【 蛸 グ ラ フ 】
八方手詰まり。
 



ドラゴンエイジPure誌掲載の読みきり作品「シンデレラシューズ」の全頁解説第11回です。


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これ以上ないほどに、果てしなくネタばれなので
必ず本編を読んだあとで読みすすめてください。
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■p40,41(p186,187)

ページの制限上仕方ない面はあるんですが、こういう悪意のかたまりみたいなキャラに
物語の進行を促させるのはいかにも下手なやり方で今でもどうすればよかったか考えています。
端役ではあるんですが、何処かに人間味や愛敬を感じさせる所がないと
お話の展開がただのご都合になってしまう気がします。
特にこの漫画はおとぎ話の主役になれなかった端役の人間のお話なのでこういう所で手を抜くと
語るに落ちたっつー感じで、マズイですね。

別に嫌われ者の悪いやつは本当はいいやつだった、みたいな人情話がやりたいのではなく
端役のラベルの裏に隠された”あ、こんなやつなんだ”というほんの些細な発見でいいと思うんですが。

いま思いつく手管としては、そいつが大事にしているものをチラ見させるってのを考えています。
大事なものは別に恋人でも病床の弟でも尊敬する親分でも正義でも祖国でも何でもいいんですが、
下らないものの方がより人間味を感じさせる気がします。

物品でいえば、お金や宝石などはそれ自身で普遍的・通貨的な価値があるので、あまりパーソナリティは出しにくいですが
他人にはガラクタに過ぎないビー玉とか布きれとか鍵とか写真といったものは、
当人の思い入れや思い出によって”大事なもの”の価値を得ているわけですから
その人となりをコンパクトに表現しやすいんじゃないか、というわけです。

このシーンだと、”このオッサンそこまでエロネタが好きなら、もうしょーがねーな”的にもってく為に
えろトーク中は執拗に口髭を舌で湿する癖がある、のような生理的な描写を入れてみるとかもいけるかも、とか考えてます。

端役の描写はやりすぎるとただウザイだけなので、どこまで単純化すればいいのか悩ましい部分です。


■p42(p188)

導きの灯が消え混乱する飛行船。
街には、様々な靴を履き半身を求めてさまよう人々で満ちています。

ここは前段の「饗宴」のくだりをそのまま絵にして、
アマリを見失ったロレンゾの不安を表しています。

キャラクターが見知らぬ街をさまようシーンは僕が好んでやる手法です。
74ページの長丁場なのでここらで息を抜いてもらうパートとして用意しました。
主要登場人物の他の人々が、どんなふうに暮らしているかを類推できるようにしたほうが
社会の奥行きや臨場感がでるように思うので。
特殊な設定の箱庭世界は特に窮屈になりがちなので意図的にこういうシーンを入れるようにしています。
無論、ここらのさじ加減は作品によって大きく変えるべきところだと思いますが。


■p43(p189)

女性と男性を表すシンボルマークの間で、歩き疲れてしまうロレンゾ。
顔を上げるロレンゾの行く手をふさぐように、「饗宴」の人間分断のくだりの天幕が下がっています。

この構図は初期段階から描きたかったイメージで、
ここらへんのシーケンスはSF漫画ならではのケレン味で、描いててとても楽しい部分です。

ポスターデザインは友人のA君に無理言ってお願いしました。
一日だけでもといいながら来て貰い、泣きついて結局最後までつきあって貰うことに。
他に仕事もあるのに我ながらひでー話ですが、
いい人やってたんじゃ作品は仕上がらないのが現実でして・・・。

■p44(p190)

ファーガス邸は前のエントリで触れたグラナダテレビ版シャーロックホームズの冒険の「ソア橋のなぞ」に登場した邸宅を元にしました。
3コマめ、僕のミスでパースが妙な感じになってしまいました。
アシスタントの方はキャラを乗せるのに困ったと思います。
今だったら、キャラはデジタル、背景はアナログで合成時に調整すると思いますが、
この時はまったく余裕がありませんでした。

■p45(p191)

ディベート大会でカットした食事シーンの要素をいくつかこちらに持ってきました。
親子の朝食の食卓としてはちょっと不自然ですが、父親は肉食、アマリは菜食な品目にしました。
終盤の展開を踏まえて、父親の言動はオス的に誇張してあります。
アマリの傷についても、その原因より結果について関心を向ける描写としました。
アマリの父は「父殺し」や「王殺し」を経てこそ一人前という考えなので、徹底的にオス的な強さを求めています。
テニスの時と同様、アマリにこの世で生き抜くための術を持たせたいという親心なのですが、
年若いアマリはそれを彼なりの親の愛であるとは受け取ることができず、むしろ自らを縛る世界に復讐の念をもつに至ります。

個人的にはどんな話でも飯を食うシーンはできるだけ入れるように心がけています。
単純に旨そうな物を旨そうに食えば、読者になにかしらの刺激を与えることができるってのもありますが
キャラクターを描写する上で、食事シーンほどコストパフォーマンスの高いものはないように思うからです。

・その人物は、菜食か、肉食を好むのか? 偏食、食わず嫌いはあるか?
・偏食があるなら、その人物の過去に起因する出来事や信条・宗教が影響したのかどうか。
・カレーやハンバーグといった子供が好む食べ物を今でも無邪気に喜んで食べるタイプか。
・子供が嫌いがちな野菜や酢の物は現在では食べることができるどうか。
・体格に比して健啖なのか食は細いのか。
・食欲と心理状態はどの程度リンクされているか。食欲がないのなら体調不良なのか、心配事があるからか、同伴者が嫌いだからなのか?
・食事の仕方は上品か粗野か?焼き魚を綺麗に食べることが出来るか?箸は正しくもっているか?テーブルマナーの教育を受けた家庭環境だったか?
・食事するペースの早さは? 同伴者にあわせて食事する配慮ができるタイプか?
・その食事は何処で誰が供した物で、なにか特別な感情は込められているか、経済状態と比して無理をしたものか、安くあげたものなのか。
etc etc etc・・・

ストーリーをすすめつつも、登場人物のひととなりやそのときの心理状態などを類推させることができるので
食事シーンはとても奥が深いと思います。わかっててもなかなか自分で納得のいくシーンは描けてないのがくやしいところですが。


■p46(p192)

役員会云々は、アマリがいずれ東インド会社を引き継ぐ人材として嘱望されているのを示しているわけですが
ちょっと唐突だったなあ、と反省。
今思えば、ディベートのシーンを役員会のエピソードにすれば収まりよかったかもしれないですね。
欠席の理由もなんだか現代的でちょい違和感ありありですが、正直うまい理由が思いつきませんでした。

僕の背景指示が適当なせいで前のページであった皿の肉がぺろりと平らげたみたいに消えてますが、
面白いのでそのままとしました。

■p47(p193)

X「・・・父親仕込みすから
O「・・・父親仕込みですから
すみません、僕のチェック不足で誤植です

父がアマリの肩に手をやるさまは、旧来の友人への親愛の仕草のようでもあります。
いつかは対等、または自分越える強い男になってくれることへの期待の所作です。

最後のコマもロレンゾの肌にトーンを貼り忘れてました。
何回か見直したハズなんですが、余裕がないとこういうありえないミスがでちゃいますね。
作業終盤、僕のペンが遅れまくってトーン仕上げは最低限しか出来ないだろう、と覚悟したくらい作業は逼迫してました、、、
突貫で荒くはあるものの(あちこちでトーン処理をミスってます)、そこそこ見映えするところまで持ってけたのはデジタルさまさまです。

■p48(p194)

「あるひとが言うに」のある人とは、僕が喫茶店でネーム作業中に隣の席になってた名も知らぬおじさんです。
そのひとは歩くだけで充電できる靴というのを発明するんだとかなんとか言っていて、そのくだりででてきた言葉です。
充電靴の話はおいといて、人と動物を隔てるものは服とか火というのは聞いたことがあるんですが
靴というのは何か新鮮でタイムリーだったので使わせて貰いました。

喫茶店とかファミレスでシナリオ考えたりぼんやりしてると、たまにこういうネタが拾えて面白いです。

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