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2009年2月16日

◎運転免許の返納 支援制度をさらに広めたい

 運転免許を自主的に返納する高齢者に対する各種支援制度が、全国で急速に普及してい る。昨年の返納者数が過去最多の二万九千人余(前年比約50%増)に急増したのは、そうした支援制度が、身体能力の低下などを自覚し、運転を続ける自信をなくしていた潜在的な「返納希望者」の背中を優しく押す効果を発揮したからだろう。石川、富山でも積極的に広めていきたい。

 富山市では、返納者に二万円分の公共交通機関乗車券などを給付し、希望者には免許証 に代わる身分証明書となる運転経歴証明書の取得費も助成して、既に相当の実績を挙げている。石川でも、四月から七尾署管内で地元の温泉旅館で使える一万円分の金券を贈る制度がスタートする予定であり、成果に期待がかかる。未実施の地域でも、先行事例にならって知恵を絞ってほしい。

 公共交通網が手薄な過疎地などでは、免許を手放した途端に日常生活が一気に不便にな るケースも多く、それが高齢者に返納をためらわせる一因になっていると言われる。支援制度の実施に当たっては、返納後の利便性にも配慮する必要があり、鉄道やバス事業者はもとより、タクシー業界などにも協力を呼び掛けたい。

 もちろん、市町村や警察署単位での実施にこだわる必要はあるまい。たとえば、昨年の 返納者数が前年の約四・五倍に増えた東京都では、企業や団体でつくる協議会がサービスや商品の割引、定期預金の金利優遇など返納者向けのさまざまな特典を提供している。石川、富山でも、県警などが主導して県ぐるみの取り組みを検討してみてもよいだろう。

 免許を保有する高齢者の増加に伴い、最近は高齢者が加害者になる交通事故も目立つよ うになってきた。ただ、加齢による身体能力の衰え方などに個人差があることを考えれば、一律の年齢制限を設けるのは困難であり、無理に規制すれば「もみじマーク」のように反発を招きかねない。自主的な返納を促す支援制度の拡充は、悲惨な事故の当事者となる高齢者を少しでも減らすための現実的な選択肢と言えよう。

◎イラク復興支援 新生JICAの試金石

 自衛隊撤収後のイラク復興支援事業を本格的に進めるため、政府は国際協力機構(JI CA)職員らによる現地視察団を派遣した。JICAは一元的な政府開発援助(ODA)の実施主体として昨年十月に再出発したばかりであり、円借款によるイラクの戦後復興事業は、新生JICAの大きな試金石である。ODAの「新司令塔」の役割をしっかり果たしてもらいたい。

 日本はイラクに対して、十五億ドルの無償資金と最大三十五億ドルの円借款の供与を表 明している。医療や発電施設整備など急を要する無償資金協力は実施済みだが、低利融資でインフラを整備する円借款事業は、契約締結作業が昨年始まったところである。

 日本のODAは技術協力、無償資金協力、円借款の三本柱で、それぞれJICA、外務 省、国際協力銀行が分担してきた。しかし、現地調査の重複などの無駄が指摘され、無償資金協力の大半と円借款がJICAに移管された。イラクで予定される石油精製施設の復旧や火力発電所改修、かんがい施設整備など重要な円借款事業が、世界最大級の援助機関になったJICAに託されたのである。

 イラクは世界第三位の原油埋蔵量を誇り、未開発油田が多数残っている。石油権益をめ ぐる国際競争が激しいイラクとの関係強化は日本にとって大変重要であり、それだけJICAの責任は重い。

 イラクではなおテロが続き、治安情勢は予断を許さないものの、着実に改善されており 、フランスのサルコジ大統領は今月バグダッドを訪問し、イラク復興に積極的に協力する方針を伝えている。イラク戦争に反対したフランスもドイツも米軍撤退後をにらんで復興支援活動を強めている。

 イラク復興の民間支援で日本は出遅れている。JICAはその遅れを取り戻し、民間企 業の復興活動を先導する役割を担っている。イラクでは今後一年以内に、米軍地位協定の是非を問う国民投票や連邦議会選挙が行われる。転機にある政治状況を的確に判断しながら、円借款事業の円滑な実施に努めてもらいたい。


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