「私は社員の結婚式に出ないが、新郎の父の長年の友人として出席した」。03年5月11日、東京・虎ノ門のホテルオークラ東京。当時キヤノン社長だった御手洗冨士夫氏(現会長で日本経団連会長)が結婚披露宴であいさつした。新郎はコンサルタント会社「大光」社長の大賀規久容疑者(65)=法人税法違反容疑で逮捕=の長男で、キヤノン社員。大賀容疑者も御手洗氏のテーブルにやってきて、知人を紹介すると笑顔を見せたという。
03年は大賀容疑者にとって特別な年だった。披露宴の5カ月後、キヤノンが大分市への工場進出を発表。大光がコンサルタント契約を結ぶ大手ゼネコン「鹿島」が大分県土地開発公社から最初の土地造成工事(約16億円)を受注した。「キヤノンと付き合いの深い大林組が本命だとみていたので、驚いた」と同業他社の当時の首脳は振り返る。
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大賀容疑者は前年から大分県湯布院町(現由布市)にあるキヤノンの社員用保養所「あさぎり館」の管理を任されていた。05年には「大分キヤノン」大分事業所(大分市)の警備業務も請け負い、06年末ごろまでに、鹿島や九電工からコンサルタント料十数億円、裏金7億円超を手にする。06年までの4年間は大光グループの絶頂期だった。
あさぎり館の隣に立つ「ふうき(富貴)の里」。約3204平方メートルの広大な敷地に、離れ風の客室や露天風呂、「1本100万円近い」(大光関係者)ワインを置く高級レストランを併設した会員制保養施設だ。経営するのは大賀容疑者が社長を務める「プライム・ヴィラ」。キヤノン幹部はここでの飲食を認め、複数の関係者も「御手洗氏が訪れた」と証言する。
御手洗氏が定宿にする大分市の高級ホテルのスポーツクラブの会員にもなった。入会金50万円、保証金100万円、年会費12万円。めったに利用せず、部下に解約するよう勧められたが、大賀容疑者は「御手洗さんと一緒に汗を流すんじゃ。そんな金もうければいい」と一喝した。
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07年12月、脱税疑惑が報じられると状況は一変した。御手洗氏は直後の記者会見で「迷惑だ」と憤り、キヤノン関連の契約は次々に打ち切られた。大賀容疑者は周辺に「(脱税は)絶対関係ねえ」と反論。昨年冬には小泉純一郎元首相とともに来県した御手洗氏の宿泊先に入手が困難な鹿児島県の高級焼酎「森伊蔵」を届けるなど、関係修復に懸命だったという。
大賀容疑者は半年前から、太陽光発電関係のビジネスに本腰を入れ始めた。しかし、業績は振るわず、側近はため息をついた。「キヤノンの関係なしではもうあかんやろ」
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この連載は大場弘行、鈴木一生、伊藤直孝、小林直が担当しました。
毎日新聞 2009年2月13日 東京朝刊