派遣切り・「社会が悪い」は本末転倒(上)
gooニュース×Voice連携企画 話題のテーマに賛否両論!
派遣切り・「社会が悪い」は本末転倒(奥谷禮子・人材派遣会社ザ・アール社長)
坂本政務官の言葉は正論
金融危機の影響を受けて名だたる日本企業が赤字に転落し、「派遣切り」のニュースが世間を賑わわせている。しかし、その報道姿勢はまったくおかしい。かわいそうと煽り立てるだけで、彼らを「被害者」として持ち上げている。
「派遣社員」とは要するに契約社員のことで、かつてから季節工や期間工と呼ばれる存在であった。そして、その契約期間がいつ終わるかは、契約を結ぶ初めの段階から明らかになっている。
そこで契約更新にならない可能性が少しでもあるならば、契約社員を続けながら、不測の事態に備えておくべきではなかったか。たとえば、しっかり貯金をする。「お金が三○○円しかありません」という声を聞くたび、どうしてあのような状況が生まれるのか不思議に思う。毎月の給与からたとえ一万円ずつでも貯金していけば、三年間で三六万円。そのくらいの蓄えがあれば、最低でも次のアパートを探すくらいはできるはずではないか。
あるいは、契約社員ではなく正社員をめざしてスキルアップし、自らの付加価値を高める。いま企業が欲しがるもっとも大きな財産は「人」だ。私が経営する派遣会社「ザ・アール」で派遣社員として採用した人も、優秀であればあるほど他企業に引き抜かれてしまう。
つまりはその辺りの認識と準備が、いま「派遣切り」に遭っている人には足りなかったといわざるをえない。そういう自己防御があったうえで、それでもどうしようもない部分については、行政がどうする、企業がどうする、という話になるはずだ。元派遣社員に引き続き寮への入居を許している企業もあるようだが、それは企業の「善意」であって、「義務」ではない。「景気の影響で仕事がなくなり、住むところを失った。企業が悪い。社会が悪い」と騒ぐのは本末転倒である。
このグローバリゼーション下で日本企業は必死に戦っている。バブル崩壊前までに蓄積された過剰投資、過剰雇用、過剰設備投資、つまりは現在の米国のビッグスリーと同じような状況をどう緩和させるか、ということに各社は心血を注いできたのだ。
コスト部分についてかなりシビアになっているなかで、今回のような危機が発生したとき、派遣社員の調整によって人件費を削減しようとするのは当然ではないだろうか。
驚くべきは年末年始に「派遣村」に集まった五○○人のうち、生活保護を希望していた二七二人全員に受給決定が出たことである。手取り一七万円を受け取って、保険もすべてタダという状況で、働く意欲が彼らに生まれるのだろうか。
本来ならば、新しい仕事を探すために手当を与えるというやり方がとられるべきで、その場凌ぎの解決策では結局、モラルハザードが生まれるだけである。甘やかしは彼ら自身を不幸にしてしまうのだ。
一般市民にしても、安易に生活保護を選択する人のために税金が使われるのは、納得がいかないだろう。坂本哲志総務政務官が「あの人たちは本当に真面目に働こうとしている人たちか」といってバッシングを受け、すぐに撤回したが、その言葉は正論である。
「ロスジェネ」はただの言葉遊び
今回、いわゆる「失われた十年」の就職氷河期に社会へ出た「ロスト・ジェネレーション」の多くが市場からはじき出されて非正規雇用に回り、その人たちが金融危機で悲惨な目に遭っている、という議論もあるようだ。
しかしこれも、私にいわせれば考え違いである。そもそも「ロスト・ジェネレーション」といってもその期間は十年間あったのだから、そのあいだにいろいろ努力ができたはずだ。初めの入り口は厳しかったかもしれないが、その後、いくらでもリカバリーショットが打てたはずである。
私のなかで「ロスジェネ」とは、たんなる言葉遊びでしかない。ロスト・ジェネレーションの「ロスト」は社会ではなく、むしろ自分たちのなかの「ロスト」なのではないか。
あるいは、この不景気を受けて各企業の内定取り消しが続き、このまま行けば第二の就職氷河期が到来して新たなロスト・ジェネレーションが生まれるのではないか、という声もある。しかし、これもおかしな議論だ。団塊世代の引退などもあって、現在、若年労働力はかなり不足している。ただ若いというだけで、それはとても貴重な戦力なのだ。
たとえ一社から内定取り消しを受けたからといって、その会社にしがみつかずとも、分野を変えればいくらでも自分を重宝してくれる企業があるはずではないか。
ユニクロやロフトが契約社員の正社員化を進めた時期があったが、ひとえにそれもよい人材を抱え込むためだ。学生やその両親も含めて、既存のブランドに寄り掛かる、という価値観自体をそのためには変えていくべきだろう。
派遣切り・「社会が悪い」は本末転倒(奥谷禮子・人材派遣会社ザ・アール社長)
坂本政務官の言葉は正論
金融危機の影響を受けて名だたる日本企業が赤字に転落し、「派遣切り」のニュースが世間を賑わわせている。しかし、その報道姿勢はまったくおかしい。かわいそうと煽り立てるだけで、彼らを「被害者」として持ち上げている。
「派遣社員」とは要するに契約社員のことで、かつてから季節工や期間工と呼ばれる存在であった。そして、その契約期間がいつ終わるかは、契約を結ぶ初めの段階から明らかになっている。
そこで契約更新にならない可能性が少しでもあるならば、契約社員を続けながら、不測の事態に備えておくべきではなかったか。たとえば、しっかり貯金をする。「お金が三○○円しかありません」という声を聞くたび、どうしてあのような状況が生まれるのか不思議に思う。毎月の給与からたとえ一万円ずつでも貯金していけば、三年間で三六万円。そのくらいの蓄えがあれば、最低でも次のアパートを探すくらいはできるはずではないか。
あるいは、契約社員ではなく正社員をめざしてスキルアップし、自らの付加価値を高める。いま企業が欲しがるもっとも大きな財産は「人」だ。私が経営する派遣会社「ザ・アール」で派遣社員として採用した人も、優秀であればあるほど他企業に引き抜かれてしまう。
つまりはその辺りの認識と準備が、いま「派遣切り」に遭っている人には足りなかったといわざるをえない。そういう自己防御があったうえで、それでもどうしようもない部分については、行政がどうする、企業がどうする、という話になるはずだ。元派遣社員に引き続き寮への入居を許している企業もあるようだが、それは企業の「善意」であって、「義務」ではない。「景気の影響で仕事がなくなり、住むところを失った。企業が悪い。社会が悪い」と騒ぐのは本末転倒である。
このグローバリゼーション下で日本企業は必死に戦っている。バブル崩壊前までに蓄積された過剰投資、過剰雇用、過剰設備投資、つまりは現在の米国のビッグスリーと同じような状況をどう緩和させるか、ということに各社は心血を注いできたのだ。
コスト部分についてかなりシビアになっているなかで、今回のような危機が発生したとき、派遣社員の調整によって人件費を削減しようとするのは当然ではないだろうか。
驚くべきは年末年始に「派遣村」に集まった五○○人のうち、生活保護を希望していた二七二人全員に受給決定が出たことである。手取り一七万円を受け取って、保険もすべてタダという状況で、働く意欲が彼らに生まれるのだろうか。
本来ならば、新しい仕事を探すために手当を与えるというやり方がとられるべきで、その場凌ぎの解決策では結局、モラルハザードが生まれるだけである。甘やかしは彼ら自身を不幸にしてしまうのだ。
一般市民にしても、安易に生活保護を選択する人のために税金が使われるのは、納得がいかないだろう。坂本哲志総務政務官が「あの人たちは本当に真面目に働こうとしている人たちか」といってバッシングを受け、すぐに撤回したが、その言葉は正論である。
「ロスジェネ」はただの言葉遊び
今回、いわゆる「失われた十年」の就職氷河期に社会へ出た「ロスト・ジェネレーション」の多くが市場からはじき出されて非正規雇用に回り、その人たちが金融危機で悲惨な目に遭っている、という議論もあるようだ。
しかしこれも、私にいわせれば考え違いである。そもそも「ロスト・ジェネレーション」といってもその期間は十年間あったのだから、そのあいだにいろいろ努力ができたはずだ。初めの入り口は厳しかったかもしれないが、その後、いくらでもリカバリーショットが打てたはずである。
私のなかで「ロスジェネ」とは、たんなる言葉遊びでしかない。ロスト・ジェネレーションの「ロスト」は社会ではなく、むしろ自分たちのなかの「ロスト」なのではないか。
あるいは、この不景気を受けて各企業の内定取り消しが続き、このまま行けば第二の就職氷河期が到来して新たなロスト・ジェネレーションが生まれるのではないか、という声もある。しかし、これもおかしな議論だ。団塊世代の引退などもあって、現在、若年労働力はかなり不足している。ただ若いというだけで、それはとても貴重な戦力なのだ。
たとえ一社から内定取り消しを受けたからといって、その会社にしがみつかずとも、分野を変えればいくらでも自分を重宝してくれる企業があるはずではないか。
ユニクロやロフトが契約社員の正社員化を進めた時期があったが、ひとえにそれもよい人材を抱え込むためだ。学生やその両親も含めて、既存のブランドに寄り掛かる、という価値観自体をそのためには変えていくべきだろう。
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