営者も納期を守るため、繁忙期には彼女たちと一緒になって月200時間を超える残業をこなした。
「インスタントラーメンやパンを食べながら、明け方までミシンを掛けた」。任新艶さん(26)は中国・青島から05年10月に来日し、この工場で働いた。残業代は時給200~480円で、大みそかや正月も仕事に明け暮れた。既に帰国しているが、日本に滞在中の2年半で体重が10キロ減り、3回も入退院を繰り返した。
工場経営者は昨年6月、八幡浜労基署から労基法違反(賃金未払い)に当たるとして、中国人女性ら9人に約800万円の未払い賃金を支払うよう勧告を受けた。その後、高松入管からも研修生らの受け入れ停止を命じられ、生産がストップ。現在も働き手のいない状況は続いており、経営者は「給料は安く、日本人の若者は来ない」と話す。
JITCO(国際研修協力機構)によると、国内では3万人以上の外国人研修生、実習生が婦人服や子ども服、紳士服の製造に従事(08年3月末時点)。入管が受け入れ企業の不正行為と認定した404件(07年)のうち、繊維・被服関係が全業種で最も多い170件を占める。こうした実態に詳しい愛媛県内の関係者は「地方の零細業者が研修生らを使って下支えする構造は一緒」と指摘する。
一方、ビームス社の金田英治・広報部長は、同社の洋服は中間業者や商社を通じて、四国地方の他、岡山、岐阜、新潟などの工場に委託していると説明。毎日新聞の取材を受けて処分の事実関係は確認したが、金田部長は「過酷な外国人労働があるとは知らなかった」と話している。
毎日新聞 2009年1月26日 大阪朝刊