熟読玩味(35)偽装事業主 労働ダンピング あの手、この手

 偽装請負、偽装出向、人件費を削減するためには、なりふり構わずという事例が目立ちます。アルバイトと請負契約を結び、雇用主の責任を全て、放棄するという、極めて悪質な事例が報道されています。

 朝日新聞(夕刊)2006年11月22日・・・・ 従業員が一方的に「事業主」扱いにされ、残業代の支払いや労災の補償などを受けられないといった被害に遭うケースが増えている。22日には、不払い残業代や慰謝料などを求める訴訟を起こした20代の男女4人が、厚生労働省で記者会見し、「知識がない若者に狙いを絞り、不法行為が横行している」と被害の実態を訴えた。

 会見したのは大阪市の中馬武士さん(24)、東京都の岩田真理子さん(28)ら。中馬さんは02年10月、東京都内に本社があるイベント企画会社に、カード販売促進スタッフとして時給制のアルバイトで採用され、スーパーなどに派遣されて新規会員の募集などをしていた。だが1年後、「業務委託契約」に切り替えられ、「個人事業主」扱いに。何の説明もなく「契約書」を書かされ、本社異動後も「事業主」のまま長時間労働や休日出勤をさせられた上、残業代や交通費なども出なくなった。

 労働者が企業で働く場合、失業手当やけがをしたときの治療費などを保障する雇用保険や労災保険への加入が原則として義務づけられている。雇い主は、保険の種類によって全額ないし半額を負担しなければならない。

 だが、労働者を「社員1人でやっている取引先の自営業者」と解釈し、個人事業主との請負や委託の形の契約とすることで、保険料は自己負担となる。労働者でなくなれば、残業代や有給休暇、最低賃金など労働関係法の保護からも外れる。

 中馬さんらは10月中旬、会社を相手取り、不払い残業代や慰謝料などを求めて東京地裁に提訴、労働組合も結成した。中馬さんは「『そういうものだ』と疑いもしなかったが、会社は巧妙だった」と怒りを込めた。会社側は「お答えできない」としている。

 偽装請負が問題にされていますが、この事例は、アルバイトを「個人事業主」に偽造したものです。労働基準法と労働基準監督行政の根幹を揺るがす問題です。労働者を労働者と認めないのですから、労働者の定義を巡る法に対する挑戦でもあります。

 同様な問題は、実質的に安価な労働力である、外国人研修生(研修期間であり、技能を学んでいるから、学生と定義され、労働者としては、認められていません。実際には、研修が行われていないばかりではなく、禁止されている時間外勤務も、深夜に及び、時給も
350円など、最低賃金を下回る労働条件が常態化しています。)にもあてはまります。労働基準監督署は、こうした事例でも多くの場合、労働者ではないとして、適正な時間外勤務手当の支払を命じてはいないのです。

 NHKのニュースでも、この問題が取上げられ、(11月23・24・26日)「厚生労働省は、今後、研修生らを法的に保護することなど、制度の抜本的な見直しを進めることにしています。」と報道されていますが――――ちなみに、23日は、「外国人研修生1万人が失そう」
24日は、「受け入れの2900社、保険未加入」26日は、「外国人研修 不正200件超す」が問題の発端です。

 偽装事業主の問題は、「被害に遭うケースが増えている。」というレベルではないと思います。報道されているのは氷山の一角に過ぎません。私が担当した労働相談の中でも、2件の偽装事業主の事例がありました。いずれも、IT技術者が、雇用主に請負契約の締結を強要され、労働者性を放棄させられていた事例です。

 この両者の事例では、労働者は、雇用主と請負契約を締結し、労働者は、IT大手企業に派遣されていますが、雇用主はIT大手企業と請負契約を締結する形をとっています。しかし、業務上の指揮監督は、IT大手企業社員が行っているのですから、偽装事業主と偽装請負の併せ技です。

 こうした契約形態はIT業界では、かなり蔓延していることが、日本経済新聞 2006年10月16日「システム大手 請負 点検 野村総研 契約に指針 NTTデータ 全社員に研修」などの報道で窺えます。又、事例の内、Aさんは、金銭解決で退社後、再就職も全く、同じ形態で、今でも、個人事業主のままです。

 両者の事例では、月額報酬は40万円超と、一見高いように見えますが、ボーナスがないこと、長時間残業が恒常化している職種であること、健保・年金の問題、(当然、国民健保・国民年金)雇用保険がないこと、労災保険がないこと、の大きなリスクを内包しています。更に、雇用が長期的に安定していないことが最大の問題です。

 IT技術者の場合、技術革新のペースは、極めて高く、相当高度な教育システムがない限り、本人が持っている職務上の能力や技能は数年で陳腐化する可能性が高いのです。不要とされた元IT技術者は、解雇という形さえとられず、契約を一方的に打ち切られる可能性が高いのです。

 これは、完全に、労働者を商品として捉え、使い捨てを前提とした契約です。IT技術者のあいだでも、階層の分離が進行しているようです。システム設計を行う、中核的な技術者と、主として、メンテナンスなどの定型的な業務を担当する技術者への分化です。後者は、事例に見られるように、物理的な力として扱われ、景気変動の調整弁として、教育も受けず、磨耗するだけの部品と化しているのです。

(11月27日 上泉)


熟読玩味(34)現実無視と国家による犯罪

 「日本版イグゼンプション」あるいは、「ホワイトカラー・イグゼンプション」という言葉を聞いたことがありますか。今、多くの勤労者の生計を破壊する陰謀が、着々と進んでいます。しかも、その舞台は、厚生労働省の諮問機関である、労働政策審議会の労働条件分科会なのです。

 朝日新聞(夕刊)2006年11月9日・・・・厚生労働省の審議会で議論されているホワイトカラー・エグゼンプション制度が導入され、年収400万円以上の会社員が労働時間規制の対象から外されると、約1千万人の会社員が1人年間114万円の残業代を受け取れなくなる、とする試算を民間シンクタンク、労働運動総合研究所(労働総研)がまとめた。
 この制度は、1日8時間を超える場合は割増賃金を支払わなければならないとする現在の労働時間規制の対象から、年収が一定以上の人を外すというもの。時間でなく、成果に応じて賃金を支払いたいとする経済界の要望に沿ったもので、「400万円以上」は日本経団連が提案している。


 労働総研は、国税庁の民間給与実態調査や総務省の労働力調査をもとに試算した。05年の会社員約4,500万人のうち、年収が400万円以上の人は約2,300万人で、管理職らを除くと約1,013万人となった。

 一方、計396時間に対象者の時給をかけて総額11兆6千億円、1人年間114万円が支給されなくなる計算になった。

 労働総研代表理事の牧野富夫・日本大学経済学部長は「制度の実態は賃金の横取り。過労による健康被害急増も必至だ」としている。・・・・

 日本経団連の提案とは、2005年6月21日に出された「ホワイトカラー・エグゼンプションに関する提言」ですが、現行の「専門業務型裁量労働制対象業務」以外の業務で(新しい)法令で定めた業務及び、年収700万円以上又は、全労働者の給与所得上位20%の場合は、労使協定、労使委員会の決議のいずれかで対象業務を、法令で定めた業務以外の対象業務を、追加することが可能となる法律を作ることでありその人を、労働時間規正の対象外とするものです。

 又、年収400万円以上の場合又は、全労働者の平均給与所得以上の場合は、労使委員会の決議による場合に限って、法令で定めた業務以外の対象業務を、追加することが可能となる法律を作ることでありその人を労働時間規正の対象外とするものです。

 いずれの場合も、現行の「専門業務型裁量労働制」や「企画業務型裁量労働制」が、本人同意を必要な要件としているのに対し、労使委員会決議があれば、本人同意は不要とされています。いわゆる「御用組合」という言葉がありますが、御用組合さえ味方につければ何でもありというのが「提言」の内容なのです。

 年収400万円の労働者の収入をモデル化して見ましょう。月例給与(手取りではありません)222,000円、賞与年間5ヶ月で、計算すると、3,774,000円が基礎的な収入です。これに厚労省の毎月勤労統計による1人平均の年間残業時間156時間の時間外勤務手当分
時給1,281円に労働基準法で定められた下限の割増率25%を加えると、1時間当たりの時間外勤務手当は、1,601円で、156時間分ですから、年間の時間外勤務手当は、249,756円となり、これを加算すると、めでたく、年収400万円以上の高級労働者になれる仕組みです。ただし、「自律的に働く労働者」に昇格すると、労働時間規制から適用除外(イグザンプション)されますので、昇給がなければ、元に戻ります。

 1月当たりの時間外勤務手当は、20,813円ですから、月例給与の9.38%になります。労働基準法では、「(制裁規定の制限)第91条 就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない。」と定めています。この条文は、制裁規定に関する条文ですから、当該労働者に非違行為があったことを前提にしています。

 月例給与の9.38%減は、10分の1と近似値です。しかも、時間外勤務は、月により変動するのが普通ですから、(どんな業務にも忙しい時期と暇な時期があるものです。毎月、決まった時間しか時間外勤務がされてないとしたら、「これ以上の残業は認めない」という
サービス残業である可能性が濃厚です。)月によっては、10%を超過することがあることは、容易に想像出来ます。

 法律を新しく作るわけですから、違法行為ではないかもしれません。しかし、労働基準法が、非違行為に対する制裁の制限を10%としたのには、理由がある筈です。にも拘わらず、実質的に月によっては、10%を超える減給を強要する行為は、やはり、犯罪なのではないでしょうか。

 注意を要するのは、上記の例はあくまでも平均の残業時間をもとに計算されていることです。長時間の残業をしてやっと、年収400万円の人たちも多数存在しています。月例給与が200,000円で賞与が5ヶ月の場合、3,400,000円が基礎的収入です。不足分、600,000円を埋めて、「自律的に働く労働者」に昇格するためには、年間416時間、月35時間の時間外勤務が必要になりますが、こちらのほうが実態に近いのではないでしょうか。年収400万円から、60万円も減給されて生計が今までどおり維持できるのでしょうか。「お父さんのお小遣い半額にします。」というレベルでは追いつかないのは、勿論です。これが可能な人は、お小遣い10万円の人です。減給10%超の犯罪的行為は、毎月にわたる可能性も否定できません。

 労働総研代表理事の牧野富夫・日本大学経済学部長は「制度の実態は賃金の横取り。過労による健康被害急増も必至だ」としている。そうですが、何故、その提言に基づき、実態を踏まえた、読者が共感を覚える記事が書けないのでしょうか。

 労働政策審議会、労働条件分科会の審議は、法律学者を中心とする研究会の報告書を基本的なたたき台として、厚生労働省が作成した、素案などの取りまとめ文書をベースに議論が進められています。そのいずれもが、現実を無視しています。「厚労省の毎月勤労統計による1人平均の年間残業時間156時間に加え、不払いの残業時間も年間240時間あると推定。」と記事にありますが、報告書にも取りまとめ案にも、長時間残業や、サービス残業の問題は触れられていません。

 こうした議論こそは「机上の空論」の代表と言えるでしょう。

 もう一度記事を引用しますが、「労働総研は、国税庁の民間給与実態調査や総務省の労働力調査をもとに試算した。05年の会社員約4,500万人のうち、年収が400万円以上の人は約2,300万人で、管理職らを除くと約1,013万人となった。」この1,013万人が概ね、年収400万円〜500万円の層に重なると思います。これだけ、多くの人たちの生計を直撃する法改正について、ジャーナリストたちは、どのように考えているのでしょうか。

 日本経済新聞は、同日の朝刊で、「自由度高い労働時間性 健康管理など強化条件 厚労省が導入案 労制審に提示へ」という長文の記事で、労働政策審議会の審議の進行状況を報じています。朝日は、無視です。

(11月10日 上泉)


熟読玩味(33)所得格差 総務省の強弁

 格差社会が大きな問題となる中で、総務省は、従来の統計と異なるデータを用いて、日本の所得格差は、先進国中、中位であることを主張しています。所得格差が進行している事実は、既に、国民の意識に定着しているのですから、わるあがきとしか思えません。

 日本経済新聞 2006年11月3日・・・・ 総務省は2日、所得格差を示す代表的な指標である「ジニ係数」を経済協力開発機構(OECD)加盟国で比べると、日本は中位に位置するという調査をまとめた。日本の係数は緩やかに上昇しているものの、国際比較では必ずしも格差の度合いが大きいといえないとの見解を示した形だ。

 同日発表の2004年の全国消費実態調査の中で分析した。ジニ係数は所得分配の偏りを示す指標で、係数が一に近づくほど所得格差が大きいことを示す。総務省は国際比較のため、収入から税金や社会保険料を除いた可処分所得ベースで係数を算出し直した。

 04年のジニ係数は0.278と1999年の前回調査時点より0.005ポイント上昇した。調査年に違いはあるものの、日本はドイツやスウェーデンよりは所得格差が大きく、米英よりは小さい。総務省によると、OECD加盟国のうち比較可能な24カ国中、日本は上から12番目で、フランスと同順位という。

 日本の所得格差をめぐっては、OECDが7月に発表した対日経済審査報告書の中で、相対的貧困率(所得が分布の中央値の半分に満たない人の比率)が13.5%と米国に次ぐ高い国になったと指摘。「正規、非正規労働者の二極化傾向により、格差が固定化する恐れがある」と警鐘を鳴らした。

 OECDのデータは所得の少ない世帯が相対的に多い厚生労働省の「国民生活基礎調査」に基づくとみられる。これに対し、調査世帯が約6万と国民生活基礎調査(回答世帯は約4万5千)より多い全国消費実態調査を使うと、日本が特に格差が大きいわけではないという結果になった。

 ジニ係数は一部の国を除いて全般に緩やかに上昇している。経済のグローバル化により、国際競争にさらされる企業は人件費を上げにくく、所得のなかなか上がらない層と富裕層の差がつきやすくなっていることが背景にあるとみられる。

 2005年にOECDが発表した、1900年代後半の各国の「ジニ係数」では、日本は、0.314であり、0.357のアメリカ、ポルトガル、イタリア、ギリシャ、ニュジーランド、イギリスについで、7番目の高い水準でした。又、この時、併せて発表された、貧困率は、アメリカの17.1に次ぐ、主要国中、2番目の水準にありました。OECD加盟諸国全体に範囲を広げてみても、アメリカの他で、日本より貧困率の高い国は、メキシコ、トルコ、アイルランドの3カ国だけです。

 総務省の推計は、従来、使用していた「国民生活基礎調査」に変えて、「全国消費実態調査」に基づいたものですが、「全国消費実態調査」による貧困率の計算を行っていないとすれば、片手落ちの感は免れません。ここに、総務省の恣意性が見られます。

 又、総務省は、収入から税金や保険料を除いた可処分所得ベースで係数を算出したと報じられていますが、前述した、OECDの調査などで持ちられている算出方法(これが国際基準といえます)は、年金や社会保障給付を加えた再分配後所得を、さらに家族の人数で調整したものです。(いちばん単純な方法は、世帯所得を人数で割って1人当たりの所得を算出するというものだが、家族の数が2倍になっても必要生活費が2倍になるわけではない。「階級社会・橋本健二著・講談社選書」この(33)では、この本を参考に記述を進めています。)

 年金等は、実質的に収入であり、これを加算した方がより正確な数値を得られるのは当然です。特に、日本の年金制度は、国民年金と厚生年金・共済年金では、給付に大きな差があり、年金を算入しないと、ジニ係数が低く出るという歪みが生じるのです。

 又、所得格差を検討する場合、「国民生活基礎調査」や「全国消費実態調査」の全サンプルを対象にすることにも問題があります。年金を主要な財源とする65歳以上の高齢者に限定してジニ係数や、貧困率を計算すると、年金制度改革のための貴重な資料が得られると思います。

 前述した、橋本健二さんは、従業員が5人以上の会社や商店を経営する階層や、専門職、管理職そして管理職につながるキャリアをもつことの多い事務職の階層、それ以外の労働者、自営で農林漁業や商工業などを営む人々の階層に分化して、所得格差を検証する必要性を説いています。これは、同じ階層内で、所得格差が拡大しているのかどうかを検証する必要があるためです。

 特に、第3のカテゴリーに属する人々の間で、正社員・非正規労働者の間で、所得格差が拡大していることが懸念されます。

 総務省が行った調査は、そうした現状分析の視点に欠けるものであり、所得格差分析の一端を担うものというよりは、政治的プロパガンダと見たほうが良いと思います。日本経済新聞も、もっと勉強する必要がありますね。

(11月6日 上泉)


熟読玩味(32)フィリッピン人介護士の受け入れ

 要介護高齢者の増加と、介護福祉士が不足している現状から、フィリッピン人介護福祉士の受け入れが計画されています。これは、2006年9月9日に締結された日本とフィリッピンの経済連携協定に基づくもので、看護師400人、介護福祉士600人の規模です。

 朝日新聞 2006年9月12日・・・・同日会見した厚労省の辻哲夫事務次官は、「日本の労働市場に悪影響を及ぼさない、現実的に可能で適切な数字とした」と話した。対象はフィリピンでの看護師資格取得者や介護士研修終了者ら。看護師は3年間、介護福祉士は4年間の在留期間を認め、その間に日本語や実務研修を受け、日本の看護師や介護福祉士の国家資格取得を目指してもらう。取得できた場合は在留期間の延長が無期限に認められる。・・・・

 外国人労働者の受け入れは、出入国管理・難民認定法の定めにより、「投資・経営」「教育」など27分野に限定され、それ以外の分野の労働者については、日本に滞在し労働することが、認められていません。例外となるのは、日系2世、3世に定住資格が与えられ、就労が許可されていること、及び、外国人研修生・実習生制度によるものです。

 この二つの制度によって、多くの外国人が日本で就労しています。日系2世、3世の定住資格者の多くは、請負業者や、(無資格を含む)人材派遣業者を直接の雇用主として、の本の産業の裾野で、低い賃金と過酷な労働条件を強いられています。

 又、技術移転により、国際貢献に資する筈の外国人研修生・実習生制度による外国人労働者も、同様に、低い賃金と、劣悪な労働条件下に置かれています。日本語研修を含むとされている1年間は、研修生、その後、実習生となりますが、研修生は、学生であるとされ、労働基準法の保護すら、受けることが出来ません。

 技術移転により、国際貢献に資するという名目は完全に形骸化し、安価な労働力として扱われている実態が数多く報道されています。朝日新聞 2006年9月3日・・・・社団法人「千葉県農業協会」が受け入れている中国人研修生(26)が研修先の養豚場で男女3人を殺傷したとされる事件で、本来は残業してはいけない研修生が時給450円で月50時間前後の残業をしていたことがわかった。この養豚場主(68)は朝日新聞の取材に対し、「残業がわからないようにするために預金通帳を二つ作り、残業代を別に入金するように協会幹部にいわれた」とも証言。通帳はすでに千葉県警に任意提出され、県警も関心を寄せている。(津田六平、渡辺翔太郎)

 
 ・・研修先の養豚場主によると、崔容疑者は4月の来日後すぐに休日も働き始め、残業が月50時間を超えることもあった。養豚場主には「来日前、中国で100万円ほどの借金をしてきた」と話していたという。

 計画に沿って作業を学ぶ研修制度では、時間外や休日の研修は基本的に認められない。だが、養豚場主は「協会幹部には『パートを雇ったつもりで使えばいい』と言われた。本人が『やらせてくれ』というので残業もさせた」と語った。450円にした理由についても、同じ協会幹部から「研修生間で格差が生じるので、450円以上でも以下でもだめだと言われた」。
 
 ・・●厚労省、企業指導強化へ
 各地で雇用主側の不正行為や賃金トラブルが相次いでいる外国人研修生と技能実習生について、厚生労働省は、受け入れ企業の指導を強化することを決めた。制度を運営する財団法人「国際研修協力機構」が実施している巡回を、現在の年間6千カ所を来年度から7300カ所に増やし、研修・実習先の半数をカバーする。


 同省によると、全国の1万4千〜1万5千企業に約10万人の研修生と実習生がいるという。受け入れ先企業の過半数は、従業員19人以下の小規模な企業(04年度)。残業などの不正行為は05年で180件に上っている。・・・・

 この記事は、あまりにも悲惨な労働実態が殺人事件を生み出した事例です。フィリッピン人看護師・介護士には、在留資格27分野を拡大して、専門職とすることが、政府の規制改革・民間解放推進会議の中間答申案で明らかにされています。朝日新聞によれば、フィリッピン現地の反応は、看護師については、関心が低く、介護士については、ハードルが緩やかであり、関心が高いとされています。

 朝日新聞 2006年10月26日 時時刻刻・・・・フィリピンから看護師と介護福祉士がやって来る。来年度からの2年間で最大1千人を予定。しかし、フィリピンでは、看護師は稼げる米国に目が向き日本への関心は低い。一方の介護福祉士は、日本で資格が比較的取りやすいこともあり、受け入れ側は期待が高まる。人手不足が深刻化する看護や介護の現場。どこまで効果はあるのか。(木村文=マニラ、足立朋子、石井徹)

 フィリピンの看護師は、すでに約50カ国で少なくとも16万人が働いている。広い選択肢を持つ看護師たちから見れば、最大400人を受け入れるという日本はリスクが大きい未知の国だ。・・日本で看護師になるには、高いハードルがある。フィリピンで資格がある人が来日しても、病院での研修を受け、日本の国家試験に合格することが必要だ。

 ・・・・介護現場での期待は高まる。ハードルの高い看護師に比べ、介護福祉士はフィリピンで大学を卒業し、来日後に養成校に2年通えば資格を取れる道があり、「越えられるハードル」といわれる。

 加えての人材難。中央福祉人材センターによると、8月の高齢者福祉・介護保険分野の有効求人倍率は2.06倍(前年同月1.37倍)。全国老人福祉施設協議会の介護職員の状況調査でも、会員の施設の6割が「不足」と答えた。

 ・・東京都内のある介護保険施設。5年ほど前から介護ボランティアとして、3カ月ごとに数人を受け入れている。「体の調子はいかがですか?」。リリベス・ナルバザさん(31)が日本語で声をかけると、お年寄りはゆっくりとうなずいた。ミンダナオ島で助産師として働く2児の母のナルバザさんは、昨年11月に続いて2度目だ。入所者の女性(71)は「言葉や習慣を覚えるだけでも大変なのに一人ひとりの介護の度合いも覚えている。日本人より優しい」と評判は上々だ。

 施設では当初、偏見や日本語能力の不足を訴える声があった。そこで施設長は、フィリピン人に英語で引き継ぎを書いてもらうことにした。細かい質問や心情を伝えられるようになり、信頼感も広がったという。「コミュニケーションにはお互いの努力や準備が必要。受け入れ側も勉強や研究が欠かせない」と施設長は強調する。

 ◆キーワード<フィリピン看護師・介護福祉士受け入れ> 来年度からの2年間に看護師400人、介護福祉士600人の候補者を受け入れることが、9月の経済連携協定(EPA)で決まった。協定は、両国の国会で承認を受けて発効する。窓口は、比側が海外雇用庁、日本側は国際厚生事業団。海外技術者研修協会で日本語などを学んだ後、研修・就労に移る。国家資格取得までの在留期間は看護師が3年、介護福祉士が4年で、取得後は引き続き滞在・就労できる。介護福祉士の資格は養成校を卒業する方法でも取得できる。・・・・

 本当に、介護福祉士の資格は「超えられるハードル」なのでしょうか。確かに、現在の制度では、養成校に2年間通えば、資格がとれるのですが、養成校の授業は、日本語で行われますし、学期毎の試験に合格する必要があります。半年の日本語研修で、専門学校の授業についていけるのでしょうか。その間に必要な学費や生活費はどのようにして工面されるのでしょうか。昼間、高齢者施設で、働いて夜間のコースに通う場合、通常は3年間の履修が必要です。しかも、高齢者施設で人手不足が最も深刻なのは夜間なのです。

 一方、4年の期間の間に半年間の語学を中心とする研修を受け、その後、働きながら、国家試験の合格を目指す選択肢もあります。しかし、人手不足が深刻な高齢者施設の中で、働きながら、語学の壁を超えて勉強して、試験に合格するのは、至難の技です。

 いずれにしても、高齢者施設側の手厚い援助が不可欠ですが、多くの施設は、人材難に加えて財政難に喘いでいるのが現実です。EPAによる介護福祉士が日本の資格を取り、定住して、働けるようになるためのハードルは決して、低くはないのです。

 このため、フィリッピンから、来日する介護福祉士が、結局は「短期的な、安価な労働力」として扱われる可能性が危惧されます。厚生労働省や、受け入れる高齢者施設は、どのようにして、この問題を解決するのでしょうか。第二の外国人研修生・実習生問題を生み出すことはゆるされないことです。

(10月30日 上泉)


熟読玩味(31)少子高齢化対策の矛盾

 日本の人口に占める65歳以上の高齢者の割合は、21.0%と世界最高になる一方、15歳未満は13.6%で世界最低となり高齢化・少子化が世界で最も進行した国となっています。人口ピラミッドは30代前半と50代後半が膨らむ逆ひょうたん型となっています。こうした人口バランスの歪みは、現役世代の保険料で高齢者を支える年金制度などに大きな影響を与えます。

 社会保障の財源が逼迫すれば、行政が取りうる選択肢は、社会保障の水準を低下させる、
社会保険料を値上げする、税金を高くする、のいずれかに限定されます。小泉内閣が最初に手をつけたのは、高齢者の医療費の自己負担率の増加です。更に、税制上の優遇措置の撤回です。

 高齢者の増加は、単純に人口ピラミッドの変化として捉えるわけにはいきません。高齢者の中で、一人暮らしの高齢者が急激に増加しつつあります。このことは、社会的な支えを必要とする高齢者が増加することを意味します。

 現役世代にも多くの問題があります。人口ピラミッドの突出部である、50代後半の団塊の世代は、数年後には、退職の時期を迎えます。定年制の延長も試みられていますが、大多数の企業は、定年制の廃止や、定年の延長ではなく、再雇用の方式を選択しているのが現状です。

 又、30代前半は二極化が顕著な世代でもあります。一方の極には、ニート、フリーターが存在します。この世代は団塊の世代の子どもたちですから、パラサイトシングルとして優雅に暮らしているケースも多いのですが、親世代の退職時期はまもなくです。他方の極では、長時間労働を強いられ、疲弊した若者が存在します。

 月刊100時間の残業では、出会いのチャンスも減り、結婚出来ない、したくないこととなり、未婚率は上昇するばかりです。結婚しても、100時間残業組には、子育てに参画する余裕はありません。フルタイムの女性が子育てのために退職すればパートタイム勤務となるリスクがあります。恵まれた労働条件の場合でも、恵まれた労働条件で働く女性の配偶者の多くは、「恵まれた労働条件」で働く男性であることが多く、育児休業制度はあるが利用できないばかりではなく、長時間労働のため、子育てへの参画を期待することも困難です。子どもを産まないことが最高のリスク回避手段となるのです。

 小泉内閣は「構造改革」を旗印に「自民党をぶっ壊す」と威勢よくスタートしましたが
「構造改革」は、道路公団の民営化を典型として、形ばかりのものとなり、実質的な改革は何一つ実現していません。

 少子・高齢化対策も全て小手先の改革案です。育児休業中の賃金についての報道を検証しましょう。日本経済新聞 2006年10月17日・・・・厚生労働省は会社員の育児休業取得率を引き上げるため、2007年度から雇用保険に新たな支援制度を設ける方針を固めた。企業が育休をとる社員への経済的支援を手厚くした場合に雇用保険の財源で助成する仕組み。育休前賃金の4割となっている雇用保険助成額を最大7割まで引き上げ、企業による独自支援と合算して賃金の全額補償にも道を開く。企業による社員への育休支援強化を促し、仕事と育児を両立しやすい環境を整える考えだ。

 雇用保険には「育児休業基本給付金」などがあり、育休をとる人は原則4割の賃金が補償される。ただ収入減少などの経済的な理由で出産をためらう人も多い。新しい制度は雇用保険の4割補償に上積みして経済的支援をする企業が対象。育休社員に対して3カ月以上にわたる支援を企業が実施する場合に、雇用保険が大企業にはその半分を、中小には3分の2を助成する。新しい助成分は育休前賃金の3割を上限とする。

 例えば月給30万円の社員が育休を取る場合、現制度の雇用保険で賃金の4割にあたる12万円が補償される。企業がそれに6万円を上乗せ支給する場合、新制度では雇用保険が大企業には3万円、中小企業には4万円をさらに助成する。同じケースで大企業が収入を減らさないよう賃金全額補償を目指す場合、企業は育休社員に育休前賃金の6割にあたる18万円を上乗せする必要がある。この場合も雇用保険が半分(3割)の9万円を負担する。

 現制度の4割補償と合わせ新しい制度では雇用保険が実質的に最大7割を負担することになる。企業負担の3割分の上乗せと合わせて賃金が全額補償される計算だ。現在の雇用保険制度には、企業の経済的支援を含め育休社員に一定以上の収入があると育児休業基本給付金を減額する決まりがある。手厚い補償が難しくなるため、この取り決めは見直す方針。

  きょうのことば 育児休業:小さな子供の育児を目的に会社員が会社を休むための制度。育児休業取得率は女性は72.3%、男性は0.5%(2005年度調査)。会社側の理解が進んだことなどを背景に女性の取得率は上昇傾向にあるが男性は低水準。

 これほど間の抜けた政策も珍しいと思います。企業は、依然として人件費削減施策を緩めてはいません。偽装請負、偽装出向、あらゆる手段を駆使してコストを絞り込んでいます。育児休業給付金への上乗せは、女性従業員の戦力を見極めた上で、慎重に対処すべき施策です。

 こうした施策を採る企業は、相当の競争力を保持する企業であり、女性従業員の存在価値を認めている(女性であるからか、それとは関係がないかは別として)企業ですから給与も高いと考えるのが自然です。又、その配偶者が高所得者であることがかなりの確率で予測されます。そうなると、もらって困るものではないにしろ育児休業給付金が、出産・子育てへのインパクトのあるインセンテイブになるのでしょうか。

 効果のない施策が所得格差を拡大する逆累進型の施策です。高齢者医療費は、収入の多い高齢者の医療費負担を増加させるという意味では累進型の施策ですが、育児休業給付金施策はこの政策と全く矛盾した性格を持つものです。

 しかも、この施策は、社会保障制度の基本理念に反するものです。社会保障制度は、税方式と保険方式に大別されますが、私的保険の場合、保険料を納付するに当たって、どのような給付があるかを見て、加入するかどうかを決定するわけですが、公的な保険である
雇用保険であっても、どのような給付を行うのかを、行政の恣意的な判断で行うべきではないことは当然です。

 雇用保険を所管する職業安定局には、雇用保険3事業の資金を流用して、スパウザ小田原などの箱物行政(天下り先製造行政と言うべきか?)で、貴重な資金を溝(どぶ)に捨てた前科があるのです。

(10月21日 上泉)


熟読玩味(30)サービス残業問題を考える

 (29)「手抜き記事の書き方」の続きです。

 「週間金曜日」(2006年7月7日)「すかいらーく店長の死」という記事を読みましたか?中島富雄さんが過労死したのは、2004年8月5日の朝でした。社宅マンションの玄関先にワイシャツ姿で倒れこんだのです。自分で、欠勤を届出、救急車で病院に運ばれましたが、入院から10日後、意識が戻らないまま息を引き取りました。

 中島さんは、すかいらーくグループの店長として複数の店を回っていました。残業は月平均で130時間、多い月は180時間を超えていました。「このままじゃ会社に殺される」中島さんが倒れる前夜に奥さんに残した言葉です。すかいらーくは、中島さんを店長だから労働基準法に定める管理・監督者であるとして、残業代を支払っていませんでした。倒れた前日、中島さんは、「労働相談センター」に「会社に残業代を請求して退職したい」との電話相談をしています。

 奥さんの春香さんが、その遺志を引き継ぎ、東京東部労働組合に加入し、会社と交渉し残業代の支払を受け、労働基準監督署に申告し、労災を認定されました。

 過労死を招くほどの長時間労働の強要が横行しています。その原因はどこにあるのでしょうか?法制では、残業の上限が定められていないことが最大の問題です。労働基準法は36条で、1日8時間、1週40時間を超える勤務を行う場合は、過半数労働組合と、過半数労働組合が存在しない場合は、労働者の過半数を代表する者との書面による協定を結ばなくてはならないことを定めていますが、この規定は、協定さえあれば、どんな長時間残業も違法ではないということになります。

 実際、中島さんのケースと同等の356時間という長時間勤務の事例もあり、F労働基準監督に抗議しましたが、労基署は、過労死を招きかねない長時間労働の実態を突きつけられても、労働基準法違反ではないので、強制力を伴う、改善勧告は出せない。強制力を持たない指導票で指導するとの立場を崩しませんでした。協定未締結という形式については改善勧告を出すのですが、356時間という生命の危険を伴う実態については指導票なのです。

 356時間は、就業規則上の勤務時間を計算したもので、夜勤で休憩になっている時間の多くで、サービス残業が行われていました。しかも、その内容は、警備を担当していたH市の職員が本来担当すべき業務で、一例としては、台風や積雪の連絡を受け、それを担当課所に連絡するという業務も含まれていました。休憩時間中に熟睡していて、ブザーの音を聞き逃して、積雪時のチェーン規制や、通行止めの措置が遅れて事故が起こったら、誰が責任を取るのでしょうか。

 こうした極端な事例ではありませんが、日本経済新聞の記事にあるように、開店前の準備や、始業前のミーティングを労働時間に含めないケースや、実際の労働時間とは無関係に、月20時間以上の残業を認めない、残業を30分単位としてそれ以下は切り捨てるなどのケースも後を絶ちません。

 現在、厚生労働省の諮問機関である労働政策審議会の労働条件分科会は、労働法制の改訂に向けて、検討を行っています。その過程で、議論のタタキダイとなったのは、「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会報告書」「今後の労働時間制度に関する研究会報告書」という二つの学識経験者による報告書と、厚生労働省が作成した「労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(案)」いわゆる「素案」、「労働契約法制及び労働時間法制に係わる検討の視点」いわゆる「検討の視点」ですが、労働条件分科会で配布された参考資料を含めて、過労死や、サービス残業、そして、現行の労働基準行政の問題点を検証したものはありません。

 学識経験者(東大教授の比重が異常に高い)が机上で検討したものをベースに、厚生労働省が政治的判断を加えたものが出され、論点が、「日本版イグゼンプション」と、「就業規則」の問題に絞り込まれつつあり、秋の集中審議を踏まえ、年内には、「最終とりまとめ」、を行い2007年2月通常国会への上程が目論まれています。

 なかでも「日本版イグゼンプション」である、一定以上の年収などを条件とする労働時間規制の緩和・撤廃は、今日の労働の現状を見れば、「自律的な労働」の名の下に長時間労働、「働き過ぎ」を加速し、不払い残業を合法化するだけであり、過労死、過労自殺のさらなる増加に繋がることは明らかです。

 多くの会社で、課長になると、組合員の資格を失い「管理・監督者」として労働時間規制の対象外となることが、労働基準監督行政上見逃されています。労働時間規制の対象外という意味は、原則的に、自らの意思で労働時間を決定できるということであり、労働条件分科会でも、そう説明されています。

 しかし、多くの企業で「課長さん」が、自律的に、出勤時間や退社の時間を決定しているのでしょうか。遅刻を繰り返せば、部長から叱責を受け、低い人事考課に甘んじる他はないのが現実ではないでしょうか。企業によっては、部長は始業1時間前、課長は始業30分前に出勤すべしが、伝統となっており、都市銀行の従業員が、始業1時間前に出勤するのが常識とされる現状があるのです。

 日本経済新聞は、「日本版イグゼンプション」について、課長代理にも残業代を支払わない制度であると定義した記事を掲載したことがあります。労働条件分科会の議論を無視した不勉強を表す定義ではありますが、大企業従業員を主要な読者とする、日本経済新聞の立場に立てば、実態を反映した適切な定義であると言えます。

(10月15日 上泉)


熟読玩味(29)手抜き記事の書き方(報道の怠慢)

 日本の報道(特に新聞各社)記事の質を低下させている原因の一つが「記者クラブ」制度であることは多くの識者によって指摘されています。省庁などの記者クラブがニュースリリースに基づき、十分な取材を行わず、それを記事にするからです。サービス残業に関する日本経済新聞の記事(2006年10月3日)を素材に検証してみましょう。尚、記事は手抜きを暴くために、発表からの引用、記者クラブでの質疑応答、独自調査、取材結果の順で、編集しています。

 ・・・・(厚生労働省ホームページ:報道発表資料によるもの)サービス残業で労働基準監督署から是正指導を受け、2005年度に100万円以上の未払い残業代を支払った企業が過去最多の1542四社となったことが2日、厚生労働省のまとめでわかった。未払い総額は232億9千5百万円で、前年度より約7億円増えた。年度ごとの調査は03年度から開始。労基署が立ち入り、指導した際に一社当たり百万円以上の未払い残業代があったケースを集計した。

 調査によると、指導を受けた企業は前年度より87社増加。1社当たりの未払い額は平均で1529九万円だった。残業代が未払いだった労働者数は16万7千958人で、前年度から1153人減ったが、労働者一人当たりの未払い残業代の平均は14万円になり右肩上がりが続いている。業種別で指導数が最も多かったのは商業で465社。次いで製造業の353社、接客娯楽業の129社の順だった。(但し、電卓を2回使用する必要あり)

(記者クラブでの質疑応答ではないかと判断される部分=10月2日付、共同通信配信と同一の内容)同省は「サービス残業への関心が高まり、労基署などに情報提供が増えている」としている。同省は11月を「賃金不払い残業解消キャンペーン月間」とし、23日に電話で無料相談を受け付ける。電話相談はフリーダイヤル0120・793283。

(独自に調査したと思われる部分)一社当たりの最高支払額は関西電力が昨年六月に発表した22億9700万円。関西電力は営業所での開店前の準備や、始業前のミーティングを労働時間に含めておらず残業時間と考えていなかった。二番目に多かったのは今年一月に判明した福岡銀行の21億4千万円だった。(この部分は、新聞社にある過去の記事のデータベースを使用すれば、2〜3分で検索可能)

 また残業代の割増率を低くしたり、指導を受けても残業の未払い分を支払わないなどの労働基準法違反は年間で2万件以上あり、悪質な事例として書類送検したのは05年で51件あった。(自社のデータをチェックしたのか、あるいは質疑応答か、改めて問い合わせたのかは不明だが数分で出来る作業)

 (取材・インタビューによるもの)調査結果について連合は「景気回復で仕事量が増えているのに企業が人員を充当しないため、一人当たりの残業量が増えている。労働者の時間管理よりも経営を優先する傾向はまだ強くサービス残業は減らない」(総合労働局)と指摘している。・・・・(回答者が匿名であり、面識のある相手であれば、電話取材で済ませることが可能)

 参考までに、共同通信(配信)の連合にたいするインタビュー部分を掲載します。
・・・・「タイムカードを押してから残業をさせられる」「どんなに働いても残業代は一定時間で打ち切り」。昨年、連合が実施した不払い残業の電話相談には、こうした事例が相次いで寄せられた。連合は「隠された不払い残業はまだまだある」とみている。

 昨年11月の3日間、連合が実施した電話相談には約160件が寄せられた。卸・小売業の男性は「会社側の指示で終業時刻にタイムカードを打刻し、毎日午後11時ごろまで残業をさせられている」と打ち明けた。「実際は月100―120時間の残業をしているのに、残業手当は45時間分まで」と相談したのは製造業の男性。不払いの残業代を請求したら「もう来なくていい」と解雇されたアルバイトら悪質なケースもあった。

 連合の田村雅宣(たむら・まさのぶ)労働条件局長は「不払いに気付いていない人がまだ多いし、気付いていても、我慢してしまう人が少なくない」と話す。

 順序は、編集しましたが、下線で示した記事内容は、掲載された記事と全く同じです。短時間で情報を寄せ集め、記事にした様子が窺えます。同省は、23日に電話で無料相談を受け付ける。という部分では、批判的視点の欠片も見当たりません。厚生労働省がサービス残業問題について労働者の相談を受け付けるのは、本来業務であり、ことさらに受付日を特定したり、料金を取る(違法行為と思います。)ことは考えられません。本来、労働者が相談できる窓口は、休日となる場合の多い、週末も利用可能とすべきです。

 無料とは、相談を担当する、厚生労働省職員の休日出勤手当てが無料という意味なのでしょうか。冗談にしてもたちが悪すぎます。ここからも、記者クラブの馴れ合いが窺われます。

 日本の報道のもう一つの問題点として、客観報道ということがあります。報道は中立的な立場に立って異なる様々意見を掲載し、読者に判断基準を提供すべきという考え方です。日本経済新聞の記事は、形式的には、厚生労働省の発表を記事にし、併せて、サービス残業を批判する連合の談話を掲載していますので、形式的には、客観報道の形にはなっています。しかしながら、読者に判断基準を提供しうる内容になっているのでしょうか?サービス残業が労働基準法違反であることすら一言も触れていません。

 ましては、サービス残業で不利益を被っている当事者がどのようにすれば救済されるのか、全く分かりません。厚生労働省の無料相談日に電話をすれば、当事者の問題は解決するとでも思っているのでしょうか。「資料を整えて、担当の労働基準監督署へ行きなさい」との回答が目に浮かぶようです。

(10月11日 上泉)


熟読玩味(28)アスベスト健康被害を考える(現実無視の厚生労働行政)

 昨年の「クボタショック」以来、アスベストの問題は新聞紙上で大きく取り扱われて来ました。内容的には極めて不十分でありますが、「アスベスト新法」も出来ました。「アスベスト新法」後、アスベスト問題に関する報道は質・量ともに低下しています。

 アスベストの問題は、解決済みなのでしょうか。アスベストによる健康被害者の救済措置は、十分な体制なのでしょうか。アスベストを吸引した人たちへの健康管理対策は、万全なのでしょうか。

 朝日新聞2006年10月7日・・・・石綿(アスベスト)を扱う仕事をしたことがあるが、勤務先の企業がすでに廃業してしまった人などに対して、厚生労働省は6日、無料で健康診断を実施すると発表した。11月に全国で申請を受け付ける。在職者や大企業の退職者では健診を実施している場合があるが、中小企業やすでに廃業している場合は、健康管理の機会がなかった。

 現在、石綿作業の経験者の健康管理について、在職者は労働安全衛生法に基づく年2回の企業健診があり、退職者についても昨年7月、同省が通達で企業に実施を要請している。だが、石綿関連疾患は、吸引から発症までが30〜40年と長いうえ、健診を実施できない中小企業も多いため、同省が対応を迫られていた。自己負担の場合、健診には5千〜数万円かかり、同省は2万8千人の利用を見込む。

 健診は病院など全国の148カ所で行い、受け付けは11月1日から17日まで。ただし、検査で異常が見つかる可能性が低い、吸引後10年未満の人は除く。最寄りの健診機関名は同省のホームページ(http://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/10/h1006-1.html)から確認できる。・・・・

 厚生労働省のニュースリリースと、それを吟味せずに記事化した報道の問題点がこの記事に明瞭に現れています。(1)健康管理の機会を与える責任を持つのは誰か、不明です。退職者についても昨年7月、同省が通達で企業に実施を要請している。とありますが、企業とはどの企業を指すのでしょうか。石綿吸引の機会が多いのは、石綿製造企業はもとより、建設業、プラント業など多岐にわたり、多くの場合、当該企業の従業員だけではなく
下請企業の労働者も多数存在しています。労働安全衛生法の定めに基づき、責任を持つ、費用負担を行うのは、元請企業であることを明確にすべきです。

 (2)大企業の多くは、自社の正規従業員に対しては、健康診断を実施し、退職者についても一定の対応をするものと思われますが、転居などにより連絡不能の退職者も多数存在する筈です。この新聞報道で初めて、無料健康診断を受けることが出来ることを知る退職者も少なからず存在する筈です。その意味でこの記事は不親切に過ぎます。アスベストの潜伏期間は40年に及ぶケースもあります。多くの被害者が高齢者であることは、容易に想像出来ることです。ホームページを見ることの出来る人たちはどの位いるのでしょうか。私も、ホームページ検索を15分くらい試みましたが、情報に到達することは出来ませんでした。

 (3)下請企業で、石綿取扱い業務に従事していた労働者の多くは、多数の現場に関わっています。この人たちは、どのようにして無料健康診断を受けたら良いのでしょうか、記事を読んでも理解することは出来ません。

 (4)最大の問題は、アスベストが最大の公害である事実と、国の責任の問題についての問題提起を放棄していることです。アスベスト健康被害の問題は、早くから指摘されていた問題であり、現に、報道機関も学校の校舎の建築にアスベストが使用されていたことが問題となった時期には、大問題として取上げた経緯もあります。厚生労働省には、問題を放置した、行政の不作為による責任がありますが、報道にも責任がないとは言えません。

 クボタショックを掘り起こした毎日新聞も、この問題では、秋田県版に記事があるだけです。日本経済新聞(2006年10月7日)が、事実関係としては正確な記事を掲載しています。・・・・厚生労働省は6日、石綿(アスベスト)を扱う仕事に従事した経験がありながら、勤務先が倒産や廃業し、健康診断を受けられない人を対象にした無料健診を来月から始めると発表した。

 対象者は(1)倒産などで事業者の健診を受けられない(2)石綿被害の健康管理手帳がない(3)従事していた作業が特定できる(4)石綿を仕事で初めて吸い込んでから10年以上が経過している――の条件をすべて満たした人。

 健診は全国148の医療機関で実施する。厚労省は、対象者は約3万人と推定している。 現在、仕事で石綿を扱う労働者には企業が労働安全衛生法に基づき健康診断をしている。退職者も石綿の健康被害が確認され、健康管理手帳が発行されると、無料で健診を受けられる。今回の措置で、無料健診の制度が整った。

 問い合わせは全国労働衛生団体連合会本部((電)03・5442・5934)。健診の受付期間は11月1〜17日。

 電話なら、高齢者でも、問い合わせ可能です。問題点(5)既に、自らの判断で、健康診断を受けた人たちが少なからず存在しています。診断の結果、健康管理手帳が交付された人たち、幸いにも、交付されなかった人たちの診断料金はどうなるのでしょうか。

(6)現在の「健康管理手帳制度」では、アスベストによる健康被害が確認出来た人たちに対してだけ、健康管理手帳が交付され、年間2回の健康診断が受診できることとされています。(4)石綿を仕事で初めて吸い込んでから10年以上が経過していることが条件になっているのは、診断が困難だからです。しかし、診断の機会は無償で提供されるべきです。1回の診断で、確認できない人たちにも無料診断の機会は提供すべきです。少なくとも、石綿関連業務従事者には、全て、健康管理手帳を交付して、無料診断を制度化すべきです。

(10月8日 上泉)


熟読玩味(27)偽装請負初の事業停止(行政は強い者には・・・)

 大阪労働局が、請負業者コラボレートにたいして、偽装請負を行ったとして、全事業所を対象とする事業停止命令を出しました。しかし、労働局の措置と報道には疑問を感じました。「労働局は中小企業には厳しいが、大企業には弱いのではないかという疑問です。」
コラボレートの違法行為は、当然摘発され、処分を受けるべきでありますが、偽装請負の形式で人材派遣を受け、自らの指導・監督の下に業務を行わせていた光洋シーリングテクノ社への処分はどうなるのでしょうか?

 朝日新聞 2006年9月30日・・・・ 実態は労働者派遣なのに、請負契約を装う違法な「偽装請負」を繰り返していたなどとして、厚生労働省は来週中にも、製造請負大手の「コラボレート」(大阪市北区)に対し、労働者派遣法に基づき、事業停止命令を出す方針を固めた。偽装請負に絡んで事業停止命令を出すのは初めて。厚労省は、大手メーカーの国内工場で偽装請負が蔓延(まんえん)していることから、請負・派遣企業とメーカーへの指導を強めていた。

 コラボレートは、国内最大級の人材会社「クリスタル」(京都市下京区)グループの中核会社。コラボレートの事業停止期間は2週間程度とみられる。対象は、労働者派遣法に基づき届け出ている同社の全84事業所に及ぶ見通し。停止期間中、同社はメーカーなどに新しく労働者を派遣できなくなる。ただ、すでに派遣されている従業員は引き続き働くことができる。

 行政処分を出すのは大阪労働局。同時に事業改善命令も出し、すべての事業所での自主点検と再発防止の徹底を求める。

 関係者によると、コラボレートは、トヨタ自動車系の部品会社「光洋シーリングテクノ」(徳島県藍住町)での偽装請負が発覚し、今年2月に徳島労働局から文書指導を受けるなど、各地の労働局から職業安定法違反や労働者派遣法違反があったとして行政指導を受けていた。新たに関西の素材メーカー子会社でも偽装請負が発覚したが、コラボレートは、事前に労働局から報告を求められた際、事実と異なる内容の書類を提出していた。こうした違反の積み重ねが事業停止処分に結びついたとみられる。

 ・・コラボレートは多数の大手メーカーと取引があり、工場内での製造業務を請け負うほか、一部で労働者派遣事業を手がけている。同社の会社案内のビデオによると、04年度の売上高は1560億円。「アウトソーシングでは国内ナンバー1」と自社を紹介している。同社の従業員は今年8月現在3万4290人。グループ全体だと年商は国内だけで5千億円、従業員は11万人を超える。・・・・

 朝日新聞2006年8月8日によれば、・・・・工場には、正社員より賃金が低い約200人の請負労働者が働いている。しかし、その労働実態は、正社員と請負労働者が混在し、正社員が請負労働者に直接指示を出す典型的な偽装請負状態が続いており、今年になって徳島労働局から改善指導を受けていた。・・・・

 偽装請負は、ウィキペディアによれば、偽装派遣とは、・・・・業務請負および個人事業主の場合、本来はメーカーなどの顧客から仕事の発注のみが行われ、請負側は作業責任者を置き配下に人員がいる場合は作業指示を行うのは請負側である。偽装請負となるのは請負側が人の派遣のみを行って責任者がいないか実質的に機能しておらず、顧客の正社員が作業指示を行っている状態を指す。・・・・

 誰でもが理解できるように、偽装請負は、請負業者だけで出来るものではありません。又、顧客が業者より強い立場にあることは明らかです。何故、光洋シーリングテクノの責任追及はされないのでしょうか。今回の大阪労働局の処分は、労働者派遣法違反に基づく処分ですが、偽装請負は、労働者派遣法違反だけではなく、職業安定法違反でもあるのです。

 職業安定法第44条・・・・(労働者供給事業の禁止)何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。・・・・

 光洋シーリングテクノの責任を職業安定法違反案件で追及するならば、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金となります。厚生労働省は、何故、職業安定法上の責任を追及しないのでしょうか?朝日は何故、厚生労働省のこうした手抜きを報道し、批判しないのでしょうか?大きな疑問です。

(10月2日 上泉)


熟読玩味(25)官僚の横暴

 多重債務や自己破産の問題の一因となった「サラ金」について、グレーゾーン金利が問題とされて来ました。グレーゾーン金利とは、金銭貸借の利息の上限(元本10万円未満=年20%、100万円未満=年18%、100万円以上=年15%)を定める利息制限法と、「金銭の貸付を業として行う者の場合、年29.2%を上限とする出資法との差から、生じるものです。貸金業規正法では、利息制限法を超過する利息であっても「貸し出し条件を明示した書面を交付し」「債務者が利息として任意に支払った場合」には、有効な契約であるとされています。

 しかし、強引な返済の要求が行われた場合、任意とはいえない、自動支払機の計算書の裏面に細かな字で印刷されている程度では、書面の交付とはいえない、等の理由で、利息過払い返還を求める訴訟では、相次いで、消費者側に有利な判決が下されています。

 2006年4月に設けられた金融庁総務企画局長の私的懇談会「貸金業制度等に関する懇談会」では、グレーゾーン金利を禁止することで意見が一致しました。しかし、9月5日に金融庁が自民党に示した案は、実質的に、9年間グレーゾーン金利を温存する、又、金額によっては、上限利息が上昇するという、貸金業者よりの改正案でした。

 朝日新聞 2006年9月6日・・・・貸金業の金利引き下げ問題で、金融庁が5日、貸金業規制法の改正案を自民党の金融調査会や法務部会などの合同会議に正式に伝えた。少額・短期の融資などに認める特例金利を年28%としたほか、利息制限法の金利区分を変えて一部の借金額だと利上げになるなど規制強化に逆行する規定が盛り込まれた。

 この特例への不満から、内閣府政務官として規制強化の「推進役」を務めてきた後藤田正純氏(自民党衆院議員)は同日、政務官辞任を表明。金融庁は臨時国会に提出する考えだが、議論が順調に進むかどうか不透明になった。

 金融庁案によると、貸金業界の上限金利を利息制限法の上限(元本により年15〜20%)に一本化し、出資法の上限(年29.2%)は年20%に引き下げてグレーゾーン(灰色)金利を撤廃する。

 金利の引き下げは法律施行から3年後。その後に最長5年間で特例の高金利を認める。当初案にあった見直し条項は削除されたが、改正法の成立から施行までは1年程度かかるため、現状の上限金利の水準が9年以上続く計算となる。

 利息制限法の現在の金利区分は、借金額の元本が10万円未満で年20%、100万円未満で同18%、100万円以上で同15%。これに対し、金融庁案は「制定された54年以来、変更されておらず、物価上昇分を考慮した」として、区分額の10万円を50万円に、100万円を500万円とそれぞれ5倍に上げる。これで、10万円以上50万円未満で2%幅、100万円以上500万円未満で3%幅の利上げとなる。

 ・・8月の金融庁の有識者懇では、委員からは「特例は不要という声が懇談会の大勢」「改正の目的は多重債務者の救済。今の状況で改善をめざすべきで、一部でも利上げになるのはおかしい」という意見が相次いでいた。今後、「規制強化が骨抜きになる」といった批判が高まりそうだ。・・・・

 朝日新聞 2006年9月6日 時時刻刻・・・・昨年11月の後藤田氏の政務官就任に加え、今年1月に最高裁が灰色金利を実質的に無効とする判決を出したことが追い風となって、懇談会は4月に灰色金利の撤廃を決定。与党も規制強化方針を固め、金融庁に具体案を検討するよう求めた。

 これに対し、金融庁内に「進みすぎる改革」への懸念が膨らんだ。金融庁幹部は4月の時点で、「過去に上限金利を引き下げたときは、すでに大手の金利水準は下がっていた。今回は全業者が灰色金利で営業している状態なので、影響がどう出るかわからない」と心配していた。現在でも灰色金利で借りている利用者の8割が問題なく返済しているとしたうえで、幹部は「そういう需要が本当にすべて不当とは言い切れない」と漏らした。

  ■貸金業規制法などの改正案の骨子

 【消費者保護を重視したとみられる項目】
 ・貸金業の上限金利を施行から3年後に利息制限法の15〜20%に引き下げ
 ・1人あたりの総貸付額は借り手の年収の3分の1以内
 ・保証料は金利との合計が上限金利の範囲内にする
 ・出資法違反の刑罰を、懲役5年以下から懲役10年以下に引き上げ
 ・都道府県別の貸金業協会を再編し、全国統一の認可法人化
 ・広告に相談機関の表示と警告文言を義務づけ
 ・貸金業者の純資産額の下限を300万〜500万円以上から5千万円以上に段階的に引き上げ


 【業者保護を重視したとみられる項目】
 ・10万円未満が年20%、100万円未満が同18%、100万円以上が同15%となっている利息制限法の金利区分を、10万円を50万円に、100万円を500万円に引き上げ
 ・上限金利引き下げまでは、利息制限法の上限を超える金利は支払い義務がないことを契約書に明記させ、灰色金利の支払いは任意であることを明確化。客が任意の利払いを拒むと借り入れが難しくなり過払い利息の返還が難しくなる可能性
 ・高金利特例は年28%で、最長5年間限り
 ・少額・短期特例は元本50万円または30万円を限度に3社まで借り入れ可能。利息制限法の上限内の借り入れがなければ、続けて貸し付け可能
・・・・
 
 金融庁の改正案の問題点は、改めて指摘するまでもありません。政務官の辞任まで引き起こしながら、金融庁がこの改正案を提出した意図は検討する必要があります。武富士やアイフルが、改正案を左右する政治力があるとは考えられません。サラ金で利益を上げているのは、低金利で資金を調達し、貸金業者に融資している都市銀行なのです。

 このケースでは、有識者懇談会ですが、通常、法律の制定や改正に当たっては、何らかの審議会が設けられ、専門家を含めて、議論を行い、たたき台を作成します。最近、こうした審議会や、懇談会での議論を無視して、省庁が独断専行するのが、目立ちます。

 厚生労働大臣の査問機関である、労働政策審議会(労働条件分科会)に於ける労働契約法制・労働時間法制の審議でも、労使の議論を無視する厚労省の素案が提出され、2ヶ月間の空白を経て、素案を撤回し、労使が意見を出し合う原点から議論が再構築されることとなりました。(日本経済新聞9月1日)

環境相の私的懇談会である、水俣病懇談会では、ノンフィクション作家の柳田邦夫氏らが、認定基準の見直しを主張しましたが、「基準に触れた提言は受け取れない」とする環境省がこれを認めず、未認定患者救済の枠組みを提言することが妥協点になりました。・・・・同省幹部は言う。「懇談会は、行政のやりたいことを推進するガソリンだ。我々と違う方向へ進もうとするならブロックするしかない」(朝日新聞9月2日)・・・・

 同省幹部の発言は、「横暴」としか表現の仕方がありません。行政のシナリオを追認することに終始した、委員の問題もありますが、この発言には、官の本音が出ているように思います。

(9月8日 上泉)


熟読玩味(24)生活保護費の着服

 生活保護制度の基本原理は、@国家責任による最低生活保障の原理(法第1条)A保護請求権無差別平等の原理(法第2条)B健康で文化的な最低生活保障の原理(法第3条)C保護の補足性の原理(法第4条)と言われています。この内、補足性の原理とは、「保護は、生活に困窮する者が利用し得る資産、能力のその他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件とし、また民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われなければならない。」と定められています。

 この補足性の原理から、生活保護費を受給するためには厳しい制限が存在します。福祉事務所は、貯金を厳しく規制します。1990年に提訴された「加藤訴訟」では、4回の入院の経験から、妻が重病になったら、重いリューマチで介護が出来ない、付き添いさんを頼むために貯金しなければと思った加藤さんが、夫婦二人で、障害者加算45,000円を含めて月額115,000円の保護費から、80万円を貯金したところ、福祉事務所がこれを発見、457,000円は、葬式用に凍結、残りは収入と認定し、以後の保護費を減額したことを争った裁判です。

 もとより、生活保護費は「健康で文化的な最低生活」を保障するものです。こうした生活保護費を福祉事務所職員が着服するという事件が発生しています。朝日新聞 2006年8月18日・・・・生活保護費を市町村の担当職員が着服する事件が全国で続発している。朝日新聞が調べたところ、03年から3年余りで、保護費の着服・詐取などで懲戒免職処分となった職員は少なくとも20人を超えた。公的統計はないが、保護受給者の支援団体は「事件はここ数年で急増している」と指摘する。厚生労働省は「チェック体制の強化」を再三通知しているが、受給者数の急増に自治体の対応が追いつかず、後手になりがちだ。

 神奈川県厚木市で今年4月、保護費計約4150万円を架空請求して詐取を続けていたとして、元ケースワーカーが懲戒免職処分となった。00年〜今年3月までに処理し7780件のうち436件に不正があったという。受給者と同じ名前の印鑑五つを用意し、引っ越しや通院などで必要になったと偽って臨時の支給金を請求する手口だった。ほかに北海道旭川市のケースなどを含め、この月だけで計4人が懲戒免職になっている。

 この記事で朝日は、「厚生労働省はチェック体制の強化を再三通知しているが受給者の急増に自治体の対応が追いつかず、後手になりがちだ。」と、チェック体制の不備を問題にしていますが、何故、このような不正行為が横行するのでしょうか。原因は、職員の個人的資質とチェック体制の問題だけではないように思えます。

 8月23日及び24日、朝日は「最後のセーフティネット 生活保護は今 上下」で、生活保護行政の問題を指摘しています。・・・・生活保護法では、保護の申請があった場合、福祉事務所は受理し、保護要件に該当するか否か調査しなければならない。だが最近は、窓口に来た人に申請書を渡さず、「相談」扱いにして帰してしまうケースが増えているという。

 昨年7月、全国青年司法書士協議会が実施した生活保護の電話相談では、窓口での拒否に関する相談が60件あった。うち31件は受給できた可能性が高い事例だったが、いずれも申請書さえ渡されていなかった。「水際作戦」。財政難を背景に申請受理を厳しくする行政側の動きを、生活困窮者らの支援者はそう呼んで批判している。

 昨年から生活保護を受けている男性(53)はこの6月、福祉事務所に呼び出され、生活保護の「辞退届」の用紙を突きつけられた。受給者側から保護打ち切りを申し出る文書だ。 昨年1月に受給が決まり、5年ぶりにホームレス生活を脱出。だが職業安定所に連日通っても就職先が決まらない。「なぜ職が見つからないのか」とケースワーカーに責められ、「保護を辞退します」とその場で書かされた。

 ご飯、みそ汁、ラッキョウ。広島市で1人で暮らす加藤清司さん(80)のふだんの食事メニューだ。1日1〜2食。肉や魚がつくのは3日に1回。「3年前までは毎日食べていたんですが」経営していた建設会社が02年に倒産し、約5千万円の借金が残った。間もなく妻が脳内出血で急死し、生活保護を受け始めた。受給額は月12万2千円。ほかに遺族年金が1万3千円あり、収入は計13万5千円だった。借家の家賃が5万5千円。光熱費や水道、電話代などの固定費で計5万円。残る3万円が食費だ。夕刻、スーパーで見切り品を買って食べた。

 だが、04年度以降、受給額に含まれていた1万7930円の老齢加算が年々減らされ、今年4月ゼロになった。現在の収入は11万7千円。もっと家賃の安いところに引っ越したいが、一人暮らしの高齢者に新たに貸してくれる家主は見つからない。食費を1万5千円に削った。1日500円。漬けものが食卓の中心だ。

 老齢加算に次いで、ひとり親世帯に上乗せされる母子加算も05年度から削減が始まった。京都市の辰井絹恵さん(43)は3年前、夫と離婚したが重度のうつ病で働くことができず、月16万円の生活保護を受け始めた。児童扶養手当の4万円と合わせて月収は計20万円。アパートの家賃6万円を支払った後に残る14万円で、食べ盛りの息子(15)との生活費をギリギリやりくりしてきた。

 だが息子が15歳になったため、今年4月から保護費のうち母子加算分の約1万円が減った。来年度は、さらに約8千円減る。息子は定時制高校1年で卓球部に所属し1日4食。辰井さんは残り物やカップめんですませる。「母さん、もう給食いらないよ」。最近、息子に言われた言葉が胸に響いた。1学期の給食代は1万円。「息子にこんな思いをさせるなんて」

 ・・老齢加算と母子加算の見直しを巡っては、全国で受給者の反発が広がっている。厚生労働省によると、04年度以降の不服申し立ては今年6月末までに1635件。全国の5地裁に67人が提訴した。加藤さんと辰井さんも、その1人だ。さらに他の地域でも提訴に向けた動きがある。・・・・

 生活保護制度は、そもそも最低生活を保障するものであり、生計費は、時代の変化に応じながらも国として、責任をもって決定してきた基準の筈です。受給者数の増加、財政難といった理由で最低生活の生計費の計算を歪めることは、法の精神に反します。その一方、辰井さん親子の事例にあるように、大学全入と言われている今日でも、中学卒業までしか保護の対象にしないという非合理は、改善しようとしていません。

 生活困窮者を助けることを目指したケースワーカーの一部がモラルハザードを起こしても、単純に非難することができない状況になっているのです。生活保護費の着服は、許されない行為です。しかし、その原因を究明することなく、再発防止を通達しても実効性は薄いのです。手口が巧妙になるだけです。生活保護ケースワーカーが自信と誇りをもって業務にあたることが出来るようにすることが肝要なのです。 

(8月31日 上泉)

 続報:朝日は、9月1日、日弁連の電話相談の分析結果を報道しました。ここでも同様に「水際作戦」の実態が明らかにされています。違法な申請拒否や、辞退届けの提出強要の事例が多数で、日弁連の分析では、申請拒否の66%が違法との結果が出ています。

 ・・・・相談を分析した小久保哲郎弁護士は「最低限の生活を保障するはずの生活保護制度が現場でゆがめられている実態が明らかになった。生活保護を受けさせまいとする水際作戦は、人権侵害につながっている恐れが大きい」としている。日弁連は、制度の適正な運用を国などに求める方針だ。・・・・


熟読玩味(23)警察・検察の恣意

 近頃、折り込み広告(ちらし)の量が減ってきたような気がします。ネット上の広告に比重が移ったせいなのでしょうか。個人的には、保管して2週に1度の廃品回収に出すのが少しは楽になり、歓迎です。森林資源の無駄遣いも減り、地球温暖化防止のためにも良いことです。

 この他、郵便受けには、別に様々な「ちらし」が舞い込んできます。子供がいたら困るなと眉をひそめる類のものもありますし、市や県の広報もこうして配布されています。又、選挙が近づくと、政党の広告も数が増えてきます。郵便受けには、あまり歓迎されないDMも入っています。

 マンションの玄関には、関係者以外立ち入り禁止の表示がありますが、特段の規制はされていませんし、それで構わないと思っています。ところがこうした日常的な行為が犯罪とされるケースがあるのです。それは、警察・検察の恣意によります。

 朝日新聞(夕刊)2006年8月28日・・・・東京都葛飾区のマンションに04年12月、政党ビラをまくために立ち入ったことで住居侵入罪で起訴された被告の住職荒川庸生(ようせい)さん(58)に対し、東京地裁は28日、無罪(求刑・罰金10万円)を言い渡した。大島隆明裁判長は近年の住民のプライバシー、防犯意識の高まりに触れつつ「ドアポストまで短時間立ち入っての配布が、明らかに許されないという合意が社会的に成立しているとはいえない」と判断。荒川さんの立ち入りには「正当な理由がある」として住居侵入罪の構成要件を満たしていないとした。

 判決はまず、「どんな時に立ち入りが許されるかは、社会通念を基準に、目的・態様に照らし、法秩序全体の見地からみて社会通念上、許される行為といえるか否かで判断するほかない」との判断枠組みを示した。そのうえで「立ち入りの滞在時間はせいぜい7、8分」と短時間だったことを重視。さらに、▽ピザのチラシも投函(とうかん)されているが、業者が逮捕されたという報道もない▽40年以上政治ビラを投函している荒川さんも立ち入りをとがめられたことはない−と指摘。「現時点で、ドアポストに配布する目的で昼間に短時間マンションに立ち入ることが、明らかに許されない行為だとする社会的な合意がまだ確立しているとはいえない」と述べた。

 判決は、明確な「立ち入り禁止」の警告に従わずに立ち入れば住居侵入罪にあたるとしたが、このマンション玄関の張り紙では、「明確な立ち入り禁止の意思表示がされていない」と指摘し、立ち入りに正当な理由があると結論づけた。

 同種の事件では、立川市の防衛庁官舎での反戦ビラ配布をめぐり、市民団体の3人が起訴されたケースがある。一審は無罪。二審では罰金10万〜20万円の有罪判決となり、弁護側が上告した。・・・・

 郵便受けの入る情報には、市や県の広報のように必要なものと判断されるものもあります。本来、この判断は、受け取った人が行うべきであり、私には不要なスーパーのチラシも、貴重な情報源として活用する人も存在するのです。警察・検察がその判断を行うのは明らかに越権行為です。

 「判決は、明確な立ち入り禁止の警告に従わずに立ち入れば住居侵入罪にあたるとしたが、」同時に、「▽ピザのチラシも投函(とうかん)されているが、業者が逮捕されたという報道もない」ことを「社会通念上、許される行為といえる」として無罪判決が下されていますが、これは、論理的に矛盾した判断だと思います。

 この判断には、どのような情報の提供が、「社会通念上、許される行為といえる」か、否かの判断に基づく、警察の「送検」と、検察の「起訴」を、警察・検察が恣意的に行うことを容認しているからです。裁判で無罪になったからOKとは、言えないのです。

 ・・・・右崎正博・独協大教授(憲法)の話 判決には民主主義社会における政治的表現の自由の大切さへの言及がほとんどなく、配慮がほしかった。本来なら逮捕・起訴されるケースにはあたらず、逮捕・起訴自体が表現の自由への萎縮(いしゅく)効果をもたらすからだ。・・・・

 企業の就業規則の中には、起訴されたことが、解雇を含む懲戒処分の事由になる事例も多数存在します。逮捕・送検・起訴されれば、様々な面で、社会的に不利益を被ることが予想されます。逮捕・送検・起訴は、警察・検察に認められた権限ではありますが、その濫用は許されません。

 ・・・・同じく政治ビラ配布が問題となった「立川市防衛庁官舎ビラまき事件」で無罪とした一審判決は、同罪の構成要件にあたること自体は認めつつ、民主主義社会での政治ビラの商業ビラに対する優越性を強調。刑事罰に処するには値しないとして無罪とした。・・・・

 朝日は「解説」で、こう述べています。・・・・今回の判決は、立川事件の無罪判決のように政治的表現の自由を重く見る表現こそないものの、立ち入りの目的やビラまきを取り巻く社会の実態から判断。そもそも構成要件に該当しないと断じた。立川事件判決より「手前」で検察の主張を退けたといえ、検察側にとってはより厳しいものといえる。

 検察側は公判で、住民の処罰感情を強調した。確かに、部外者の立ち入りに不安や不快の念を持つ住民は少なくない。ただ、住民のどこまでが逮捕、起訴を望んだだろうか。「通報でかけつけた警察が注意すればいい話」と話すマンション住民もいた。・・・・

 朝日の評価には大きな問題があります。今回の判決は、「立川市防衛庁官舎ビラまき事件」一審判決が、・・・・民主主義社会での政治ビラの商業ビラに対する優越性・・・・を根拠としたのに対して、・・・・明確な立ち入り禁止の警告・・・・という形式を根拠にするものであり、多くの集合住宅で「立ち入り禁止」の表示がある現状では、後退した判決と判断すべきであると思います。

 住民が何を許し、何を許さないかは、住民が判断すべきであり、又、「注意すればいい話」が、常識なのではないでしょうか。警察・検察が特定のビラに対してのみ、逮捕・送検・起訴の権限を行使することは許されることではありません。

(8月30日 上泉)


熟読玩味(22)学者の机上の空論?

 「少子・高齢化」が大きな問題となっています。現在の政府の少子化対策は、児童手当や、出産一時金など、金銭給付を中心に進められています。これに対して、1999年に成立した「男女共同参画社会基本法」などを拠り所にして、ワークライフバランスを図る必要があるとの議論が一定の影響力を保っています。又、最近では、アフラック、野村総研、セントラル硝子、トヨタ、日産など一部企業で、女性従業員の活用を図るために、短時間勤務制度や、長期休職制度などが導入されています。

 日本経済新聞の「やさしい経済学―論争に迫る」では、小塩隆士神戸大学教授による「少子化対策」を連載しています。小塩教授は、金融公共政策が専門で、主として年金制度の問題を研究しています。8月28日の2回目は「女性労働との相関」について論じています。

 ・・・・少子化対策を巡って論争が最も盛り上がっているのは、女性の労働力率と、合計特殊出生率の関係である。右下の図を見てみよう。これは、政府の男女共同参画会議の専門委員会の報告書に掲載されたものである。通常の発想だと、女性労働力率が高いほど出産・子育ての機会費用(産まずに働き続けた場合に得られたであろう収入)が多くなるので、出生率も低くなる。ところがこの図が示すように両者の間には緩やかながら正の相関があれば「男女共同参画を進め女性労働力率を高めれば、出生率も上向く」との主張が出てくる。

 しかし、この主張は強い反発を呼んだ。まず図が恣意(しい)的に作られたとの批判がある。メキシコ、トルコなど女性労働力率は低いのに出生率は高い国は外す一方、女性労働力率と合計特殊出生率が共に極めて高い小国アイスランドはとりあげるなど「両者の相関関係を強める方向で国々が抽出された面がないとはいえない」という声もある。

 ・・国別に時系列的な変化をみても、米国、フランスなど出生率の回復に成功した国もあるが、全体ではおおむね女性労働力率の上昇と出生率の低下が同時に進んでいる。日本の女性労働力率は70年代には高めだったが、その後あまり上昇しなかった半面、出生率は大きく低下した。つまり、「女性労働力率を高めれば出生率も上向く」と言えるだけの明確な根拠は乏しい。

 もちろん、女性の社会進出が進めば、男性を含めた働き方の見直しなど子育てに適した形に社会の仕組みが変化し、出生率が回復するという経路はあり得る。しかし、その効果は不透明である。男女共同参画社会の実現は、目指すべき目標として一定の意義をもつが、出生率の回復につながるからそれを進めるべきだなどということでないはずだ。そうした社会の実現そのものにこそ、意味がある。・・・・

 「女性労働力率を高めれば出生率も上向く」と言えるだけの明確な根拠は乏しい。という主張は正しいのです。しかし、一つの図が正確であるかどうかを根拠として、(この表で抽出された、国は、統計学の概念である母集団として適性かどうかは疑問があるのは事実ですし、女性の社会参画とは、労働力率の概念だけで割り切れるものではありません。本筋ではないのですが、農業中心の低開発国の一般的に出生率が高いのですが、農業を営む家庭の女性は、労働力率の計算では、どのように扱われるのでしょうか。)少子化対策を構想するのは問題です。

 連載ですので、小塩教授の処方箋は示されていません。しかし、「男女共同参画社会基本法」についての記述は極めて不正確です。基本法は、罰則規定のない理念を示すものにしか過ぎません。国や都道府県に課せられた責務は、「男女共同参画基本計画」を策定することだけに過ぎません。男女共同参画社会を実現させるための具体的施策は不明確なままなのです。

 又、小塩教授の論述では、出産・子育てのパートナーたる男性の問題が全く欠落しています。厚生労働省の調査によれば、2005年度の男性の育児休業の取得率はわずか0.5%にとどまり04年度より0.06ポイント低下しているのです。(日経:8月10日)又、独立行政法人・国立女性教育会館の調査によれば、・・・・日本の父親が平日に子どもと過ごす時間は1日あたり3.1時間で、海外5カ国(韓国、タイ、米国、フランス、スウェーデン)と比べると韓国に次ぎ下から2番目だったことが、「家庭教育に関する国際比較調査」でわかった。その時間の短さに悩む父親は41.3%で、10年あまりの間に13.7ポイント増えた。他国と比べると、1週間の労働時間が最長で、子どもの食事を世話する父親の比率が極端に低いこともわかった。・・とくに、子どもの食事の世話をする父親は10.1%と、5位の韓国(20.4%)の半分以下だった。(朝日:8月2日)・・・・

 所得格差の問題も見過ごすわけにはいきません。厚生労働省による「労働経済白書」は、就職氷河期に学校を卒業した35歳〜44歳の世代が、(偽装)請負など不安定な非正規雇用に応じざるを得なかった状況から脱せず「年長フリーター」化し、92年〜02年の10年間に非正規従業員の非婚化率はさらに高まっていると指摘しています。(朝日:8月9日)

 非正規労働者であれば、所得が少なく、結婚できない。正規労働者であれば、育児休業はおろか子育てに裂く時間もない、育児はすべて女性が担うという現実の中で、どうして出生率が上向くのでしょうか。しかも、出産を機に退職という慣行は根強いものがあります。一度、正規労働者からドロップアウトすると、次の就業は、非正規雇用となるのが、殆んどのケースです。

 今、労働関係法規の見直しの中で、ホワイトカラーエグゼンプションが経団連を中心に主張されています。2005年の経団連の提言によれば、労働時間規制の適用除外の要件となる年収は400万円という水準です。これは、時間外勤務手当の不支給による人件費削減とブルーカラー労働者の非正規労働者化の二つの狙いをもっています。提言では、年収400万円というバーの他に、平均以上というバーが設けられているのです。

 年収400万の男性と非正規労働者の女性、又はその逆で、つまり、年収600万円で、子育てが可能なのでしょうか。年功序列的な賃金の決定方式も残されています。年収400万に達する頃には、高齢出産ということも考えられます。第二子の場合には、更に高齢となるわけです。

 日経の連載は、6〜7回程度ですが、小塩教授は、残された時間でどのような処方箋を書くのでしょうか、注目したいと思っています。尚、「男女共同参画社会基本法」については、「男女共同参画の時代・鹿島敬著・岩波新書」が、読みやすい入門書です。鹿島さんの
「男と女変わる力学」「男の座標軸」(いずれも岩波新書)もお薦めです。

(8月28日 上泉)


熟読玩味(21)報道は真実の追究をしているのか?

 新聞を見ると、多くの犯罪が記事となっています。多くの場合、警察の発表を要約することで終わり、犯罪が発生した原因、どうすればその犯罪を防ぐことが出来たのかという視点は欠落しがちです。記者には、締め切りという時間的制約もあり、犯罪発生直後では、十分な調査をする時間もないことが考えられますが、何故、この犯罪が起こったのか、想像力を働かせること、それに基づき、関係先の取材を行うことが必要な筈です。

 毎日新聞 2006年8月19日・・・・殺人:3人刺し、1人死亡、2人重症 中国人、殺虫剤飲む−−千葉木更津の養豚場

 18日午後5時55分ごろ、千葉県木更津市矢那、養豚場「森本畜産」経営、森本明夫さん(68)から「中国人研修生が人を刺した」と県警木更津署に通報があった。同署員が駆け付けたところ、横芝光町宮川、県農業協会職員、越川駿さん(62)▽成田市美郷台の人材派遣会社男性社員(53)▽千葉市稲毛区の女性通訳(44)の3人が倒れていた。3人は病院に運ばれたが、越川さんが腹などを刺され出血性ショックで死亡、他の2人も重傷を負った。ナイフで刺したとみられる中国人研修生の男(26)も殺虫剤を飲んで病院に運ばれたが、命に別条はないという。同署は研修生の回復を待って、殺人、殺人未遂容疑で事情聴取する。

 調べでは、研修生は人材派遣会社を通じて養豚場に派遣され、今春から住み込みで働いていた。勤務態度が悪く、越川さんらは、帰国させるため説得に来ていた。屋外で話しているうちに、研修生が所持していたペティナイフ(全長約20センチ)で3人を刺したという。森本畜産に飼料を卸している君津市の飼料販売会社社長、小泉明さん(70)は「研修生は給料が安いと苦情を言っていたようだ。昨日は女性が1人で研修生を引き取りにきたが、包丁をちらつかせて拒んだようだ。そこで今日、3人が車で迎えに来た」と話している。【森禎行、倉田陶子、神足俊輔】

 この事件は、当日の朝刊、夕刊で、各紙とも報じていますが、最も詳しい記事は毎日だと思います。犯罪の動機についても、関係者の談話の形で、「給料が安いと言っていた」と、低賃金が原因との推定を交えています。しかし、どのくらい安いのか、どんな環境で、どんな条件で、どんな仕事をしていたのか、させられていたのかは、記述されていません。

 「給料が安い」ことだけが、殺人の動機であることは少ないと思うのが普通です。「給料が安いのであれば、他の仕事を探すのが普通のやりかたです。では、何故、崔さん(夕刊では氏名が公表されています。)は、殺人に及び、自殺を図ったのでしょうか。疑問を解く鍵は、「研修生」という立場にあります。

 入国管理法は、単純労働者の入国を禁じています。例外となっているのが、日系二世、三世で、定住して働くことが、認められています。もう一つの例外が、「研修生、実習生」
です。研修生は、法務省によって認定された受け入れ機関で、日本で技術を学び、その技術によって、帰国後に母国で貢献することによって、技術移転を図り、国際貢献の一助とすることが本来の趣旨です。又、実習生は、研修後、更に、技術を学ぶため、滞在を延長し、雇用契約を結び、労働基準法などの労働関係法規の適用を受け、就労する制度です。受け入れ企業は、限定され、就労状況の報告など、多くの責任を課せられます。

 研修生の行う作業は、「実務研修」であり、「労働」ではないと規定されています。しかし、実態としては、研修制度とかけ離れた「安い労働力」であることがしばしばです。「研修」ですから、規定時間以外の作業、残業も禁止されているのです。記事を書く前に「研修生」をネットで検索すれば、視点は変わっていた筈です。

 記事の中には、被害者の一人が人材派遣会社社員であると書かれています。「研修生」は、人材派遣業が対象とする「在留資格」ではないのです。朝日新聞は、研修斡旋会社の関係者と記しています。研修斡旋を業として行うことが許されているのでしょうか?

 朝日新聞は、8月17日に「外国人実習生 低賃金で酷使 雇用側の不正増加 今年125件 トラブルも」という長文の記事を一面に配し、二面の「時時刻刻」でも、・・・・時給300円の期限付き働き手――。外国人研修・実習生を受け入れる雇用主側のなかには、研修生らを安価で使い捨ての「労働者」とみる傾向がある。激化する国際競争、少子高齢化による労働力の減少。研修・実習生が、日本を「下支え」する実態が色濃くなるなかで多発しているトラブル。途上国への「技能移転」という制度の趣旨は形骸(けいがい)化しつつある。(竹信三恵子、渡辺翔太郎) との書き出しで、研修生・実習生の置かれた過酷な状況に警鐘を鳴らしています。

 ・・「日本の研修制度はタテマエと本音が違うことが多すぎる」研修受け入れ先の事業組合理事長から性暴力を受けたとして7月に東京入国管理局に逃げ込んだ中国人女性の実習生は、うつむきながら話した。

 04年に来日。ホウレンソウとイチゴの栽培を学ぶはずが、受け入れ先は製材会社。研修の合間に理事長一家の家の掃除や靴磨きもさせられた。研修生のときの手当は月5万円。禁止されている残業の時給は300円。実習生になると基本給6万5千円、残業時給350円。賃金台帳では、基本賃金11万2千円に残業代がつくとされていたが、寮の家賃5万55千円とふとんのリース料6千円、洗濯機、テレビ、流し台のリース料など「生活経費」として毎月計9万円近くも天引きされた。

 来日4カ月後、理事長から性暴力を受けた。「逆らえば帰国させる」。その後も住まいに合いカギで入ってきた。この問題が表面化した後、理事長は辞任した。・・・・

 研修生、実習生は、中国側送出し機関にも手数料を搾取されていると言われています。実態は借金です。家族が連帯保証することもあり、借金が返せるまでは、どんな労働条件でも働き続けるしかないのです。又、「逃亡」を防ぐために、パスポートを取上げる、強制貯金、強制帰国の場合には、処罰する(貯金などから罰金を課す)などの違法行為が繰り返されています。

 これらを、ひと括りにして、「給料が安い」とするのは、正確な記事なのでしょうか?勿論、現段階では、森本畜産がどのようにして研修生を受け入れたのか、(斡旋を業とする企業の介在は予測されますが)又、どのような条件で、研修させていたのかは明らかではありません。

 しかし、何故、「給料が安い」ことが殺人の動機だとするのなら、真実の究明が必要です。中国での草の根レベルの反日感情が根強いと言われています。こうした実態がその流れを加速させているのではないでしょうか。朝日新聞、毎日新聞には、追跡取材と続報を期待します。

(8月22日 上泉)

 続報:朝日新聞 9月3日・・・・社団法人「千葉県農業協会」が受け入れている中国人研修生(26)が研修先の養豚場で男女3人を殺傷したとされる事件で、本来は残業してはいけない研修生が時給450円で月50時間前後の残業をしていたことがわかった。この養豚場主(68)は朝日新聞の取材に対し、「残業がわからないようにするために預金通帳を二つ作り、残業代を別に入金するように協会幹部にいわれた」とも証言。通帳はすでに千葉県警に任意提出され、県警も関心を寄せている。

 ・・研修先の養豚場主によると、崔容疑者は4月の来日後すぐに休日も働き始め、残業が月50時間を超えることもあった。養豚場主には「来日前、中国で100万円ほどの借金をしてきた」と話していたという。計画に沿って作業を学ぶ研修制度では、時間外や休日の研修は基本的に認められない。だが、養豚場主は「協会幹部には『パートを雇ったつもりで使えばいい』と言われた。本人が『やらせてくれ』というので残業もさせた」と語った。450円にした理由についても、同じ協会幹部から「研修生間で格差が生じるので、450円以上でも以下でもだめだと言われた」。・・・・


熟読玩味(20)「偽装請負問題を考える」B

 労働局、労働基準監督署の指導を受け、偽装請負を解消する動きが出てきました。日本を代表する企業の一つであるトヨタ自動車の系列会社でも、動きがありました。

 朝日新聞 2006年8月6日・・・・偽装請負が発覚したトヨタ自動車系部品メーカー「光洋シーリングテクノ」(徳島県藍住町)が、工場で働く請負労働者約200人のうち3分の1程度を直接雇用に切り替えることが5日わかった。光洋はこれまで直接雇用を拒んできたが、偽装請負状態を早期に解消する必要に迫られた。製造現場の請負労働者を正社員雇用すると表明したのは、キヤノン、松下プラズマディスプレイに続き3社目。

 光洋はトヨタ系の部品メーカー「ジェイテクト」(旧光洋精工、大阪市)の子会社で、油漏れを防ぐオイルシールなど、自動車部品を手がけ業績を伸ばしてきた。正社員は約440人。工場には、正社員より賃金が低い約200人の請負労働者が働いている。しかし、その労働実態は、正社員と請負労働者が混在し、正社員が請負労働者に直接指示を出す典型的な偽装請負状態が続いており、今年になって徳島労働局から改善指導を受けていた。

 請負労働者の一部は2年前に労働組合を結成。違法状態の解消のためにも正社員として採用するよう求めていた。光洋は、正社員との混在が避けられないような持ち場の請負労働者数十人について9月以降に期間工に採用し、一定期間経過後に正社員として登用する。勤続年数の長い請負労働者も数10人直接雇用し、生産ラインの見直しとあわせ偽装請負の早期解消をめざす。労組のリーダーの一人矢部浩史さん(41)は、「低賃金で長年頑張ってきたことが少し報われた。請負労働者全員が正社員になれるよう引き続き要求する」と話す。

 朝日新聞 2006年8月13日・・・・トヨタ自動車グループの部品メーカー「トヨタ車体精工」(TSK、本社・愛知県高浜市)の高浜工場で今年3月、請負労働者が全治4週間のけがをしたのに、TSKも請負会社も労働安全衛生法で義務づけられている労災の報告をしていなかったことがわかった。この工場では、TSKが請負労働者に直接指揮命令する「偽装請負」が行われていた。メーカーと請負会社の間で安全責任の所在があいまいになっていたことが「労災隠し」につながった形だ。=3面に解説 刈谷労働基準監督署は同法違反の疑いがあるとして捜査に乗り出した。

 ・・労働安全衛生法などは、労災で4日以上休業した場合は労基署にすみやかに報告するよう義務づけている。違反すると50万円以下の罰金。偽装請負の場合、労働者派遣と同じ扱いになり、請負会社と発注元企業の双方に報告義務があるが、TSKも大起も7月に朝日新聞から指摘されるまで報告していなかった。

 大起は労災保険による休業補償の手続きをする代わりに、「出勤扱い」にして男性に給料を支払っていた。同社の担当者は「出勤扱いはTSKの幹部の了承を得ていた」といい、結果的に両社が労災の発覚を免れようとしていた。TSKの役員は「現場に休業災害にしたくないという気持ちがなかったといえばうそになる。大起と一緒に労災隠しに加担したといわれても仕方ない」と説明。愛知労働局から指導を受け、8月に請負契約を派遣に切り替え、偽装請負を解消したという。一方、大起の担当者は「日頃こうしたことはTSKに相談していた。労災の報告義務のことを知らなかった」と知識不足を認めた。

 《解説》大企業の工場で起きた労災を隠したり、別の場所であったように装ったりするのが目立ち始めたのは、バブル崩壊後に大手メーカーが工場での請負契約を急拡大したことが背景にある。芋づる式に「偽装請負」まで発覚するのを避けたい企業側の事情もあるようだ。=1面参照

 厚生労働省によると、労働安全衛生法違反容疑で「労災隠し」や「労災とばし」を送検した件数は98年の79件から05年には111件に増加した。うち製造業は9件から17件に倍増。送検に至るのは「氷山の一角」(労働局幹部)とされ、実数はもっと多いといわれている。労災隠しは、もともと多くの請負労働者を抱える建設業で目立っていた。しかし、製造業でも多数の請負労働者を受け入れ、安全責任の所在があいまいになる中で、労災隠しが増えてきた。

 ありのままに報告すると、メーカーから契約を打ち切られかねないという請負会社側の懸念が、労災隠しの背景にある。ある大手請負会社の幹部は「労災をきっかけに行政が立ち入り調査をすると、偽装請負まで発覚する。だから労災は報告しづらい」と打ち明ける。 この結果、事故が起きても正規の処理をせず、被災者に「労災の対象外」と偽ったり、本来の労災保険より手厚い「口止め料」を払ったりする例が後を絶たない。労災隠しの後始末を引き受けることがメーカーに評価され「取引拡大につながった」という請負会社もある。

 双方のケースとも、労働局・労働基準監督署からの指導に従う形となり、期間工(有期雇用契約)としての採用と、請負業から、人材派遣業への切替と異なる形式によって、偽装請負解消を図っています。しかし、期間工にしても、人材派遣契約にしても、正規従業員との給与格差は解消されていませんし、製品の需給の強弱による要員数の調整弁であるという事実も変化していません。

 トヨタ自動車は、系列会社や、下請企業に、厳しい技術指導を行い、納期を厳守させ、品質の維持を図って来ました。しかし、同じトヨタ系列の部品会社で、偽装請負の問題については、異なる対応が出てきました。このことは、トヨタ自動車の系列会社に対する経営指導は、労働関係問題を欠落させて来たのではないかという、疑問を起こさせます。コンプライアンス(法令遵守)や、CRS(企業の社会的責任)という観点からは、どのように影響力を行使してきたのでしょうか。自社が違法行為や反社会的行為を行わなければそれで良いとしてきたことが窺えます。

 請負業で働く労働者の視点から見れば、「期間工」と「人材派遣」には差がありません。問題なのは、低賃金と、労働基準法などの労働関連法規で、保障されている様々な権利が犯されていることにあります。有給休暇がない。時間外割増賃金が正確に支払われていない。雇用保険・健康保険・厚生年金未加入。等々、請負業者が法律違反によって利益を得ている実情が存在します。

 当然、その背景は、派遣先メーカーからのコスト削減要求です。トヨタ系列の下請であれば、最終的にはトヨタの購買方針です。現在、メーカーは、安価な労働力が豊富に存在する中国などとの厳しい競合関係に晒されています。偽装下請けの誘因は、そこにあるのは確かですが、法令違反は避けるべきです。トヨタ自動車は、日本に於ける系列企業を維持するのなら、法令違反を排除するというより、厳しい環境の中で、技術革新や経営合理化によって、問題の解決を図るべきです。

 安易に下請を切り捨てたり、下請企業の違法行為を黙認することがあってはなりません。
 奥田前経団連会長、御手洗現経団連会長のお膝元で、偽装請負事件が起こったことは、象徴的な出来事です。トヨタ自動車は、系列企業で、可及的に早期に総点検作業を行うべきです。又、その視点は、単に法律上の辻褄を合わせることではなく、労働者の権利が守られているのかどうかという視点で点検する必要性があります。この問題はリコール問題多発問題としても捉える必要があるからです。

(8月21日 上泉)


熟読玩味(19)「偽装請負問題を考える」A

  松下プラズマディスプレイ(MPDP)が請負に固執する理由がある筈です。朝日は、「人材派遣契約の場合は、1年を経過すると、直接雇用を申し込むことが法律で義務づけられているから」としていますが、それだけなのでしょうか。・・・・

 人材派遣業の原型は、人入れ稼業と呼ばれ、古くから存在していました。港湾労働などを典型として、業務量に応じて日雇いで労務者を集め、荷役会社などに提供することが、今でも行われています。ここには、安全性無視や、賃金の大幅なピンハネが横行し、それに対する不満は、暴力によって封じこめられて来た歴史があります。

 1947年11月に、職業安定法により、労働者供給事業は、労働組合が行うものを除いて全面的に禁止されました。これは、GHQの強い意向によるもので、その狙いは、暴力組織の排除であったと言われています。労務の請負の禁止から、業務の請負という抜け道により、拡大したのが「請負業」です。

 1948年2月に職業安定法施行規則が改定され、人入れ稼業への回帰を防止すべく、請負業に4要件が設けられました。@作業の完成について請負業者が全ての責任を持つこと、A請負会社が作業に従事する労働者を直接、指揮・監督すること、B作業に従事する労働者に対する使用者としての義務の全てを負うこと、C機械・設備・器材・技術を必要とする作業であること。

 1966年に米国資本のマンパワージャパンが業務処理の請負を行う会社として設立され、その脱法性を指摘する議論もありながら、経済界の要求に押される形で人材派遣業が実質的に始められています。これを法的に整備したのが、1985年6月に成立した労働者派遣法です。

 当初は、対象労働者は、専門性の高い、ソフトウェア開発、事務用機器操作、通訳など、13業務に限定されていました。派遣期間は、ソフトウェア開発、は1年、それ以外の業務は9ヶ月に限定されていました。

 しかし、厚生労働省は産業界の強い要請を受け、この法律の改正を行っています。1996年には、対象業務が26業務に拡大されました。1999年には、港湾運送・建築・警備・医療及び製造業を除く業務は原則自由に、さらに、既存26業務は、営業・販売職を除いて派遣期間の上限が3年に、営業・販売職及び新規業務は1年と改正されています。

 2000年には、一定期間派遣社員として勤務し、その後派遣先に就職する「紹介予定派遣」が認められ、2003年には、@派遣期間制限の緩和(専門的26業務については、本人の同意あれば、無期限。26業務以外も3年に延長)A派遣対象業務の拡大(製造業も解禁、医療関連のうち、福祉関係は解禁、病院・診療所も予定派遣は解禁)B紹介予定派遣で、事前面接、履歴書送付が解禁)の大幅改正が行われました。

 朝日新聞の論を検証しましょう。労働者派遣法40条三では、確かに1年以上継続勤務した派遣労働者は遅滞なく、雇い入れるように努めなければならない、とありますが、努力目標であり、当然罰則はありません。更に、@派遣労働者が希望を申し出た場合、A派遣期間終了後7日以内に派遣元事業主との雇用関係が終了すること、の条件が付されています。派遣元が、有利な条件の他の派遣先を斡旋することも考えられますし、現実的には派遣先企業がそれを派遣業者に要求することも考えられます。

 3年以上継続勤務の場合は、40条五に規定されています。・・・・当該同一の業務に労働者を従事させるため・・労働者を雇い入れようとする時は、・・雇用契約の申込みをしなければいけない。・・・・同一業務を社員に行わせ、新たな派遣労働者にその社員の業務を行わせる場合はどうなるのでしょうか。又、この条項にも罰則規定はありません。

 もう一つ考えられる、MPDPが「請負」に固執する理由は、派遣先の講ずべき措置等が法に明文化されていることです。産前・産後、育児休業、介護休業の場合は、派遣を受けることができません。又、派遣業者は、派遣先に法・省令で定めた事項を報告し(法35条)、派遣元管理台帳を作成する義務があります。(法37条)同様、派遣先企業には、派遣先管理台帳を作成する義務があります。(法42条)

 問題は、法35条に定められた、報告事項に、健康保険・厚生年金・雇用保険の被保険者の資格の取得の確認が明記されていることです。勿論、請負業者にも社会保険・労働保険の加入義務がありますが、労働者派遣の場合には、派遣先企業は当然に、派遣業者の保険加入の有無を知ることになります。

 保険未加入は違法行為です。派遣先企業が、派遣業者の違法行為を看過して、未加入状態を放置した場合、コンプライアンスの観点からも、CRSの観点からもその責任を免れることは、出来ません。又、不作為による不法行為責任があるとも考えられ、損害賠償請求の対象となる可能性もあります。

 労働省(当時)は、1986年に「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」を告示(37号)しています。その内容をまとめると、以下の1及び2のいずれにも該当する場合を除き、労働者派遣事業を行う事業主とすることが規定されています。

 1(1)@労働者の業務遂行に関する指示その他の管理を、派遣業者が直接行うこと、A業務の評価を直接行うこと、の双方、(2)@労働時間の管理を直接行うこと、A時間外勤務、休日出勤の指示を直接行うこと、(3)@労働者の服務上の指示を直接行うこと、A労働者の配置等の決定・変更を直接行うこと、の全てを満たす必要があります。

 2(1)業務の処理に必要な資金を派遣業者が自らの責任で調達すること、(2)民法、商法その他法律に規定された事業主の責任を負うこと、(3)@機械・設備・器材・材料等を自ら調達すること、A自らの企画、技術、経験の基づいて業務を行うこと、即ち、単に肉体的な労働力を提供するものでないこと。

 この告示には、用心深く、勤務場所の概念が抜け落ちています。上記の要件を満たす「請負」であれば、請負業者の事業場内で行うことも不可能ではないようにも思われます。それを別としても、上記要件が、字義通り守られている「請負」業務は、極めて少ない筈です。

 現在の雇用の契約形態を整理すると、@直接雇用、A人材派遣、B請負、C一人親方などのその他に大別されます。現行の労働者派遣法の枠外となっている、(下請、孫請けの形態が温存されている、建設業、港湾業を含めて、見直す必要があります。IT業界では、実質的に労働者派遣事業でありながら、請負契約として、更に、労働者を独立事業主であると偽り、労働者との契約も雇用契約ではなく、請負契約としている二重偽装も横行しています。

 労働基準監督行政は、人材派遣業の歴史を見れば、一目瞭然なのですが、経済界の要請を受け、後追い型になっています。経済格差の拡大が問題となっていますが、その一因は、偽装請負の横行です。抜本的な見直しが必要とされます

(8月17日 上泉)


熟読玩味(18)「偽装請負問題を考える」@

 7月31日の朝日を皮切りに偽装請負の問題が新聞紙上を賑わしています。子会社を含めれば、トヨタ、キャノンの前・現経団連会長会社を始め、多くの有名企業の偽装請負が指弾されています。

 記事の掲載日時の順序は、別として、おそらく、発端は、この記事だろうと思います。朝日新聞 2006年8月6日・・・・「偽装請負 内部告発者を隔離 作業場 黒シートで覆う」 松下電器産業の子会社「松下プラズマディスプレイ」の茨木工場(大阪府茨木市)で働いていた吉岡力(つとむ)さん(32)が「工場で違法な偽装請負が行われている」と大阪労働局に内部告発し、同社から差別的扱いを受けたなどとして損害賠償を求めて同社を大阪地裁に提訴していることがわかった。吉岡さんは提訴後に職場を追われ、失業中のまま、会社と争っている。

 吉岡さんは04年1月、請負会社の社員として、茨木工場の製造1部製造3課パネル係で働き始めた。松下社員の指揮下でパネルを組み立てる生産ラインを受け持った。昨年3月、時給の安い別の請負会社に転籍するよう松下社員に迫られたことをきっかけに、労働問題の専門家に相談。初めて自分の雇用形態の違法性を知り、地域の労働組合に入った。

 5月26日、大阪労働局に申告書を提出。「松下は職業安定法に違反している」と内部告発した。労働局は6月1日に工場に立ち入り調査。7月4日、松下に「労働者派遣法違反の事実がある」として是正を指導した。その10日後、松下の人事担当者から「直接雇用したい」と言われた。吉岡さんは素直に感心した。「よう素直に要求をのんだな」。しかし、話をじっくり聞くと、裏があった。「1月末まで」と期間を区切られ、仕事の内容もそれまでと異なっていた。

 8月22日、松下に入社した。「期間工」の身分を持つのは社内にただ一人。与えられた仕事は不良パネルの再生。同じ作業をしている人はほかにいなかった。「今までこのような不要パネルは廃棄処分していた」と係長に言われた。作業場は、黒いシートでテントのように囲われた。苦情を申し立てると、透明シートに替えられた。が、外の光が入らないように非常口の窓が黒色シートでふさがれた。青いついたてが置かれ、外部と仕切られた。そこにたった1人。請負会社に雇われていた当時の職場では朝会(ちょうかい)が開かれ、正社員も請負社員も一緒になって松下の社訓を唱和した。松下の社員になってからは逆にそれがなくなった。

 11月11日、損害賠償などを求めて提訴。「原告を他の従業員から1人だけ隔離し、朝会に参加させない、身分証を発行しないなどの嫌がらせが行われている」。12月28日、会社から「1月末日をもって期間満了により雇用契約が終了する」と告げられた。会社側は法廷で、「個人の疎外感の緩和よりも業務上の要請が優先される」「シートは帯電防止用。ついたては作業者がけがをしないよう設置した。隔離する意図はない」と反論している。

 労働者派遣法には内部告発者保護の定めがある。同法違反の事実を厚生労働省に申告した派遣労働者への不利益扱いを禁じており、会社側は「原告を何ら不利益に扱っておらず、かえって原告の要望に応じて直接雇用をしている」と法廷で反論している。1月に職場を追われたことについて吉岡さんは「不当解雇だ」と主張し、訴訟の中で復職も求めている。・・・・

 松下プラズマディスプレイ(MPDP)は、昨年7月「偽装請負」で、請負労働者を直接指揮命令した「偽装請負」で行政指導を受けています。MPDPはその直後、行政指導に従い請負労働者全員を労働者派遣契約に切り替えましたが、今年5月社員を複数の請負業者に大量出向させ、再び、派遣契約を請負契約に切り替えました。MPDP社員としては、請負労働者に直接指揮命令出来ないが、出向した請負業者社員であるならば、指揮命令が出来るという理屈です。

 出向社員の勤務場所も職務内容も変わっていないといいます。ネームプレートと給与明細書の発行者が異なるだけで、法律の「想定」をすり抜けています。労働者の保護を目的の一つとする職業安定法の脱法行為であることは、立法趣旨から考えれば明らかです。(朝日新聞 8月1日)

 この過程には、大企業の傲慢が現れています。

 第一に、請負業者に対する横暴です。多くの請負業者が、人材派遣業者を兼ねるか、パートナーの人材派遣会社を持っています。企業の要求に柔軟に答え、どちらの形態でも人を送り込める仕組みを作っているのです。だから、短期間で切り替えが可能なのです。

 請負業者の立場に立って考えて見ましょう。請負労働者から、派遣労働者へ、再び請負労働者へ、当然、給与や労働条件が同じように見えても、雇用契約は変化します。人材派遣業者には、人材派遣法の定めにより、書面による就業条件の明示、派遣先への通知、派遣元責任者の選任、派遣元管理台帳の作成と記載という膨大な業務が発生します。これらがなおざりにされたことは容易に想像出来ます。MPDPは暗黙のうちに傘下の請負業務に違法行為を強要しているのです。

 第二に、司法と行政に対する傲慢です。形式さえ整えればよしとする態度が明白です。法律の抜け穴を見つけたら活用するでは、ホリエモンです。吉岡さんに対する処遇にそれが端的に現れています。吉岡さんは、2004年1月請負会社に入社していますから、入社後1年以上経過しており、「期間の定めのない雇用」の筈です。それにも関わらず、MPDP入社と引き換えに有期契約の締結を強要しています。しかも雇止めを通告したのです。「期間工」は、吉岡さん一人、雇止めは予め仕組まれていたのです。吉岡さんのMPDP入社は2005年8月、雇止めの通告は2005年12月末、契約の終期は、2006年1月末、明らかに1年以内が意識されています。形式さえ整えれば労働局は何も言ってこないと踏んでいるのです。

 残念ながら、MPDPの見通しは正確だったようです。これでは、労働局もグルだと言われても仕方がありません。勇気をもって不正を内部告発した吉岡さんを守ることが出来ない労働局は「無用の長物」だと言われても弁明できないでしょう。朝日は「是正勧告書」を入手して点検すべきです。「偽装請負」を解消するよう勧告しただけの内容に違いがありません。内部告発者に対する企業の怒りや報復の可能性まで、想像力が働いていないのか、見殺しにしたのかは不明です。これでは、申告が増える筈がありません。「行政指導」は、こうした場合は行わないのでしょうか。

 そもそも、「作業場は、黒いシートでテントのように囲われた。」状態は、労働基準法には,違反していないのでしょうか。勿論、想定外の出来事でしょうから、黒いシートで隔離してはいけないという条文はありません。しかし、立法趣旨に反することは明らかです。

 MPDPは、人材派遣に切り替えた時期について、兵庫県から、2億2040万円の雇用補助金を受け取っています。これは、県が交付した補助金の大部分に当たります。(他は1社2名)原因は、県の周知不徹底で、MPDPに、責任はありませんが、05年7月〜06年5月の10〜11ヶ月間で、派遣社員230人、正社員6人ですから、1人当たり、93万円もの補助金を受け取っていたことになります。公的な補助を受けながら、1年も経たずに打ち切りとは、県の制度の欠陥もありますが、MPDPの社会に対する背信行為です。(朝日 8月9日など)

 そうまでして、MPDPが請負に固執する理由がある筈です。朝日は、「人材派遣契約の場合は、1年を経過すると、直接雇用を申し込むことが法律で義務づけられているから」としていますが、それだけなのでしょうか。次回、それを検討します。

(8月16日 上泉)


熟読玩味(17)「靖国問題とは何か」

 靖国神社を巡る論議が巻き起こっています。しかし、「中国・韓国との友好関係を阻害する。」「A級戦犯は、分祠すべき」等々、問題の本質を隠蔽しようとする論が多いことが気になります。麻生外相の非宗教法人化構想もその一つです。

 朝日新聞 2006年8月8日・・・・靖国神社をめぐる自民党総裁選の論争が新たな展開を見せつつある。小泉首相や次の首相が参拝することの是非に加え、靖国神社のあり方をどう考えるかが焦点になってきた。麻生外相は非宗教法人化のうえで国会の場で慰霊対象を見直すことを提案し、谷垣財務相もA級戦犯分祀(ぶんし)に賛意を示す。政治がどこまで宗教にかかわるか、「靖国」とは何か。実現までの道のりは険しいが、先の戦争をどう総括するかという問いに広がる可能性がある。

 ・・麻生氏は8日付の朝日新聞の「私の視点」に投稿し、靖国神社に宗教法人としての任意解散を促したうえで立法措置により国立追悼施設とする段階移行論を提案した。現状では首相や閣僚が「無理に参ると、その行為自体が靖国を政治化し、再び本旨を損ねる悪循環を招く」とも指摘。この考えに基づく私案をすでに7月末までに同神社側と日本遺族会側に渡し、検討を提案したという。
 
 ・・靖国神社側の自主的判断を促す点で麻生、谷垣両氏は共通するものの、麻生氏はさらにA級戦犯の合祀の見直しを含めて慰霊対象を国会の場で決めると提案している。国会審議を視野にした動きでは、安倍官房長官に近い中川秀直自民党政調会長も、靖国神社の国家管理を目指す法案の再提出に言及している。
 
 ・・1960年代から70年代にかけ、自民党は靖国神社の申し出を前提に特殊法人に引き継ぎ、国の責任で「殉国者の英霊」を護持する靖国法案を5回提出。だが最終的には74年6月に廃案となって姿を消した。

 ・・もともと靖国神社は国家管理に積極的だった。・・衆院法制局は74年の見解で、非宗教化の条件に「祝詞(のりと)は英霊への素朴な言葉に」「おみくじの販売は廃止」などを挙げた。これに靖国神社は「神霊不在、いわば正体不明の施設に堕する」と反発。国家護持を支持してきた日本遺族会も、靖国神社側の姿勢から事実上断念し、運動の中心を首相の公式参拝実現に移してきた経緯がある。・・・・

 靖国神社が終戦に至るまで果たして来た機能は、死を悲しむ心を、天皇の赤子であるが故に天皇のために死ぬことは、当然であり、戦死が天皇の靖国参拝により、このうえない名誉に昇華するというレトリックを完成させることであったことを忘れるわけにはいきません。

 明治維新以後、第二次世界大戦に至るまで、日本は、数々の戦争を行って来ました。その基礎構造は徴兵制にあります。徴兵が「貧乏くじ」であるとか、戦死が「悲劇」であるなら、徴兵制は維持できません。「悲しみ」を「誉」に化す錬金術が必要なのです。その意味では、靖国神社は我々がイメージする宗教ではないのかも知れません。

 戦時中、キリスト教界や、仏教界の指導者が靖国を参拝した事実は、消すことの出来ない過去です。靖国参拝は、天皇の赤子としての務めであり、各自の私的信仰とは、矛盾しないという論理が成立していたのです。

 靖国神社は、気の毒な兵士を弔い、平和を祈念するという思いを持たないことは、広島・長崎の原爆被害者を初めとする軍人以外の戦争被害者を弔おうとはしないこと、敵軍の死者を弔おうとはしないことが、雄弁に物語っています。

 政治の流れの中では、中国・韓国との関係強化を望む経済界へのおもねりもあり、A級戦犯分祠論が出ています。中国・韓国の政府筋は、分祠すれば、首相の靖国参拝も、問題にしないというシグナルを送っているのです。何故、中国・韓国政府筋は、B・C級戦犯の分祠を要求しないのでしょうか。それが政治判断だからです。

 歴史認識の問題としては、政府筋の思惑とは離れて、日本兵士として戦死した、韓国・中国・台湾などの人たちとその家族、日本の犯した侵略戦争によって犠牲となった全ての人たちを含めて戦争の犠牲者を弔う気持ちが必要です。靖国は、そのような場では、ありえません。

 日本政府に求められるのは、靖国神社との「縁切り」です。国は、信教の自由を犯すことは出来ないのですから、「縁切り」以外の方策は考えられません。麻生外相の靖国神社を非宗教法人にして、国立追悼施設とするとの主張は、詭弁です。宗教法人であるか、否かが、靖国神社の歴史を規定するわけではないのです。

 昭和天皇発言のメモが出て来ましたが、これを政治的に利用し、A級戦犯分祀で、全てに型をつけようとするのは、誤りです。

(8月9日 上泉)


熟読玩味(16)「社会保険庁年金不正はどこまで続く」

 先日来、新聞各紙の紙面を賑合わせてきた、社会保険庁による年金不正問題が、泥沼の様相を呈して来ました。

 朝日新聞 2006年8月4日・・・・社会保険庁は3日、国民年金の不正免除・猶予問題に関する最終報告書をまとめた。すでに明らかになっている約22万人分の違法・不正免除のほかに、納付率アップなどのため長期の保険料未納者らを勝手に住所不明の「不在者」や「資格喪失」とする不正な手続きが05年度に11万件近くあったことが新たにわかった。

 ・・新たに判明した不正で最も多かったのは「不在者登録」を利用したケース。郵便物が届かず連絡が取れない人を納付対象から除外する手続きだが、60歳まで保険料を納めても受給資格に必要な25年の納付期間に達しない人や長期未納者らを不在者としたもので、30都道府県で計10万4777人分にのぼった。
 
 ・・不正免除は、本来、本人の申請に基づいていれば全く問題のないケース。しかし、今回、明らかになった長期未納者に対する「不在者」扱いや「資格喪失」は、未納者を年金制度の外に放り出したとも言える行為。問題はより深刻だ。

 同庁の調査に対し、各社会保険事務所は「60歳まで保険料を納付しても年金権が発生しない長期の未納者を対象にした」としている。しかし、こうした被保険者も、任意加入制度を使えば最長で70歳まで保険料を支払うことができ、年金を受給できる可能性が残されている。また、老齢年金の受給はできなくても、保険料を1年間納付し続ければ障害年金の受給資格ができる。

 厚生労働省幹部は「これまでの不正免除より、さらに悪質。国会で大変な問題になりかねない」と頭を抱える。社会保険庁の調べでは、不正に「不在者」扱いとされた人は05年度だけでも10万4777人。同年度に新規で不在者登録された約33万9千人の実に3分の1だ。しかし、それ以前にどれだけの不正があったかについては、不在者登録の理由などが記された処理票が1年分しか保存されておらず、解明されていない。

これまで、問題となって来た不正免除が被保険者には実害が及ばないものであったのに対し、今回発覚した不正は、年金受給権を消滅させるケースもあり得る手法であり、社会保険庁職員がどこを向いて業務を行っていたかが明らかになりました。同日の毎日新聞が報じているように・・・・外国人をかってに不在者扱いにした。・・・・ことが事実であれば、言語道断の行為です。村瀬長官の責任は厳しく糾弾されるべきです。

村瀬長官は、自らの職名で社会保険事務所あてに、「分母」問題の推進を強く指示して来ました。誰が考えても分かるように、「不正免除・猶予」(これまで問題にされてきた不正)「不在者扱いにして資格喪失手続を行う」(新たに発覚した不正)は、いずれも、未納率を減少させる機能を持ちますが、年金保険料の納付額を増加させるものではありません。

 実際に年金財政を好転するために、必要なことは、納付額の増加です。納付率は単なる物差しに過ぎないのです。何故、このような摩訶不思議な論理が成立するのでしょうか。その理由は、年金制度の在り方、とりわけ、監査制度の問題にあります。

 納付された年金保険料は、「年金特別会計」の「保険料収入」に繰り入れられます。その後「その一部」が「保険給付費」に移し替えられ、この科目から年金が給付される仕組みになっています。「その一部」と付言しましたが、他に「福祉施設費等業務勘定」にも我々が納付した年金保険料が移し替えられるのです。

 「福祉施設費等業務勘定」を流用した代表例が「グリーンピア」です。確かに「福祉目的」の施設かも知れません。しかし、費用対効果を考えると明らかに奇妙な施策です。今や、年金官僚の天下り先作りが目的だというのが定説です。しかも、こうした流用は、年金審議会の答申を受けたものでも、国会の審議を経たものでもなく、厚生労働省が独自に判断して行った「福祉」施策なのです。

 公的年金の事務の執行に要する費用は、納付された保険料からではなく、別途、国が全額負担すると定められています。しかし、納付された保険料は事務費にも流用されています。「年金財政危機」キャンペーンの効果でしょうか、年金財政は赤字という印象ですが、実際は、剰余金が発生しており、積立金が運用されています。この運用のための事務費が納付された年金保険料から支出されるのですが、前記の「事務の執行に要する費用」との境界線は極めて曖昧です。(こうした年金制度の問題点は「年金大崩壊」岩瀬達哉著・講談社、に詳細に述べられています。上記は、これを参考に取り纏めました。)

 このような制度・歴史があるからこそ、摩訶不思議な論理が成立するのです。厚生労働省の常識=世間では非常識を払拭するための民間活用として起用されたのが、他ならぬ、村瀬長官なのです。村瀬長官は、損保ジャパン副社長の経歴を持つ人物です。納付率さえ上げれば良い、納付額は問題ではないという発想は、民間で言えば、売上げさえ上がれば良い、利益は問題ではないとする発想に酷似しています。

 こんなトップが率いる民間企業であれば、倒産への道を走るだけです。村瀬長官は不正問題の監督責任と併せて、経営能力の欠如という観点からも職を辞するべきです。退職金も天下りも辞退すべきです。

(8月8日 上泉)


熟読玩味(15)「介護現場に外国人労働者?」

 平成18年度版「高齢社会白書」によると・・・・我が国の総人口は、平成17(2005)年10月1日現在、1億2,776万人となり、・・前年に比べて2万人減少(△0.02%)し、戦後では初めてマイナスに転じた。65歳以上の高齢者人口は、過去最高の2,560万人となり、総人口に占める割合(高齢化率)も、20.04%と、初めて20%を超えた。・・65歳以上の高齢者人口に占める一人暮らし高齢者の割合は、昭和55(1980)年には、男性4.3%、女性11.2%であったが、平成12(2000)年には、男性8.0%、女性17.9%と顕著に増加している。今後も一人暮らし高齢者は増加を続け、特に男性の一人暮らし高齢者の割合は大きく伸びることが見込まれている。・・・・

 2000年4月にスタートした「介護保険制度」は、早くも綻びを見せています。社会的介護の必要性に対して制度が追いついていないのです。介護保険料の「値上げ」がささやかれています。厚生労働省は、保険財政の悪化を防ぐべく、在宅介護推進を旗印に、特別擁護老人ホームや痴呆症高齢者を対象とするグループホームの増設を抑制しています。このため、民間の有料老人ホームの新設ラッシュが起こり、老人ホームを見学するパッケージツアーまで現れています。

 特別擁護老人ホームは、殆んどの場合、待機が必要です。介護が必要となった時、利用できる保障は何もありません。又、特別擁護老人ホーム利用者のQOL(生活の質)が向上したという話も聞かれません。むしろ、施設利用者に、ホテルコスト(居住費)や食費を保険給付の対象外として、自己負担を強いる、障害の程度が低い入所者には退去を促すといったことが強行されるに至っています。

 8月6日の朝日新聞によれば、東大和市の特別擁護老人ホームで、女性入居者に夜勤男性職員が性的暴言を浴びせ、家族が抗議し、都も立ち入り調査を行うという事件が起こっています。昨年2月には、石川県のグループホームで、職員が入所者に暖房器具の熱風を当てて死亡させた事件も起こっています。連合が2004年に行った介護職員5000人の実態調査では、5%が介護放棄、暴言・暴力で入所者を虐待したことがあると、答えています。

 考えなければいけないのは、こうした虐待の背景に厳しい労働条件があることです。障害を持つ高齢者が生活する施設ですので、夜勤は避けられません。しかも、夜勤と早出の職員の交代時間帯は、起床時間と重なりますので、着替え・トイレ・洗面・朝食が重なり、夜勤終了後の超過勤務が恒常化しているのが現状です。しかも介護保険から十分な人件費が施設に支給されていないこともあり、その多くがサービス残業となっているのです。

 前振りが長くなりましたが今日のテーマに入ります。

 読売新聞 2006年7月29日・・・・政府の規制改革・民間開放推進会議(議長・宮内義彦オリックス会長)の中間答申案の全容が28日、明らかになった。一層の少子高齢化に備えるため、外国人労働者の受け入れ拡大を求め、新たな分野として、社会福祉士と介護福祉士を明記した。・・福祉士については、今後、需要が高まることが予想されるため、政府は外国人受け入れを前向きに検討する考えだ。

 ・・外国人労働者の受け入れは、出入国管理・難民認定法に定めた在留資格に基づき、「投資・経営」「教育」など27分野に限って認めている。答申案は「高齢化社会の進展に伴い、介護分野は労働力需要が高まると予想され、質の高い人的資源を確保すべきだ」とし、新たに外国人の社会福祉士と介護福祉士の受け入れを検討し、今年度中に結論を出すよう求めた。単純労働者受け入れは従来通り、認めていない。

 ・・政府はフィリピンとの経済連携協定交渉で、条件付きで看護師と介護福祉士の受け入れで合意している。この分野は過重労働などで人手不足が深刻になっている。同会議はこうした動向を踏まえ、受け入れ枠拡大を提言した。日本の社会福祉士、介護福祉士の国家資格を取得することが前提となる。

 ・・ただ、厚生労働省は「介護分野は国内労働力でまかなえる。身分が不安定な外国人の参入は問題がある」と慎重姿勢で、今後、政府内の調整が必要になる。・・・・

 この記事には事実誤認と分析能力の欠如が如実に現れています。

 事実誤認=社会福祉士は事務系の職員であり、利用者・家族や行政との連携、調整が主要な業務であり、施設責任者が、この職種に外国人労働者を受け入れることは、現実的には考えられません。対象となるのは、実際に介護に従事する介護福祉士です。

 分析能力の欠如=フィリピンの介護労働者の多くが、カナダやシンガポールなどで働き、そのホスピタリティが高く評価されているのは事実です。しかし、受け入れの前提は日本の介護福祉士の資格をとることです。現在は、専門学校2年の課程修了に伴い、介護福祉士の資格が取得出来ますが(他にも資格取得の方法がありますが、これが一般的です。)厚生労働省は、社会福祉士同様、教育課程終了後に国家試験を課すことを検討しています。

 フィリピンの介護労働者の多くが、2年間の学校教育を受けることは、経済的に不可能です。しかも、教育が日本語で行われることを考えると、不可能の2乗とすら言えます。「規制改革・民間開放推進会議」の狙いはどこにあるのでしょうか。

 実現不可能と思える奇妙な施策が出された理由を解く鍵は「外国人研修・実習生」制度にあります。日本入国前に、介護福祉士資格を取得することは、不可能ですから、まず研修生として受け入れ、更に、実習生として、施設で働きながら学ぶ方法により、受け入れを行うのです。多分、研修・実習期間が終了するまでに介護福祉士の資格を取得する人は極めて少数の例外になるでしょう。

 結局は、短期間の低賃金単純労働者として受け入れを行うのです。他の業種では、100時間以上の残業を行いながら、一月の給与が3万円という事例も存在します。福祉業界がどのような対応をするのかは不明ですが、フィリピンの介護労働者がこのカラクリを知った場合、どのような気持ちになるのでしょうか。多分、日本人職員以上に働く、彼ら、彼女らが、その差別に対してモラルハザードを起こさないという保障はありません。悲しい記事が出ないことを期待するだけです。

(8月7日 上泉)


熟読玩味(14)「仕事・育児両立へ基本法?」

 少子高齢化が問題となってから、相当な時間が過ぎました。その間、行政は有効な対策を打ち出したとは評価できません。猪口少子化担当相がトップを努める「少子化社会対策推進専門委員会」は、「経済的支援」を重視する猪口担当相と、それに偏ることなく「働き方の見直し」や「地域・家庭の子育て支援」を推進すべきであるとする専門委員の対立が先鋭化して、猪口担当相が5月18日に「経済財政諮問会議」に示した「新たな少子化対策」に対して「環境整備を重く見る」6専門委員が、委員会の討議を踏まえていないとして、抗議声明を出す展開となりました。

 その中で、公明党が「仕事と生活の調和推進基本法案」の策定作業を行って、自民党とのすり合わせを経て、秋の臨時国会に議員立法で、提出の構えを見せています。骨子は、「企業に行動計画の策定を要求、実施状況を公表する」ですが果たして実効性があるのでしょうか。

 日本経済新聞(夕刊)2006年7月24日・・・・企業が作成する行動計画の項目としては、家庭に乳幼児のいる労働者の残業抑制や男性の育児休業取得促進策などを検討している。企業によって内容に大きなばらつきが出るのを防ぐため、国や自治体が事前に行動計画づくりの指針を示す。

 行動計画を達成できなかった企業への罰則は設けないが、実施状況を毎年公表することで、企業側が真剣に努力するよう促していく。基本法では、両立支援を促すため、省庁間の調整を担当する推進会議を内閣府に設置することも盛り込む。

 少子化対策に関しては国の基本理念を示した「少子化社会対策基本法」と、具体策を盛った「次世代育成支援対策推進法」がある。夫婦の共働きが増えるなか、新たに仕事と家庭生活の両立支援の理念を定めた基本法が必要と判断した。

 基本法制定を通じ、労働基準法などの個別法の改正も目指す。育児期間中の従業員に残業時間の上限を設け、違反企業に司法の判断で賃金と同水準の付加金支払いを命じられるようにする案などが浮上している。子育て支援の実績に応じ、企業への助成額に差をつけることも検討する。

 育児期の従業員による在宅勤務について、労使間であらかじめ合意した時間だけ働いたとみなす「みなし労働制」を認める措置も、検討課題になる見通し。現行ではみなし労働制の適用を研究者や弁護士らに限っている。・・・・

 「家庭に乳幼児のいる労働者の残業抑制」や「男性の育児休業取得促進策」は各論としては推進すべき施策ですが、もう少し詳しく、前提条件、即ち「職場」の状況を検討する必要があります。

 まず、この法案は、企業に行動計画を策定することを求めるものであり、罰則規定のない法律であることです。実施状況の公表に敏感な企業は、既に、何らかの施策を実施している企業が多数と考えられますし、業績回復が遅れている企業は、行動計画策定の余裕はないものと思われます。つまり、一部の大企業や、好調企業を中心とする対策になることが予想され、本当に対策が必要とされる企業には浸透しないものと考えられます。

 個別企業の状況を見ても、30代、40代の男性社員の長時間残業は一向に改善されていません。公務員を除けば、男性社員の育休取得は、いまだに極めて例外的です。「男性社員の育休取得」や、「家庭に乳幼児のいる労働者の残業抑制」は、同じ職場の社員の残業時間増に直結することが予想されます。

 朝日新聞 2006年8月2日・・・・日本の父親が平日に子どもと過ごす時間は1日あたり3.1時間で、海外5カ国と比べると韓国に次ぎ下から2番目だったことが、「家庭教育に関する国際比較調査」でわかった。その時間の短さに悩む父親は41.3%で、10年あまりの間に13.7ポイント増えた。他国と比べると、1週間の労働時間が最長で、子どもの食事を世話する父親の比率が極端に低いこともわかった。

 それによると、日本の父親が平日に子どもと過ごす時間は、94年の調査より0.2時間減った。2.8時間の韓国に次いで2番目に少なく、最長のタイと比べると2.8時間の開きがある。時間の短さに悩む父親の比率は韓国、スウェーデンに次いで3位。94年と比べて大幅に比率が下がった米国などとは対照的に、割合が増えた。

 1週間あたりの平均労働時間は48・9時間で、6カ国でトップだった。しつけや保護者会への参加など、育児の母親まかせも目立つ。とくに、子どもの食事の世話をする父親は10.1%と、5位の韓国(20.4%)の半分以下だった。・・・・
 
 注意すべき点が二つあります。(1)1週間の労働時間には、サービス残業が含まれていません。7月14日の朝日新聞によれば、正社員の42.0%が不払い残業をしており、平均は月、34.5時間です。(2)通勤に要する時間が最も長いのは、日本であると思われます。又、通勤による疲労度も最も高いものと思われます。

 公明党案は、育児の担い手が「妻」であるというジェンダーに基づくものであることが窺がえます。一部企業では、「家庭に乳幼児のいる(女性)労働者の残業抑制」は、既に実施されているでしょう。又、職場内での相互扶助的な観点から、制度外で、行われている例もあるでしょう。企業の行動計画としては、取り組みやすい施策です。

 企業は、業務命令を出せば良いのです。どのように、欠けた業務時間を取り戻すのかは、現場まかせで良いのですから。又、サービス残業が恒常化している企業であれば、(給与の低い女性社員の業務を相対的に給与の高い男性社員が肩代わりすることにより発生する)経費も不要です。ホワイトカラーエグゼンプションが導入されれば、「不払い残業」の「負い目」もなくなります。

 しかし、それが少子化対策に繋がるのでしょうか。極めて部分的な影響しかないものと思われます。育児・家事が全て、「妻」の負担となることを嫌悪して、結婚しない、子どもを生まない女性が多いのですし、一人の子育てを経験して、もう嫌だと思う女性も多いのです。

 少子化対策で、「働き方の見直し」を検討することは極めて重要です。しかし、それは、「家庭に乳幼児のいる(女性)」だけの問題に限定されてはなりません。彼女らのパートナーである男性社員は勿論、職場の全員の「働き方の見直し」が必要なのです。労働基準法の見直しが先行して、初めて、少子化対策が機能するのです。

(8月4日 上泉)


熟読玩味(13)「水俣病懇談会の迷走」

 「水俣病」発生から、今年は50年の節目にあたります。「公害」という言葉が定着したのは、「水俣病」の問題が契機です。成長志向一本やりであった日本の企業が、初めて、環境の問題に直面したのが「水俣病」です。しかし、50年を経過した今日、水俣病は、依然として新しい問題であり続けています。今なお、40代の人たちを中心に子ども時代に食べた不知火海の魚から体内に蓄積されたメチル水銀により、病を訴える人たちが後を絶ちません。

 大きな問題が二つ残されています。一つは、「水俣病」とは何か、明確な定義がいまだに打ち立てられていないことです。このため、2万人とも言われる被害者の内、行政が「水俣病患者」として認定したのは、3千人に過ぎません。感覚障害に難聴や視野狭窄などの症状が重なって初めて認定基準に達するというのが、行政の見解ですが、その見解は、2001年大阪高裁判決で、覆され、最高裁もこれを追認しています。

 もう一つの問題は、あまりにも複雑化した被害者救済制度であり、制度から落ちこぼれた被害者が多数存在することです。「水俣病」健康被害が、これほどまでの規模に拡大したのは、行政の対策の立ち遅れであることは、既に明らかです。現在のアスベスト健康被害問題で、しばしば指摘されてきた「行政の不作為」がここでも見られます。「水俣病」発症原因は、チッソが、メチル水銀を垂れ流したことが第一ですが、行政の責任も無視できません。

 何より、現実に、被害者が存在するのであり、その救済を一義的に考えるべきことは明らかです。刑事裁判では「疑わしきは罰せず」が基準ですが、公害問題では「疑わしきは救済する」を基準にすべきです。

 小池環境相は、私的懇談会を組織して、今年の5月1日の水俣市で開催された慰霊祭で「水俣病の発生・拡大を防止できなかった「失敗の本質」を提言にまとめ「悲劇を二度と繰り返さない」と宣言する筈でした。しかし、この懇談会は迷走を続け、現在に至っても「提言」を取りまとめるに至りません。

 以上、毎日新聞(4月26日〜5月3日)の記事を参考に、経過を纏めましたが、懇談会の現状については、朝日新聞の報道に基づき検証しましょう。2006年7月25日・・・・
 環境相の私的懇談会「水俣病問題に係る懇談会」(座長・有馬朗人元東大学長)が、最終報告書をまとめられない状態が長期化している。現行の認定基準でこぼれ落ちる被害者を救済する新たな仕組みを提言したい委員側と、救済制度に触れられたくない環境省。折り合える着地点は、なかなか見えてこない。(庄司直樹、沼田千賀子)

 ・・最終報告書の草案をつくる起草委員3人と、懇談会事務局の環境省職員らが顔をあわせた。起草委員の一人でノンフィクション作家の柳田邦男氏が配った草案の最後の部分を見た職員らの手が止まった。今の認定基準に代え、新たな診断指針をつくると記してあった。診断指針は、水俣病の症状を広くとらえ、より多くの人を救済する狙いがある。「絶対に、認定基準に触れないで下さい」「この線は譲れない」。双方、約7時間の押し問答の末、物別れとなった。

 ・・報告書の内容に環境省が神経をとがらせるのは、補償・救済制度全体の見直しにつながりかねないからだ。現在の制度は、法律に基づく認定基準を土台にして、長年かかって複雑に組み上げられた。委員らは、いまだに救済を求める人が絶えない現状の打破には、仕組みの大胆な改革が必要との思いを強めてきた。

 ・・国、県とチッソを相手取り損害賠償訴訟を起こしている水俣病不知火患者会の大石利生会長は、環境省が横やりを入れるなら、懇談会をつくった意味がないと批判する。「急いでも仕方ない。すべての被害者救済につながる提言を期待する」・・・・

 私的懇談会の持つ意味を考えて見たいと思います。私的懇談会に最も期待される機能は、「真実の追究」と「被害者救済」にあります。慰霊祭で、小池環境相が「いい格好する」ための懇談会であれば、時間の無駄、公費の無駄です。そのためであれば、彼女自身が書けばいいのです。元東大学長、元最高裁判事や、著名ノンフィクションライターの柳田邦夫氏まで集めた懇談会を官僚の作文の追認機関として利用するのはまさに「私的」利用です。

尚、小池環境相は、健康上の理由で慰霊祭を欠席しています。

(8月2日 上泉)


熟読玩味(12)「過労自殺・・・労働時間規制」

 戦後の精神保健福祉施策は、1950年制定の「精神衛生法」からスタートしましたが、この法律は、戦前の「精神病者監護法」の流れを汲む、精神障害者を社会から隔離する(強制)入院手続法の色合いの濃いものでした。報徳会宇都宮病院事件(入院患者2名が看護職員の暴行により死亡した)を契機に1987年に「精神保健法」が制定されました。しかし尚、精神疾患に関する理解は薄く、適切な治療を行えば、入院の必要もなく、通常の社会生活の維持が可能な「うつ病」も、放置されたままとなることが多いのです。

 治療を受けずに放置すると「うつ病」は死に至る病となります。発病の原因の多くは、過度の疲労、睡眠不足、ストレスであると言われています。又、「うつ病」は、発病初期に「自殺」に至る場合が多いのです。多くの専門医は、「うつ病」による自殺は、適切な治療を受ければ、ほとんどが避けることが可能だと言います。(「うつ病」についての説明は・・Dr.林の「こころと脳の相談室」を参考にしました。)

 朝日新聞 2006年7月13日・・・・富士通社員自殺 一転、過労死認める 厚木労基署 労災棄却で係争中

 02年3月に自殺した富士通社員の神奈川県厚木市の男性(当時28)について、労災申請を却下していた厚木労働基準監督署が再調査の結果、自殺直前の過労が判明したとして先月末に一転して労災を認めたことが12日、わかった。遺族の代理人の川人博弁護士によると、男性は00年4月に入社し、医療事務ソフトの操作マニュアルの作成を担当。02年3月20日に自殺した。

 遺族は過労が原因だとして同年9月に労災申請したが、同労基署は業務による強いストレスがあったとは認められないとして04年11月に不支給を決定。神奈川労働局への審査請求も棄却されたため、遺族は国の労働保険審査会に再審査請求し、昨年12月、東京地裁に決定取り消しを求める訴えを起こしていた。

 認定の理由について同労基署は、裁判に伴う再調査の結果、(1)直前1カ月の残業時間が当初118時間とされたが、実際は159時間だった(2)過労により、直前に精神疾患を発症したとみなすべきだとわかった、などと遺族に説明したという。男性の父親(65)は会見し、「4年もたち、訴訟まで起こさないときちんと調査しない労働行政とは何なのか」と話した。

 過労による労災認定は脳・心疾患の場合、「発症直前の1カ月に残業が100時間を超える」などの基準が示されているが、うつ病などの精神障害の場合、仕事の変化や人間関係などを総合的に判断するとして明確な基準がない。認定率(05年度)も脳・心疾患の44.1%に対し、28.3%と低い。川人弁護士は「明らかな長時間労働でも、精神疾患では認定されないという現象が起きており、厚労省は基準を見直すべきだ」としている。・・・・

 男性は、3月17日に急性ストレス反応を起こし、20日に自殺しました。詳細は明らかにされていませんが、直前1ヶ月を31日間とすると、2月14日〜3月16日の間に159時間の残業を行っていたことになります。この間の営業日は22日間、休日は9日間です。
仮に22営業日の全て、24時まで勤務しても、残業時間は、132時間となります。休日出勤も行っていたことが想像されます。休日出勤を8時間で計算すると、この男性は3.4回の休日出勤が必要だったという計算になります。

 何故、このような悲惨な事件が発生したのか、労働法制の問題から見れば、現行の労働基準法に、残業時間の上限の規定がないからです。36協定さえ結べば、どんな長時間労働を命じても違法行為にはなりません。これが、労働監督行政の見解です。もしも、この159時間の残業を労働基準監督署が把握しても、強制力を伴う「是正勧告」ではなく、事業主の善意に頼る「指導票」を交付するだけです。

 共同通信の配信によれば、男性は1月に精神科医の診断を受け、「ずっと重圧を感じていた。死への願望がわいてくる」と述べたと言います。労働基準法が、労働時間の上限を定め、児童虐待と同じように、精神科医に通報義務を課していれば、少なくても、この過労自殺は防止できた筈です。

 一方、厚労省の労働政策審議会、労働条件分科会では、「ホワイトカラーエグゼンプション」を巡り、労使の対立が続いています。この制度は、一定の収入などを条件に、ホワイトカラー労働者を労働時間規制の適用対象外とするものです。

 毎日新聞 2006年7月28日 ・・・・「過労死・自殺 6割以上が労働時間を自己管理 専門家 規制外しに警鐘」

 ◇東京労働局管内
 東京労働局管内の労働基準監督署が05年に過労死・過労自殺で労災認定された48人について調査した結果、11人が自ら労働時間を管理・監督する管理職だったことが分かった。他の一般労働者19人も上司の管理が及びにくい状況にあり、計6割以上が労働時間を自己管理する側だった。厚生労働省は一定条件下で労働時間の法規制を外し、自ら管理する「自律的労働時間制度」の導入を検討しているが、被害実態が明らかになったのは初めて。労働専門家は「制度を導入すれば過労死が激増する」と警告している。(社会面に関連記事)

 同労働局によると、死亡した11人は工場長、店長、本社の部長など勤務時間を自己管理する立場。一般労働者でも、営業職(10人)やシステムエンジニア(5人)、現場施工管理者(4人)で、上司よりも自分が労働時間を管理する側だった。同労働局は「時間管理を任されたり、上司の目の届かない所で納期に追われるなどの形で長時間労働を重ねるケースが目立つ」と分析する。労災認定を受けた全国の過労死は05年度157件(申請336件)、未遂を含む過労自殺は42件(同147件)で、申請数はそれぞれ過去最多を記録している。

 一方、「自律的労働時間制度」(日本版ホワイトカラーイグゼンプション)は、管理職一歩手前の「課長代理」程度の社員が対象。(1)賃金額が一定水準以上(2)週休2日相当の休日や連続休暇がある――などが条件で、対象者には週40時間の労働時間規制はなく、残業代なども支払われないという。忙しい時は24時間連続して働き、そうでない時は1時間しか働かないことも合法となる。

 この新制度は、労働基準法改正に向けた厚労相の諮問機関「労働政策審議会」で論議されているが、労・使委員が厚労省の審議会運営に反発し、審議は中断している。過労死に取り組む日本労働弁護団の弁護士、棗(なつめ)一郎事務局次長は「制度導入で時間管理を外される労働者が増えれば、過労死も激増するという事態を調査の数字は示している」と話している。【東海林智】

 36協定締結の当事者である富士通の労使、労働条件分科会の各委員は、この警鐘を真摯に受け止めるべきと思います。

(7月31日 上泉)


熟読玩味(11)「日本の所得格差、米に次2番目」

 所得格差を中心とした、格差の問題が注目を集めています。OECDは、2000年の段階で、既に、日本の所得格差はアメリカに続いて2番目であると警告しました。第一次小泉内閣の発足は2001年4月26日、その構造改革路線は格差を拡大して来ました。

 朝日新聞 2006年7月20日・・・・経済協力開発機構(OECD)は20日、06年の対日経済審査報告書を発表した。所得格差問題を詳しく取り上げ「00年段階ですでに日本の所得格差は米国に次いで2番目に高かった」と指摘。その後、格差が固定化している恐れがあり包括的な対策が必要だ、と警告している。

 報告書は、所得格差の指標として生産年齢人口(18歳以上65歳以下)の相対的貧困率に着目した。可処分所得が中位置(全体の真ん中)の半分に満たない家計の割合を示す指標で、日本は小泉政権による構造改革が始まる前の00年段階で13.5%だった。OECD加盟国の中で米国(13.7%)に次ぐ高さ。3番目はアイルランドの11.9%で、日米が、ず抜けていた。

 00年当時の日本企業は景気低迷を背景にリストラを進めていた。その結果、正規労働者と非正規労働者による労働市場の二極化傾向が強まり、格差が広がった、と報告書は分析している。高齢化も一因に挙げている。・・・・

 正規労働者の減少と非正規労働者の増加の直接的な要因は企業の人件費削減施策にあります。厳しい国際競争に晒されている企業が、収益増と費用減を求めるのは企業の本来の在り方によるもので、一概に否定することは困難です。しかし、それが、企業トップの恣意によるものであることを許すならば、看過できない問題が起こることは、この間の様々な出来事が雄弁に物語っています。耐震構造設計偽造問題や、東横イン、トヨタ自動車のリコール問題など、枚挙に暇がありません。

 その一方、行政は、所得格差是正のためにどのような施策を打ち出したのでしょうか。行政が最も重い責任を持つ税制の問題から、行政の施策が、所得格差拡大を助長したのかあるいは、是正しようとしたのかを検証しましょう。日本の税制の特徴は、所得税・住民税の税率を増減させることには、極めて慎重(選挙を意識する政治家に強要されて、臆病)であり、各種の「控除」という見えにくい形で施策を展開して来ました。

 背景には気の遠くなるような財政危機があり、増税は不可避な状況ですが、消費税にもついても、所得税・住民税についても増税の主張は大きなものではありません。
 2004年1月には、所得税の配偶者控除の上乗せ部分が(最大38万円)が廃止されました。2005年1月には、65歳以上の高齢者を対象とする所得税の老年者控除(50万円)が廃止されました。6月には、住民税の配偶者特別控除の上乗せ部分が廃止されました。2006年6月には65歳以上の住民税の老年者控除(48万円)も廃止されました。

 話題がそれますが「老年者」という響きの悪い言葉を何故使用するのでしょうか。テレビで、お年寄りを「老年者」と表現したら、抗議の電話が殺到するに違いありません。「高齢者」という表現が一般的になっているのですから、すぐに是正すべきです。

 「控除」が所得格差を是正するのか、拡大するのか、数字を使って検証しましょう。年収700万円のAさんと、300万円のBさんを例にして、2人の年収の平均額550万円の3%・2%・1%である、165,000円・110,000円・55,000円を控除額として減税額を計算してみましょう。

 いずれの場合もAさんの減税額がBさんを上回ります。結論は、現在の税制では、控除の制度にひずみが存在するのです。この例は、年収700万円の税率が20%、300万円の場合は10%によるのですが、控除がなくなると、いずれにしろ、増税となり、増税の影響をより強く受けるのは言うまでも無く低所得者層です。

 これまで優遇されてきたとされる高齢者の場合、様々な控除が廃止されていますが、富裕層より低所得層に影響が大きいことは明らかです。

 このほか、利子所得や、(一定の)抵当証券の利息などには源泉分離課税制度があり、富裕層のみが利用できる制度です。又、住宅ローンの減税制度も手厚い内容ですが、(今後10年で減税幅が縮小されてゆきますが)貧困層には無関係な制度です。

 このように政治・行政が格差拡大を行ってきたことは、税制の面でも歴然たる事実なのです。弱者切捨ての施策といえます。取りやすいところから取る施策ともいえます。Aさん、Bさん各々の立場に立って、計算してみて下さい。

(7月27日 上泉)


熟読玩味(10)「教育の場は今、教員免許更新制は機能するのか」

日の丸、君が代問題で揺れる教育の場に、又、新たな火種が発生しています。これまで終身有効だった教員免許を10年を期間とする更新制にするという答申が中央教育審議会から提出され、文部科学省は導入準備に入りました。

 日本経済新聞 2006年7月12日・・・・中央教育審議会(鳥居泰彦会長)は11日、教員免許に10年の有効期限を設ける免許更新制の導入を柱とする最終答申を、小坂憲次文部科学相に提出した。現職教員約110万人を含む約500万人の免許保有者全員が対象。文部科学省は来年の通常国会に教員免許法の改正案を提出する方針で、教員の資質向上のための総合的な改革を進める。

 答申は免許更新制の導入、高度な専門性を備えた教員を養成する「教職大学院」の設置、大学の教職課程の充実などを盛り込んだ。更新制は幼稚園や小中高校の教員免許に10年の有効期限を設け、都道府県の教育委員会や大学が行う30時間の「更新講習」を修了した場合に限り更新を認める。講習を受けなかったり、修了したと認められなかった場合、免許が失効する。教員の能力向上とともに、指導力不足の教員をふるい落とすことも狙う。

 審議の過程では、終身有効を前提に免許を取得した現職教員への適用に反対する意見も出たが、「更新制導入の目的が実現できない」として適用に踏み切った。・・・・

 教員の研修制度充実の必要性は、これまでも論議されて来ました。特に、LD(学習障害)やADHD(多動性障害)などについては、この間、医療・福祉面での研究や先駆的な実践活動も進み、又、日本語の出来ない外国人の子供たちへの対応、IT技術の飛躍的な進化への対応など、研修課題は多岐にわたります。

 研修制度の充実は実現すべき課題です。幸いなことに学校には夏休みが存在するのです。その機会を活用して、公費を投入し、研修機会を作るべきと思います。又、教育現場の実情では、日常の業務や、クラブ活動、生活指導に追われ、日々の研鑽の機会が奪われているとの話しもあります。

 しかし、中教審の答申は、10年に一度の大学などでの30時間の講習です。どのような講習を実施しようとするのかは明らかではありませんが、10年に一度の講習では、教育のニーズの変化に対応した講習が出来るわけはありません。

 又、こうした研修制度が、教員免許更新の要件として、教員に課せられるのは、研修目的以外の目的が隠されていることを窺わせます。朝日新聞 7月20日の紙面で勝野正章さん(東大大学院助教授)は更新制について次のように述べています。・・・・答申によれば、教員としての評価がよければ講習は軽減でき、逆に講習の結果がよければ評価に反映される。そうなると、自主研修の余地はどんどん狭められる。

 また、更新制は「他の教育政策と一体的に推進する」と書かれている。国主導で教員の養成や専門性の中身をチェックしようとすることは戦後なかった。非常に大きな転換だ。今後、教育基本法が改正されれば、それに盛り込まれる教育振興基本計画の中で、教育の国家目標などが定められることになる。それを疑ったり、批判したりする教員は、更新制と相まって排除されていくことになるだろう。

 更新制が「適性を欠く」などの理由で下される分限処分や懲戒処分の「安易な代替策」として打ち出されているのも疑問だ。現場教員だけでなく、これから教員になろうとする人も含めて身分の不安定化をもたらすことは確実だ。分限や懲戒処分には厳格な要件と手続が必要とされる。一方、更新制では「能力が足りない」ということで免許が失効されるからだ。・・・・

 教員は「聖職」か「労働者」なのかという議論が存在していました。しかし、教員が給与で生計を営む以上、その労働者性は明らかです。「期間の定めのない雇用」である筈の、教員が10年間の有期雇用になろうとしています。これは明らかに「労働条件の不利益変更」です。企業が、従業員の「能力」に不満を持つ、その理由で解雇や、雇止めが許されて良いのでしょうか。中教審は、労働法制との関連でも見解を明らかにすべきです。又、その他の免許制による職種、医師、看護士、法曹関係者などとの免許更新の整合性も併せて検討すべきです。

(7月26日 上泉)


熟読玩味(9)「パラサイトシングルは何故増えるのか」

 国立社会保障・人口問題研究所が2004年に実施した「世帯動態調査」の結果が最近発表されました。「世帯動態調査」の問題意識は・・・・日本は人口減少の時代を迎えようとしている。それに伴い急激な高齢化が進行しており、いわゆる団塊の世代が65歳に達する2010年代にはいっそう加速するだろう。男女関係の変化に伴い、晩婚化・未婚化が進み、離婚率も上昇を続けている。

 これらの変化は、世帯の規模と構成、形成過程と解体過程に大きな影響を与えていると考えられる。増加する高齢者人口の家族関係と世帯構成の変化、ひとり親と子からなる世帯の増加、未婚のまま親と同居を続ける若・中年層の増加などは、学術的にも行政的にも重大な関心事である。「世帯動態調査」はこうした世帯変動の現状を把握し、また将来の動向を予測するための基礎データを得ることを目的としている。(結果の概要[要旨])・・・・

 調査報告は、基礎的なデータの分析を中心として30ページの資料であり、世帯の変化を各世代や、家族構成ごとに分析して、問題点の抽出を試みたものです。では、朝日はこの調査をどのように報道したのでしょうか。

 朝日新聞 2006年7月22日 ・・・・「親と同居 20代後半男性の64% パラサイト増える?世帯人数は、2.8人 04年」

 1世帯当たりの規模が2.8人と過去最低になったが、男女ともに親と同居する「パラサイトシングル」が増加していることが国立社会保障・人口問題研究所が04年に実施した世帯動態調査でわかった。

 調査は5年に1回行われ、今回は全国の1万711世帯から回答を得た。世帯規模は94年の3.1人、99年の2.9人と減少を続ける。2人世帯が28.7%と前回調査よりも3.1ポイント増加する一方で、4人世帯は18.1%と2ポイント下がった。1人世帯は20.0%で前回調査とほぼ同じだった。

 だが、親と同居している子どもの割合は増え続け、25〜29歳では男性が前回よりも5・7ポイント増の64.0%、女性が4.8ポイント増の56.1%が親と同居する。30〜34歳でも男性の45.4%、女性の33.1%が親と同居しており、その多くが独身で親から家事や住居面での支援を受ける「パラサイトシングル」と見られる。同研究所では「未婚化、晩婚化で家を出る時期が遅れているほかに、独立したくても経済的に安定せず、親との同居を余儀なくされている若い世代も多いのではないか」と分析する。・・・・

 一方、高齢の親が子どもと同居する割合は初めて5割を下回った。18歳以上の子を持つ65歳以上の親のうち、子どもと同居している人の割合は94年は58.3%、99年は52.1%だったが、今回は48.1%だった。・・・・

 朝日の記事は「世帯動態調査」を正確に伝えるものでは、ありません。親と同居している子ども割合の増加は事実ですが、「世帯動態調査」には、「未婚化、晩婚化で家を出る時期が遅れているほかに、独立したくても経済的に安定せず、親との同居を余儀なくされている若い世代も多いのではないか」という記述は見当たりません。取材の結果、この発言を引き出したものと思われますが、調査そのものと、それに対するコメントは誰がこのコメントをしたのかを含めて、正確に記事にするべきです。

 又、「親と同居している子ども割合の増加」と、1人世帯が増加していないことの関係は相反するものです。前回(1999年)の調査で、親と別居人たちのある部分は、1人世帯となるわけですから、これを相殺する何らかの要因がある筈です。報告書を当たれば、高齢者の単身世帯の増加がその理由であることは、すぐに明らかになる筈です。パラサイトシングルの増加より、はるかに具体的な政策対応が必要な問題です。高齢者控除の見直し、国民健康保険料の増額などが、高齢者の生活を直撃しています。しかも現状は、まだ激変緩和のための特別控除がありますが、2年後には本来の負担が突きつけられることになります。

 「パラサイトシングル」の増加は事実でしょう。しかし、この分析を「未婚化、晩婚化で家を出る時期が遅れているほかに、独立したくても経済的に安定せず、親との同居を余儀なくされている若い世代も多いのではないか」のコメントの引用だけで片付けるのは安易に過ぎると思います。非正規労働者の増加、低賃金のために、独立した生計を営むことが困難である人たちも存在します。他方、長時間労働の結果、交際の機会もなく、結婚への意欲もなく晩婚化している人たちも存在する筈です。又、同僚男性の長時間労働の現状を知るにつけ、家事や育児の責任を負いたくないという理由で結婚を選択しない女性たちも増えているのではないでしょうか。

 公表された資料を、充分に読み込むことなく、自分の興味のある問題と強引に結びつけ記事を書く、デスクもそれを許容するとしたら、報道とは言えません。

(7月25日 上泉)


熟読玩味(8)「労使論議 どっちもどっち」

 ホワイトカラーエグゼンプションの導入を最大の対立点として、厚生労働省労働政策審議会、労働条件分科会で、契約労働法制・労働基準法改正問題の議論が続いています。厚生労働省が、これまでの討議内容を取りまとめた素案に労使双方が異論を唱え、現在審議が中断しています。

 日本経済新聞 2006年7月19日・・・・労使の委員が「素案は議論を十分反映していない」と不満を示し審議会の一時中断を決めたのが6月27日。以来、厚労省が労使と水面下で交渉を続けている。ただ川崎二郎厚労相は18日の記者会見で今夏の決着は困難な情勢になったとの認識を示した。

 厚労省の素案のうち「月30時間を超えた残業時間に対し、割増率を現状の25%から50%に引き上げ」などに対し、企業側はコスト増を警戒し猛反発。逆に労働側は「時間概念で労働を縛らない新しい働き方の創設」などの文言に労働強化を助長すると懸念を表明している。

 事態を打開するため厚労省は今月中に「有識者の委員(公益委員)と企業側委員」「公益委員と労働側委員」の二つの会談の場を設け、労使の委員から直接意見を聞く方針。会談では今後の議論の進め方を協議するほか「労使委員の意見を集約し、新たな素案作りも視野に入れている」(厚労省幹部)。会談の具体的日程は今後詰める。・・・・

 厚生労働省の審議の進め方が性急に過ぎるのが理由という見方もありますが、これまでの審議の経過を見ると、厚生労働省、労使双方が問題の本質を見失っていることが、最大の原因であろうと思われます。即ち、基本的な前提条件の分析が欠落しているのです。

 第一には、労働時間の規制は、一義的には、労働者の健康を確保する、過労自殺や過労死を防ぐために行われる必要があります。ワークライフバランスが問題にされる今日においては、健康のみならず、労働者の正常な社会生活と家庭生活を守ることが必要です。労働者は、配偶者を持ち、子どもを持つことは当然であり、労働者は、労働者としての責任だけではなく、配偶者や子どもへの責任も併せ持っています。

 現行の労働基準法による時間規制の最大の問題は、規制手法が手続面に偏り、時間外勤務時間の上限を定めていないことにあります。いわゆる36協定さえ締結すれば、月間100時間の残業を命じても違法性はありません。毎月100時間残業させても罰則はないのです。労働条件分科会の議論のたたき台となった「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会 報告書」、「今後の労働時間制度の在り方に関する研究会 報告書」には、時間外勤務時間の上限に関する記述が見当たりません。

 第二には、「サービス残業」の問題が全く、議論されていないという問題があります。「サービス残業」の問題については、5日前に次のような報道がありました。

 朝日新聞(夕刊)2006年7月14日・・・・正社員の4割超が「不払い残業」をしており、平均で月約35時間にのぼることが、労働政策研究・研修機構の調査でわかった。残業自体の多い30〜40代に目立ち、20〜30代の男性を中心に転職希望も強かった。調査は05年8、9月、20〜50代の正社員2千人と配偶者約1300人を対象に同年6月1カ月の残業の状況などを聞き、約8割から回答を得た。

 残業をしていた人は全体の約8割。平均の残業時間は、30代が最長で41.9時間、次いで40代が39.2時間だった。理由(複数回答)は、「所定時間内では片づかない仕事量だから」が最多(59.6%)だった。

 管理職らを除いた人について、残業代が支払われていない「不払い残業」時間を算出したところ、46.5%は0時間だったが、42.0%が不払い残業をしていた。平均は月34.5時間。「40時間以上」もいて、男性の30代は16.3%、40代は18.8%にのぼった。女性は20代が最多で15.7%、30代が11.4%だった。職種別では、男性は「営業・販売・接客」、女性は「製造・生産関連」の30代で目立った。また労働時間が月240時間を超える人では、20代の3人に1人、30代の5人に1人が「いいところがあればすぐにでも転職したい」と答えた。

 小倉一哉・同機構副主任研究員は「働き盛りに過大な業務量が行き、そこに成果主義が加わると、不払いでも長時間残業をしてしまうのではないか」と分析している。・・・・

 こうした極めて重要な前提条件を無視して、労働時間規制を論じても無意味なのではないでしょうか。「時間概念で労働を縛らない新しい働き方の創設」は、経団連の「ホワイトカラーエグゼンプションに関する提言」(2005年)の焼き直しです。一方、月30時間以上の残業代割り増しは労働側の主張ではなく、ホワイトカラーエグゼンプション制度の見返り策として、厚生労働省素案が捻り出したものです。

 日本経済新聞の記事は、その意味で不正確な内容ですが、ホワイトカラーエグゼンプション制度が、経団連の提言によれば、年収400万円以上、又は、全労働者平均給与所得以上の労働者のサービス残業を合法化するものである以上、「サービス残業」の問題を度外視して、報道することは、大きな問題です。

(7月24日 上泉)


熟読玩味(7)「所得格差拡大方針?政府税調、中期答申」

 政府税調の中期答申の論点が纏まり、今後の税制改革の方向性が示されました。日本経済新聞(2006年7月6日)の報道から、その問題点を検討して見ましょう。今後の税制改革の最大の焦点となる消費税率については、・・・・具体的な引き上げ幅や増税時期は中期答申に盛り込まない見通しになった。・・・・と玉虫色の結論で、経済財政諮問会議へ向けた議論を放棄し、自民税調に下駄を預ける形になる模様です。

 消費税引き上げは、少子高齢化社会の到来を受け、不可避とするのが通説であり、日経の見出しも・・・・消費税「将来2ケタも」・・・・となっています。具体的には、自民税調の主導で、消費税率を議論し、経済財政諮問会議で決着させるシナリオとなり、政府税調は、・・・・経済財政諮問会議が3日示した骨太方針原案で消費税を巡る具体案の明記が見送られ、「自民税調などがやらないことを政府税調が先取りすることはあり得ない」と判断した。(石会長)このため、中期答申では、政府税調のこれまでの議論が踏襲されるもよう。将来の消費税率は二ケタとすることや欧州並みの税率になった場合に軽減税率を導入することを改めて提言する見通しだ。・・・・と、自らの責任を投げ出す姿勢を示しました。・・・・

 政府税調は、首相の諮問会議であり、学識経験者などにより構成され、中長期的な視点で税制改革を答申する機能を持つものであるが、政府税調が税制の理念や体系、仕組みを取り扱い、自民税調が税率や課税方法を決定するという役割分担が行われています。しかし、消費税率をどのレベルとするのかは、今後の日本の税制に大きな影響を及ぼすものであり、消費税率の議論を放棄しては、中長期的な施策の立案のしようがありません。

 消費税は、高所得者にも、低所得者にも一律の税率を課すものであり、高所得者優遇施策であることは明らかです。軽減税率とは、食料品などの生活必需物資に対する税率を軽減させることにより、累進性の確保を目指すものですが、課税品目の設定など膨大な事務コストの発生が予想されます。色々な商品で、「第三のビール」現象が起こることになりそうです。

 政府税調は、中長期的な視点に立って、当面は、基礎的財政収支(プライマリーバランス)の均衡を目標値として、その為の税制度を示すべきであり、消費税増なしには、そのシナリオを描くことは困難であろうと思われます。尚、基礎的財政収支は単年度ベースのものであり、国・地方の借金残高は減少しません。「骨太の方針」によれば2011年度に単年度ベースの黒字化を実現しても、債務残高は、850兆億円となります。

 税収増は必須の課題ですから、方策を検討する必要があるのは当然ですが、所得格差の拡大が問題となっている状況下では、格差是正施策を、税制の中でどう織り込むかが重要な課題です。

 格差是正の施策としては、第一に、所得税・個人住民税の累進性の回復です。第二には、富裕層を対象とする相続税の強化です。第三には、法人税の増税です。これらは、所得格差縮小を図る施策です。必要な税収を支払能力のある層から、確保する必要があります。現在の財政状況から消費税増税は不可避と思われますが、消費税が累進性を持たないことを考えると、この施策は是非とも実現の必要があります。

 中期答申では、減価償却制度の見直しが盛り込まれる見通しですが、これは、結果的には企業優遇策ですので、これを勘案して法人税の増率を検討する必要があります。又、個人所得課税では、税額控除方式の提言を行う見通しですが、低所得者への減税効果が大きいとされる施策ではありますが、所得税の累進性の回復を図るべきです。尚、扶養控除では、ニートやフリーターを適用対象から除外することも議論するとしていますが、ニートとフリーターの相違点をきちんとわきまえるべきです。

 日本経済新聞は、税調の発表をそのまま伝えた記事を書いていますが、「骨太の方針」との関連をはじめ、掘り起こすべき問題を欠落させており、日本経済新聞としての評価を打ち出していません。消費税増税を主軸に財政再建を図るのか、所得格差是正を目指しつつ財政再建を目指すのかは、中長期的に、日本の税制の道筋を示すものなのですから、政府税調も、日本経済新聞も、自らの主張を明らかにして、説明責任を果たすべきです。

(7月21日 上泉)


熟読玩味(6)「公務員の政治活動」

 自分又は、所属する団体の意見を主張する手段の一つとして印刷物の配布、いわゆるビラ配りがあります。極めて日常的な行動です。しかし、国家公務員法では、それは違法行為と規定されています。国家公務員法制定当時には、罰則規定はありませんでしたが、労働運動弾圧のため、当時の占領軍の指示により付加されたというのが定説です。

 法律に定められた違法行為に対しては、様々な罰則規定が設けられています。しかし、軽微な違反に対しては、不起訴処分にするなどによって、罰則規定が適用されないケースが多く、見受けられます。法律に規定された罰則規定と同様、起訴の確率や、裁判所の判決が、結果を予測させることによって、その行為の違法性の大きさが判断されているのです。

 朝日新聞 2006年6月30日・・・・03年の衆院選前に共産党の機関紙を配ったとして、国家公務員法(政治的行為の制限)違反の罪で在宅起訴され、無罪を主張した厚生労働事務官、堀越明男被告(52)=現・社会保険庁東京社会保険事務局勤務=に対し、東京地裁(毛利晴光裁判長)は29日、罰金10万円、執行猶予2年(求刑・罰金10万円)の有罪判決を言い渡した。被告側は控訴する方針。

 政治活動の制限を定めた同法102条1項違反で国家公務員が起訴されたのは、60年代に北海道・猿払村の郵便局職員が社会党のポスターを掲示・配布したことが罪に問われた「猿払事件」最高裁大法廷判決(74年)以降では初めてとされる。今回も猿払事件同様、政治的行為を制限し、罰則を定めた同法などが、表現の自由を保障する憲法に違反するかが争われた。

 判決は、猿払事件で一、二審の無罪判決を覆し、同法などを合憲として被告を有罪とした最高裁判決を「指導的判決として今も機能している」と支持。国公法などは合憲と判断した。そのうえで堀越事務官の行為を検討。「公務員の政治的中立性を著しく損なう」と指摘した。

 ただ、勤務時間外の休日に、職場と離れた自宅周辺で配布したことを踏まえ、「配布行為で職場に悪影響が出たことはなく、直ちに行政の中立性を侵害したものではない」と述べ、執行猶予つき判決を選択した。裁判では、警視庁公安部の捜査員が堀越事務官を長期間尾行し、ビデオ撮影したことも明らかになった。判決は、配布と関連の薄い党事務所への出入りについては「犯罪を立証する上で重要とは言えず、撮影は限度を超えている」と述べ、違法と指摘した。・・・・

 猿払事件判決は、1974年、実に32年前の判決です。時代も大きく変化しています。匿名で、電子メールを使い、自分に意見を主張することも容易に出来るようになっています。政党の機関紙を「勤務時間外の休日に、職場と離れた自宅周辺で配布した」ことに違法性を持たせるのは不自然です。判決は、公務員も制約はあるが、一市民として政治活動の自由があると述べています。

 判決は、国家公務員法を合憲としていますが、公務員の政治活動の権利制限規定が濫用されていないかどうか判断を示すべきです。併せて、判決は、警視庁公安部の捜査を違法であると指摘していますが、この違法行為に対する処分はどうなるのでしょうか。警察官の違法行為であり、検察は厳しい姿勢で臨むべきことは当然です。

 朝日新聞は、7月3日の社説で、「30年以上摘発しなかったのに、なぜ起訴にまで至ったのか。釈然としない。」「今回の判決が、尾行や撮影の野放図な拡大を許すことにつながらないか。それも心配だ」と被告に同情を寄せながらも、「ほとんど無罪に近い判決である。
「裁判官が判断に悩んだ跡がうかがわれる」と微温的な発言に終始していますが、国家公務員の政治活動の制限が、どこまで許されるのかという視点は欠落しています。

 この判決が示す問題は、本来、自由な政治活動の権利を有する国家公務員が、国家公務員である故に、権利を制限される場合の許容範囲の問題として議論されるべきであり、だからこそ、被告も、ほとんど無罪に近い判決であっても控訴し、憲法判断を求めるのであり、こうした被告の姿勢を無視する朝日の社説は、厳しく糾弾されるべきものであると思われます。

(7月20日 上泉)


熟読玩味(5)「ドバイの外国人労働者」

 ドバイという国をご存知ですか、Wikipediaを検索してみましょう。ドバイは・・・・中東のほぼ真ん中に位置することや、フリーポートであることから交易の中心地として栄えてきた。特に石油の掘削を含む石油関連産業と中東における金の取引の中心地として知られている。近年は、将来地下資源が枯渇した場合に備え石油関連産業依存からの脱却を目指し、東南アジアにおける香港やシンガポールのような、中東における金融と流通、および観光の一大拠点となるべくハード、ソフト双方のインフラストラクチャーの充実に力を入れたことが一定の成果を出し、日本やイギリス、アメリカなど世界各国の大企業が進出してきており、名実ともに中東の金融センターとしての位置を占めることに成功した。

 ・・ドバイの人口は約110万人で、殆どがドバイ市内に一極集中していて、ドバイ人としてのUAEは人口の2〜3割と多数の外国人に占められている・・・・

 ドバイの人口構成は、諸外国と比較して特殊です。外国人労働者の存在なしには、都市機能は麻痺するといっても過言では、ありません。多くの外国人を移民として受け入れ、外国人と共生する新しい形の国づくりを目指しているのでしょうか。そのドバイで、今年になって、外国人労働者による「暴動」が頻発しています。日本も、少子高齢化社会に突入しており、外国人との強制は不可避の課題となっています。ドバイの例を見ながら、日本における外国人との共生の問題を考える必要があります。

 朝日新聞 2006年7月7日・・・・原油高による空前の好景気で建設ラッシュが続くアラブ首長国連邦(UAE)のドバイ首長国で、アジアからの出稼ぎ労働者による暴動が相次いでいる。その過酷な労働条件から「強制労働」「奴隷扱い」と国際的な批判を浴びるが、改善の動きは鈍い。背景に、人口の8割にまで膨らんだ外国人への強い警戒感がある。(ドバイ=吉岡一)

 ・・800メートルを超す世界一の高さをめざす超高層ビル「ブルジュドバイ」と周辺の十数棟の高層ビル群が青空を切り裂く。日中は気温が45度、湿度は80%を超える中、インドやパキスタンなどから来た数万人が月給2万〜5万円、週休1日で働く。
 恒常化したサービス残業。数百人に1台しかないタイムカードの順番待ちでも遅刻とみなされ減給。そんな待遇への不満が3月末に爆発した。

 ・・「政府の指導で1部屋4人まで」のはずが、8人。月給3万円のうち実家に2万1千円を送る。パスポートは会社が「預かって」いるという。それでも耐えるのは、故郷では月6千円稼ぐのが精いっぱいだからだ。「チャンスあふれる夢の国と聞いてきた。でも帰国したら、絶対にだれにも勧めない。インドでは低賃金でも人間扱いされるが、ここでは奴隷だ」

 ・・「アジア人労働者を人間以下に扱っている。低賃金と渡航費の借金で、債務奴隷状態だ」。今年3月、米人権団体ヒューマンライツウオッチは建設労働者についての報告書でUAEを強く非難。米国と欧州連合(EU)に改善まで自由貿易協定の交渉延期を求めた。 UAEには最低賃金制がない。労働省のミルザ法制局長は「数年前から検討している」と言うが、「賃金は市場が決めるもの。労働者は承知で来ている。いやなら帰ればいい」(労働省高官)との声が強く、実現していない。 パスポートの取り上げは本来違法だが、民間企業の75%が「横領防止」などの理由で実施しており、止める気配はない。

 改善の動きが鈍い背景にいびつな人口構成がある。国連資料によると、人口400万人(04年)のうちUAE国民は約72万人で2割に満たず、残る約8割、328万人が外国人。アジアの国が多く、02年の推計で、最も多いのはインド人で120万人、次いでパキスタン人の45万人だ。

 ・・ドバイの建設現場で働くアジア人労働者は30万人とされる。ヒューマンライツウオッチの調査では04年の建設現場での事故死は880人。地元紙によると、04年にすでにストが少なくとも24回は起きていた。今年3月と4月には相次いで暴動に発展し、別の現場で同調ストが起きるなど拡大の様相を見せる。建設機材などの被害額は100万ドル(1億1500万円)を超えているという。「長居させないため、意図的に劣悪な労働環境を維持する政策が取られてきた」と地元記者は指摘する。それが過熱する建設ブームに伴う労働者の急増で、制御し切れなくなっているようだ。

 この記事で、最も注目を要する部分は「アジア人労働者を人間以下に扱っている。低賃金と渡航費の借金で、債務奴隷状態だ」。との「米人権団体ヒューマンライツウオッチ」の指摘です。渡航費の借金の存在は、外国人労働者の受入国と送出国との間に労働力供給に関わる組織、つまり、人材派遣業者のような存在があることを示しています。供給される外国人労働者には、契約の途中放棄を行い帰国する自由は認められていないことが窺われます。パスポートの取上げがそのことを証(あかし)しています。

 途中解約の違約金も契約条項の中にあることが窺われます。外国人労働者は、違約金に対応する担保物件を持っていないものと考えられますので、受入側業者は、送出側業者に違約金の保証を求めます。では、送出側業者はどのようにして、渡航費の借金と違約金を回収するのでしょうか。暴力装置の介在なしに回収するのは至難の技と考えられます。

 ドバイの労働者の悲惨な現状に憤る時、同時に、日本で働く外国人労働者の現状を考えてみる必要があります。条件は多少違いますが、同じ構造が存在しているのです。更に、行政が国債貢献施策の一つとして進めている「外国人、研修生・実習生」の実情を考えると、ドバイの外国人労働者と大差ない賃金と労働条件に苦しむ人たちの姿を見いだすことが出来ます。特に、中国からの「外国人、研修生・実習生」の多くは、まさに奴隷労働を強いられているのです。

 近年、自動車、造船、建設などの大企業の職場でも、直接雇用主は異なるとはいえ、多くの「外国人、研修生・実習生」が、日本人労働者と全く同じ業務に従事しています。彼ら、彼女らの労働条件を注視する必要があります。

(7月18日 上泉)


熟読玩味(4)「行政の不作為」

 研究成果や諸外国の事例で、それまで、無視されて来た行為が、疾病をもたらすことが明らかになった事例は多数存在します。2005年6月の「クボタショック」に端を発したアスベスト健康被害も、1985年には、「静かな時限爆弾 アスベスト災害」(広瀬弘忠著:新曜社)により、その危険性が指摘され、行政が、必要な対応策をとるべきだったのは、明らかです。

 危険性が明らかになりながら、行政の怠慢や、何らかの思惑、多くは、産業界との癒着により、問題を放置している場合、これは、「行政の不作為」とされ、その責任が追求されることになります。アスベスト健康被害については、アスベスト新法で、周辺住民や、家族などに救済の道が開かれましたが、国はその責任を認めているわけではありません。慈善・救済という立場ですから、労災認定当事者とは、補償で大差がつくことになります。

 トンネルじん肺では、司法が「行政の不作為」を認め、国に損害賠償を命じました。

 朝日新聞(夕刊)2006年7月13日・・・・国発注のトンネル建設工事現場で働き、じん肺になった九州・沖縄・山口の元労働者と遺族ら計196人が、「国が適切な粉じんの規制をしなかったため、じん肺になった」として、国に総額約5億1千万円の損害賠償を求めた集団訴訟の判決が13日、熊本地裁であった。永松健幹裁判長(石井浩裁判長代読)は「労働大臣が60年4月以降、具体的な粉じん吸引防止策を義務づけなかったのは違法だ」などとして国の責任を認め、原告160人(患者130人)に、1人あたり183,266円〜330万円、総額約2億5930万円の賠償を命じた。

 同様の訴訟は全国11地裁で起こされ、東京地裁では7日、国の責任を認める判決が出た。この日の判決は国の責任について、「86年末ごろには適切な措置を講じるべきだった」とした東京地裁判決より踏み込んだ判断を示した。不作為責任を問う司法判断が相次いだことで、政府は具体的な対策を迫られそうだ。

 判決は、国は旧じん肺法が施行された60年4月ごろには、トンネル建設現場の労働者がじん肺を発症する危険性が高く、粉じん吸引防止措置をとる必要性が高いと認識できたと指摘。トンネル建設現場での防じん対策として、飛散防止のための散水▽衝撃式削岩機の湿式化と併せた防じんマスクの使用▽粉じんの許容濃度を設定し、事業者に定期的な粉じん測定――などを義務づける省令を制定しなかったのは、裁量の範囲を逸脱し、著しく合理性を欠き、違法だと判断した。

 国が主張していた時効については、原告らが労働大臣の不作為を知ったのは、「筑豊じん肺訴訟」の二審判決(01年)後に弁護士らの助言を受けた02年1月だとして、時効は成立しないと結論づけた。

 ・・厚生労働省が適切に規制権限を行使しなかったことが、トンネル工事でのじん肺被害の拡大を招いたとする判決が、東京に続いて熊本地裁でも出た。作業員の健康や命を守るために、国は積極的に役割を果たすべきで、怠ることは許されないとの司法判断だ。厚労省による「行政の不作為」が相次いで指摘されたことで同省の姿勢が問われている。原告側がもっとも問題にしていた粉じん濃度の測定は、金属鉱山で88年に旧通産省令で義務づけになっており、判決では「異なる取り扱いをする合理的な理由はない」とされた。

 厚労省は、掘り進むことで日々作業現場が変わるトンネル工事の特殊性を強調。「一律に規定するのは難しい」と義務づけはしない立場だ。「裁判所が言うような規制はなかなか取りにくい」。11日の閣議後の会見で、今からでも規制を強化する考えがないかを問われた川崎厚労相は、否定的な姿勢に終始した。

 同省が今も義務づけない理由について、全日本建設交運一般労組の沢田康夫さんは、「鉱山も炭鉱も主要なものが閉山し、実際の影響がなくなったから義務づけることができた。トンネルは今も工事が続くため踏み切れないとしか思えない」と効率的に工事を進めたい会社側の事情や経済効率を優先するものだと批判する。・・・・

 判決当日の夕刊記事ですので、時間的制約による限界があることは、想像出来ます。しかし、この記事にもいくつかの問題点があります。

 第一には、川崎厚労相の発言です。じん肺の問題が多発したのは、炭鉱です。炭鉱にしろ、金属鉱山にしろ、「日々作業現場が変わる」ことには変わりありません。又、(技術的に防止措置が)「とりにくい」は、許しがたい発言です。厚生労働行政の責任者の発言としては、自らの職責を放棄した発言とすら言えます。ここは、客観報道ではダメな局面です。
朝日新聞(記者)として、発言すべき場面なのです。

 第二には、補償額の問題です。判決の損害(額)の認定の正当性についても、掘り下げる必要があります。元労働者と遺族はどのような損害を受けたのか不明確なままです。最高額で330万円、その根拠は何か、明らかにすべきです。

 第三には、時効の問題です。「国が主張していた時効については、原告らが労働大臣の不作為を知ったのは、「筑豊じん肺訴訟」の二審判決(01年)後に弁護士らの助言を受けた02年1月だとして、時効は成立しないと結論づけた。」との判決は、アスベスト健康被害(すでに公害と言っても過言ではないと思います)の損害賠償請求にも大きな影響のある問題です。

続報が期待されますが、その後見当たりません。国が控訴を決定したというコメント抜きの短いベタ記事が書かれただけです。

(7月16日 上泉)


熟読玩味(3)「国民健康保険 保険料 未納問題」

 国民年金保険料の未納問題が大きく報道されました。村瀬長官の責任問題はうやむやとんなるようですが・・一方、国民健康保険の保険料未納問題も、全く異なる角度で問題になって来ました。

 朝日新聞 2006年7月4日・・・・国民健康保険(国保)の保険料の長期滞留を理由に、正規の保険証を市町村に返還させられ、代わりに「被保険者資格証明書」を交付される加入者が急増している。05年度は全国で32万世帯に上り、00年度の3.3倍だ。滞納対策の一環だが、証明書で受診した場合、医療機関の窓口でいったん医療費を全額自己負担しなければならず、受診を手控えるケースが後を絶たない。朝日新聞社の取材では、00年以降に少なくとも21人が受診抑制の末、死亡していたことが分かった。

 ・・朝日新聞社が全国約700カ所の病院などでつくる全日本民主医療機関連合会を通じ病院関係者や遺族を取材した結果、本人が生前、資格証明書や短期証による受診抑制を明確に口にしていた例は21あった。資格証明書は11人、短期証が7人、どちらか不明が3人。不況の影響や交通事故の賠償金返還などで経済的に困窮した人が多い。独り暮らしは、11人。・・開業医の6割が加入する全国保険医団体協議会(東京)が04年、17都府県で実施した調査では、資格証明書を持つ人の受診率は、一般の国保加入者と比べ1〜4%にとどまっている。・・国保の収納率は95年度の93%以来、下がり続けている。00年度91%、最新の04年度は90%だ。

 ・・05年度の資格証明書の交付世帯数は10年前の6倍の約32万。急増の契機は97年の法改正だ。滞納が発生して1年以上経過した場合、市町村に資格証明書を交付することを00年度から義務づけた。法改正当時、所管していた厚生相は、現首相の小泉純一郎氏だった。

 ・・医療費が10割負担となることで受診抑制が起きるとの批判は開始当初からある。そのため、資格証明書を交付する前には、度重なる督促、払えない特別の事情があるかの確認、弁明の機会を与える――などの手続を市町村は踏むことになっている。・・・・

 この制度は明らかに矛盾しています。金銭的に困窮している人たちが保険料を支払えない、この対策に医療機関窓口でいったん全額支払、後日、保険給付を受けるでは、まさにナイモノねだりでしかありません。資格証明書交付前の手続では、「生活保護制度」の説明を行っているのでしょうか。国民健康保険の保険料を支払う事が出来ない人たちの多くは生活保護の対象者ではないでしょうか。
生活保護法は、第25条(職権による保護の開始及び変更)で、・・・・保護の実施機関は、要保護者が急迫した状況にあるときは、すみやかに、職権をもつて保護の種類、程度及び方法を決定し、保護を開始しなければならない。・・・・と定めています。保護の実施機関とは、直接的には、福祉事務所ですが、範囲を広げて考えるならば、厚生労働省もまさに保護の実施機関であるのではないでしょうか。厚生労働省が所管する社会保険事務所が、職権保護の機会を見て見ぬフリで、放置しているのは明らかです。

 上記の記事では、伊藤周平・鹿児島大学法法科大学院教授の話として、現行制度に対する批判的な意見を伝えていますが、朝日新聞(記者)としての意思は表明されていません。何故、厚生労働省に徹底調査を求めないのでしょうか。何故、厚生労働省にこの問題にどのように対処するのか問いたださないのでしょうか。厚生労働官僚の「公平を期すため」というまさに官僚的なコメントを唯々諾々と紙面に載せ、批判の声を上げないのでしょうか。理解不可能です。

(7月13日 上泉)


熟読玩味(2)「高齢者雇用制度の死角」

 改正高年齢者雇用法が、2006年4月施行され、企業は従業員に65歳までの就労機会提供を義務付けられました。すべての企業が@定年廃止、A定年の65歳への引き上げ(@、Aの場合は、全従業員が対象となります。)B継続雇用(いったん定年退職した人を再雇用する「再雇用」と、定年になった人を雇用し続ける「勤務延長」があり、対象者は、労使協議などを経て限定できる。)の三つの方法のいずれかを選択して、2013年度までに段階的に、就労機会の提供を行わなければなりません。

 新聞報道を検証して見ましょう。日本経済新聞 2006年7月3日・・・・主要企業126社に聞き取り調査をしたところ、定年退職した従業員を再雇用する制度を導入している企業は118社で、全体の93.6%を占めた。
 一方で定年を廃止したのは日本マクドナルドホールディングスのみ。定年を65歳以上に延ばしているのは富士電機ホールディングスと名古屋鉄道の2社。定年を63歳に設定あるいは段階的に引き上げたのは三井物産、川崎重工業、青山商事の3社だった。6社のうち日本マクドナルドを除く企業は、法改正以前に制度を導入していた。
 定年を迎えた従業員の中で一定の基準を満たした人を退職させずに、継続雇用する勤務延長制度を採り入れたのも2社にとどまった。
 賃金水準では、公的給付などを除く60歳超の社員の賃金が60歳時点の何割程度かを聞いたところ「5割以上―7割未満」が最も多く、全体の36.5%を占めた。2番目は「3割以上―5割未満」の31.7%で、60歳超の社員の賃金は60歳時点の5割前後が全体の平均値になるとみられる。
 再雇用制度と勤務延長制度の対象者は、九割以上の企業が従業員も受け入れられる緩やかな条件に基準を設定していた。健康に不安がなければ対象者になる可能性が高くなっている。定年後の就労機会提供の義務付けは企業側にとって負担になるとの見方がある。
 六十歳超の従業員は在職老齢年金と高年齢雇用継続給付を受け取れる制度上の利点もある。企業は賃金を低く設定できるので、「戦力として計算できる高齢者を低コストで確保できる利点は大きい」(人事コンサルティングのマーサー・ヒューマン・リソース・コンサルティングの三条裕紀子氏)。
 団塊世代が定年退職を迎える「2007年問題」が迫るなか、新卒採用の競合が激化しており、高齢者を積極的に活用しはじめている。・・・・

 雇用法が規定する選択肢の内、雇用形態、賃金を含む労働条件を容易に変更することが可能で、かつ、労働組合等との合意が必要であるとはいえ、再雇用する従業員を篩いに書けることの出来る「再雇用」を大多数の企業が選択したことは当然の流れです。つまり、これは行政が用意した企業の逃げ道なのです。
 60歳になって、それまでと同じような仕事をするのにも拘わらず、給与は5割減でやって行けるのでしょうか?

 答えは、日本経済新聞の調査対象にあります。主要企業126社は、誰でも知っている大企業ばかりなのです。定年退職者には、充分な蓄えがあることが予想されます。又、65歳から給付される基礎年金の他に、60歳から、給付される報酬比例部分も高水準であり、さらに厚生年金基金からの給付も期待できます。定年で、再雇用され、嘱託やアルバイトなどより、新しい分野で、ボランティア活動などをするほうが気がきいているのではないかとさえ思います。

 日本経済新聞の調査は見当はずれです。本当に調査すべきなのは、65歳の基礎年金給付時までの期間に収入を必要とする、中小企業の従業員であり、非正規労働者なのです。この層の人たちにとっては、60歳以後の就労機会は切実に必要なものなのです。日本経済新聞は、調査しやすい大企業のみを調査して、中小企業を割愛しました。大企業だけのサンプル分析しても無意味なのです。中小・零細企業では、法律が施行されても、何らの施策を実施していない企業も多数、存在すると思われます。ここが、調査のポイントの筈なのです。又、非正規労働者は、「再雇用」制度の対象外とされることも予測されます。この点の調査も本来不可欠なものです。

(7月11日 上泉)


熟読玩味 「今年の夏は危ない」

 2005年6月の、いわゆる「クボタショック」から、アスベスト健康被害の問題は、マスコミの花形スターでした。石綿新法は成立しましたが、労災認定患者と周辺住民の補償額の差が大きい、又、救済対象にならない多数の被害者が存在することなどから、アスベスト問題が未解決であることは明らかです。報道量が、大幅減になっていますが、この問題に対して、報道は、まだ、真実追及と、健康被害防止のために、注力する必要があります。

 このところの新聞記事で、佐渡市立両津小学校で発生した、石綿除去作業中に粉じんが被災された問題が報道されましたが、(7月8日、毎日など)(多分発表された)事実関係だけが記事になっています。

 今、古い建築物の解体工事について「今年の夏は危ない」という警告が関係者から出て来ています。何故でしょうか。昨年6月以後、石綿除去作業の需要はうなぎのぼりの状態です。この需要を目当てに、今、多くの業者が石綿除去作業に参入してきています。僅か数時間の講習で資格が取得できるからです。当然、経験の少ない業者が石綿除去工事を行うケースが激増することになります。

 両津小学校での事故の原因の一つは、上記の記事によれば、・・・・佐渡市立両津小学校(浜田毅校長)でアスベスト(石綿)の除去作業中、児童らが吸引した恐れがある問題で、同市は7日、アスベスト飛散の原因は作業現場の除じんフィルターが目詰まりしたことを知らせるランプの点灯に、作業主任が気づかなかったためと発表した。
 市が発表した業者の事故発生報告書によると、校舎屋外に設置された3機のフィルターが目詰まりし、隔離用シート内の気圧が上昇、その圧力でシートのつなぎ目がはがれたという。作業主任は屋外でランプをチェックすべきところ、校舎内に入っていた。・・・・
ことにあります。
 毎日新聞は、「クボタショック」を最初に報道した新聞社ですし、以後もアスベスト健康被害の問題に精力的に取り組んでいる姿勢は評価できるものです。しかし、この記事では、何故うっかりミスが発生したのか(業者の経験不足か、人手不足か、)という真実の追究と、事故防止のために、行政が求められていること、発注者が求められていることを明らかにすべきです。・・・・佐藤一富同市建設部長は「目詰まりの確率が高い装置の監視を怠った。怒りを感じる」と憤った。・・・・の発言は、行政の当事者の発言としては、無責任に過ぎます。

(7月10日 上泉)


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