ドラゴンエイジPure誌掲載の読みきり作品「シンデレラシューズ」の全頁解説第12回です。
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これ以上ないほどに、果てしなくネタばれなので
必ず本編を読んだあとで読みすすめてください。
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■p49(p195)
「履ける靴が見つからないなら何者として生きていけばいいんだろうね」
赤ん坊が生まれたときに最初に聞かれるのが「男の子?女の子?」であることが示すように
性別は人間のアイデンティティを決定する最初にしてもっとも基本的な区分けとされています。
伝統的な社会規範は第三の性なるものは認めないし、その区分に外れるものは異物と扱われてしまうわけです。
しかし性自認は、全ての人が常に一致するというわけではなく、反対だったり、揺らいでいたり、様々な形があります。
外科的に女性になったけど、パートナー嗜好は女性というケースもあるそうなので話はどんどんややこしくなります。
さらに半陰陽(インターセックス)という、男女の特徴を併せ持って生まれてくるケースも存在します。
このような多様性について、性のあり方は無数に連続的にあり、人間の個性であるので2分できるものではないとして
”性はグラデーションである”という言説を唱える人もおられます。
それに対して例外的な分化障害を過大に扱って性は連続的と言うのは無理がある、という批判もありますが
自分はこういうことは思ってもみなかったことだったので、色々考えるきっかけになりました。
性の成り立ちのプロセスは非常に複雑で、先天性・後天性どちらのみともいえず
現在なお議論されている問題だそうです。
参考:「ブレンダと呼ばれた少年」
こうした性にまつわる問題は個人のプライバシーや人権と隣接する部分であり、
また、それを扱うフェミニズムの考え方には視野を広げさせられるところは大きいのですが
過激な政治主張を含んでいたりするので、取り扱いが非常に難しいと感じます。
しかし、僕自身萌えマンガにカテゴライズされる作品(大げさに言えば性の商品化)でメシを食ってきたわけで
一度きちんと考えておかなければいけない事柄だったので、身の丈に余る問題と知りつつも挑戦しました。
■p50(p196)
「そんなことはもう気にしていないしね」
「前の男なんか一晩泣いたら綺麗に忘れた」という女性の強さとも取れますが
昨夜の事件がこの後の手術のきっかけにはなっている訳で、
果たして本心の言葉なのか、ロレンゾに対する心配りでそう言ってるだけなのか、
よくわからん女心としてここは曖昧な解釈ができるよう
この台詞をしゃべってる時のアマリの表情がはっきり見えない構図を選びました。
■p51(p197)
「硝子の靴を履くために継母の娘は踵を削った」
原典に近い訳だと出てくるエピソードですが
グロテスクさと滑稽さ、悲哀と様々な受け止め方が出来る深みがあるように思います。
ちょっと昔に「どんだけー」というのが流行りましたが、(その言葉自体はどうでもいいのですが)
その絡みで新宿歌舞伎町のゲイバーが取り上げられていて、
そこの人々がすごく印象に残っていてこの作品制作のきっかけにもなっています。
マイノリティとしての生き方で人一倍大きな悩みや問題を抱えてるだろうに、なんであの人たちはあんなに前向きなんだろうと。
趣味で合う部分は全くないんですけど、
(たとえテレビの演出や空元気だったとしても)彼らのバイタリティというか、懲りない生き方といのは見る人を元気づけるものがあっていいなあ、
こういう生命力のある逞しい人たちを漫画にかきてえなあと思ったわけです。
別にジェンダー云々に興味がなくても、自分の生き方を前向きに貫く人間の姿として描けば、読者の共感を得られるハズだという読みもありました。
あと「メゾンドヒミコ」という映画があって、ゲイの老人ホームのお話なんですが
そこの人間模様がすごくよくて、前述の生命力みたいなのを感じられると思います。
役者が非常にくせ者揃いで、監督のコメンタリも面白かったです。
この漫画に直接的に影響してるシーンはないですけど、いろいろ勉強になりました。
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