医療介護CBニュース -キャリアブレインが送る最新の医療・介護ニュース-

医師の転職ならCBネット |  医療介護CBニュース

医療羅針盤


感染症や自然災害などでの国際救援に尽力

ソーシャルブックマーク: Yahoo!ブックマークにに追加 はてなブックマークに追加 この記事をlivedoorにクリップ! この記事をdel.icio.usに登録する

【第49回】
菅井智さん(日赤国際部国際救援課長)

 激しい下痢によって脱水症状に陥り、最悪の場合は死に至るコレラが、アフリカ南部のジンバブエでまん延している。水事情などが悪いアフリカ諸国では、コレラの単発的な発生は珍しくないが、WHO(世界保健機関)によると、ジンバブエでは2月2日に患者が6万人に達し、死者も3000人を超えるなど、かつてない深刻な事態となっている。こうした中、ジンバブエ赤十字社と、「国際赤十字」のネットワークで自然災害での救援や難民支援などに当たっている「国際赤十字・赤新月社連盟」の要請を受け、日赤の医療チームが支援活動を展開している。先遣隊の一員としてジンバブエを訪れた日赤国際部の菅井智・国際救援課長に現地の様子などを聞いた。

−6万人が感染し、3000人以上が亡くなるとは、ものすごい勢いでコレラが広がっていますね。
 ジンバブエでは昨年夏からコレラの流行が始まり、2回目のピークが11月上旬に来ました。当初は、人口が密集している首都ハラレを中心とした都市部で大量に発生したのですが、その後、人の移動などに伴い、次第に地方にも広がっていったのです。昨年12月10日には、患者が2万人で、死者が900人でしたから、過去3か月間で国土全域にまん延しているといった状態です。
 アフリカ諸国は水事情などが悪く、単発的なコレラの発生は珍しくありません。しかし、アフリカ諸国全体のコレラによる平均死亡率は1−2%なのに対し、ジンバブエでは診療所などの医療施設で2.41%、コミュニティー(地域)で5.57%と、死亡率が平均の2−3倍に上るという極めて深刻な事態になっています。

−日赤では、昨年12月に医療チーム第1班を派遣するなどの支援を進めていますが、どのような活動をしているのでしょうか。
 わたしは先遣隊の一員として昨年12月15日、現地に入りました。その際、既に首都周辺の地域では、国際NGO(非政府組織)などが支援活動を行っていましたから、まずジンバブエ赤十字社などと調整し、日赤の医療チームは、同国の西部に位置し、最も大きな州病院があるマショナランド・ウエスト州ウルンゲ郡の郡都カロイを拠点に支援活動を行うことを決めたのです。
 支援に当たっては、被災者を迅速かつ効果的に救うために考案された救援資機材と専門家チームから成る「ERU(緊急対応ユニット)」を平時から編成しており、これを速やかに展開しました。日赤では、地震やサイクロンなどの自然災害でERUを派遣した実績がありますが、コレラなどの感染症対応では初めての派遣となりました。それだけ事態が深刻ということですが、現地では、コレラ患者の発生状況をはじめ、診療所などのスタッフ数、水・電気・トイレ・廃棄物処理などのインフラ整備、医療資機材の在庫や供給事情、コミュニティーの現状を調査した上で、具体的な活動目標を決定しました。翌日からは、同国保健省と共同で朝から夕方まで各診療所を回り、必要な医療資機材の供給に加え、地元スタッフに対するコレラ治療のガイドラインの説明、感染症予防のための技術指導などを行っています。

−ジンバブエ赤十字社などと共同で「コレラ治療センター(CTC)」も開設しました。
 コレラでは、激しい下痢が続いて体内から急速に水分が失われます。このため、患者の脱水症状を治療する必要があります。「経口補水塩(ORS)」や「リンゲル液」を通常は4日間ほど患者に投与することで症状は改善されます。とにかく診療所など医療機関で患者の死亡を阻止することにし、その拠点をつくったのです。
 CTCは、カロイのチカングェにある産婦人科クリニックに併設されている講堂を利用して開設しました。患者を診察する観察室をはじめ、コレラ患者専用のベッド、入院を要する重症者用の男女別病棟を設置し、受け入れ態勢を整備しました。その上で、血圧計や聴診器など医療資機材、点滴薬やORSなどの医薬品などを配置しました。
 特に重要なのは水を浄化することで、5000リットルの水タンクを用意し、ダムの水を浄化する浄水器を設けました。コレラは、コレラ菌の付いた食べ物を口にしたり、コレラ菌の混ざった水を飲んだりして経口感染するため、何よりもきれいな水を必要としていたのです。飲料水はもちろん、ORSを溶かす水などにコレラ菌が混入していれば、コレラのまん延を防ぐことができないからです。

−日赤など各国の支援で、状況は改善しつつあるのですか。
 CTCは昨年12月31日に立ち上げ、今年1月1日から稼働したのですが、患者が次々に訪れ、治療に効果を上げています。第1班は約4週間の滞在中、665人の患者の治療を支援しました。
 保健省のスタッフと共に医療資機材を診療所に供給し、また、地元のスタッフを指導することで、診療所内での患者の死亡を減らすことはできています。しかし、現地は幹線道路を除くと道路事情が悪いため、診療所まで来られずにコミュニティーで死亡する患者が少なくないのです。ほんの20キロの距離を牛車で6時間かけて診療所に運ばれた時には、患者が亡くなっているといったことが幾つもありました。
 日赤や各国の赤十字社の支援を通じ、診療所でコレラ患者に対応するための準備は整ってきました。今後は、コレラの発生を抑えるために、予防や衛生教育を含めたコミュニティーへの支援が何より重要になっています。とりわけ、コレラの感染源となっている水を浄化するなどのインフラの整備が急務です。

−今後も引き続き、ジンバブエの支援活動を展開されるのでしょうか。
 医療チームの派遣については、既に第1班と第2班が帰国していますが、第3班が支援活動を引き継いでいます。水事情が悪いため、今後もコレラの感染が拡大する可能性があります。現地の状況に応じて活動を調整していくことになりますが、コレラが発生しやすい雨季が終わる3月末までは支援活動を継続する予定です。そして、一人でも多くの患者を救うとともに、コレラのまん延防止に努めたいと考えています。

−不測の事態がいつ起きるか分かりません。そのために、どのような取り組みをされているのですか。
 何か起こったときに対する準備では、日赤には国内に92の赤十字病院がありますが、国際救援活動に人を出せる病院について、すぐに対応できるように研修したり、被災地に入ったら、どんなことに注意しなければいけないのかなどを検討したりしています。今回のジンバブエのケースでも、ERUの資機材が適当だったかの検討はもちろん、こういう物資が必要だったとか、逆に現地に持って行ったが、これは必要なかったとかを取捨選択するなど、新しい資機材の内容の検討や開発も行います。クアラルンプールにある「国際赤十字」の備蓄倉庫には、キッチンセットや毛布、テント、ビニールシートなど、「国際赤十字」が過去3、4年に対応した自然災害で必要とされた救援物資、どんな災害にも共通して使われる物資をはじめ、日赤は救援物資を備蓄しています。ミャンマーのサイクロンや中国の大地震への対応の際には、そこから物資を出すと、3日以内に現地に届けられたため、なるべく迅速に現地で必要とされる物資がタイムリーに届くように常に考えていますし、努力もしています。

−近年、地球温暖化の影響もあって、国際協力を必要とするような災害などが増えているように思われます。
 サイクロンでいうと、2005年に米国を襲った「カトリーナ」があります。しかし、毎年のように、米国のフロリダをサイクロンが襲っています。カトリーナでは、何が特別だったかというと、気候変動の影響もあったでしょうが、その強さが例年の2−3倍だったということです。昨年5月のミャンマーのサイクロンも、通常なら進まない方向にサイクロンが進んでしまった。しかも勢力が小さくならず、被害を非常に大きくしました。アフリカでは食糧危機が起こっていますが、今後さらに事態が深刻になっていくと考えられます。

−今後、国際救援活動がますます重要になりますね。
 日赤としては天変地異のみならず、直近でいうと、パレスチナ−イスラエルのような紛争における救護を含め、医療サイドの活動に取り組んできていますし、今後も取り組んでいくことを考えています。186か国に赤十字社・赤新月社がありますが、災害や紛争が多い所は、基本的にアフリカ、アジア、中東です。186か国のうち、支援を受ける国(赤十字社・赤新月社)の方が圧倒的に多くて、支援を出せるのは20−25社くらいです。その中では、アジアにおける日本ということでは、どこで何が起きても、「国際赤十字」が支援のアピールを出した場合には、パレスチナ−イスラエルの救護であろうが、今回のような感染症のためであろうが、さらには地震であろうが、すべてに対応することを考えています。

【関連記事】
コレラまん延のジンバブエで日赤が医療支援
「平成20年8月末豪雨」で日赤が救護活動
四川大地震、支援スタッフが現状を報告
ミャンマー、中国への救援金46億円超に−日赤
「岩手・宮城内陸地震」で日赤が救護活動


更新:2009/02/14 12:00   キャリアブレイン

この記事をスクラップブックに貼る


注目の情報

PR

新機能のお知らせ

ログイン-会員登録がお済みの方はこちら-

CBニュース会員登録メリット

気になるワードの記事お知らせ機能やスクラップブックなど会員限定サービスが使えます。

一緒に登録!CBネットで希望通りの転職を

プロがあなたの転職をサポートする転職支援サービスや専用ツールで病院からスカウトされる機能を使って転職を成功させませんか?

キャリアブレインの転職支援サービスが選ばれる理由

【第49回】菅井智さん(日赤国際部国際救援課長) 激しい下痢によって脱水症状に陥り、最悪の場合は死に至るコレラが、アフリカ南部のジンバブエでまん延している。水事情などが悪いアフリカ諸国では、コレラの単発的な発生は珍しくないが、WHO(世界保健機関)によると、ジンバブエでは2月2日に患者が6万人に達し ...

記事全文を読む

 石原晋さんが島根県邑南町の公立邑智病院(一般病床98床)の院長に就任して1年半がたった。当初は5割を割り込んでいた病床利用率が7割台に回復するなど、改革の成果が表れ始めている。院長としてこれまで最も重視してきたのが、「助け合い、教え合い」の精神だ。石原さんは「特定の専門分野に固執しない、何でもでき ...

記事全文を読む

口腔崩壊 〜子供と若者の口腔内に「健康格差」

子どもや若者の間で、重い場合は10歳前後で永久歯を抜歯するなど口腔内の「健康格差」が深刻化しています。「口腔崩壊」の実態に迫りました。

>>医療番組はこちら


会社概要 |  プライバシーポリシー |  著作権について |  メルマガ登録・解除 |  スタッフ募集 |  広告に関するお問い合わせ