横浜・黄金町。かつて売春宿が建ち並び、夜な夜な性を求める男たちでにぎわった。警察の取り締まりで姿を変えたこの街で、田村禎史(ただふみ)さん(33)はひたすら、心の叫びに耳を傾ける。
教員を志し、慶応大文学部へ進んだ。だが、周囲では有名企業への就職のノウハウばかりが語られ、人生について語り合う友はできず、嫌気がさして中退した。それからは、医療機器の営業、屋形船の配膳(はいぜん)--。どれも納得できず、26歳で無職になった。司法書士を目指してみたものの身が入らず、自分の居場所さえ見失ってしまった。
そんなとき、父の友人に電話をかけてみた。口をついて出るのは、とりとめのない繰り言ばかりだったが、受話器の向こうで丁寧にうなずき続けてくれた。その優しさがこたえた。凍えていた心が解けていった。
「人は、人とのつながりを求めているんじゃないかな」。ひきこもりや不登校の子供たちを支援するボランティアを始め、そう感じた。心の内を語れる場所を作りたい。思いは形になった。
「話聴き舎(や)」(045・309・9926)。料金は客が決める。田村さんはただ、癒やしを求めて訪れる人の話にじっと聴き入るだけだ。【内橋寿明】
毎日新聞 2009年2月15日 東京朝刊
2月15日 | こもれび:話聴き舎 |
2月8日 | こもれび:今も残る感触 |
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1月25日 | こもれび:夢の「応援団」 |
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